第28話 幽世

「ハンフリー」

 豚の頭を完全にのせたオークと違い、鼻以外は人間的にできていて髪の毛もある。

 ちょっとした演劇場のステージに上がっている。

 イスと机が用意されて、紹興酒が置かれている。

 もはや正体を隠そうともしない。

 紹興酒をラッパ飲みしていた。

「テメェ、良くも取り憑かせてくれたなぁ」

 ジョンが怒鳴った。

 ハンフリーは意に返さず、酒をあおり続ける。

 机の反対側、ハンフリーを挟んで右手には布に隠れた絵画の様な物が用意された。

「貴様、リュウ老師をどこへやった」

 パオロンの問いに袖をめくってチラッと人面祖を見せた。

 それが答えだった。

 激高したユウリンをジオンが押さえた。

「もう、今はハンフリーでさえ、ないかも知れん」

 コイツ自身がオークの霊に乗っ取られているのか?

「霊をもて遊んだ者の報いだな」

 ヨハンが口にした。

「そこまで大物ではない」ハンフリーが口にした。「野望だけはデカかったが、自分の命が危ないとなったらすがりついてきた」霊体エクトプリズムがゆっくりと浮かび上がってきた「助ける義理などないが、お主らと話がしてみたかったのよ」

「あなたオークの魂なの?」

 メリルが聞いた。

「旧支配者なよって作られた、惑星地球と惑星パンゲアの中間に位置する、恒星のアクアゾーンに作られた惑星に旧支配者に連れて来られた。

 我らはパンゲア大陸の覇者オーク。

『神々の黄昏』と呼ばれる戦争が起き、宇宙船は破壊され地球を模した、この惑星最大のアナスタシア大陸に墜落。文明を0からやり直した。

 それはどの種族も条件は同じはずだった。

 400年前、月に不時着した、天使エンジェル達が人間に肩入れするまで、我らの方が優位に戦争を進めていた。

 女神ソフィアはオークがオークである事を罪として我らを滅ぼした。

 三日前、最後のオークが死んだ。

 我々にもう生まれ変わり先などない。

 我らはただ人を呪う怨霊となり、人間の社会を崩すのだ」

「オーク滅亡の要因を人間にだけ求めるのは逆恨みもいい所だ」ヨハンが口にした「死ぬまで戦うのは勇気の一部だ否定はせんよ、怒りと傲慢に任せて死ぬまで戦い敗北を直視しなかったのは勇気がなかったから、嫉妬を最上の美德とし、人間の長所を見ようとしなかった。オークがオークである事は罪だと言わんが敗因ではある」

「コレが人類への憎しみだ」

 カーテンをとった。

 漆黒の闇と岩肌むき出しの平原上を幾重に渡って白い霊体エクトプリズムがうごめいてる。

 あの日虐殺されたオークが苦しいと嘆く声が聞こえる。

 幽世かくりょが描かれている。

 風水師が描き、幽世かくりょに出入り口を作った。

「300年前の話、ここにいる人達は関係ないわ」メリルが怒鳴った。

 霊体エクトプリズムが絵から次々とでてくる。

 ダッキが狐火でジルが火の契約精霊サラマンダーを召喚して焼き払おうとするが耐火の魔法がかかってるか燃えない。

「メリル、パオロンの両手をくっつけて回復しろ」

 ジオンが叫ぶ。

 天井と頭上の間を霊体エクトプリズムが飛ぶ。

 メリルと手首を持っているジョンがパオロンの下にかけつける。

 チムナターは絵に結界をはり、霊体エクトプリズムがでてこぬようにした。

 十数体の霊体がすでに出てきていたが、ここに白魔法使いは1人もいない。

 誰もアンデットを浄化ピュリファインする魔法は持ってない。

 燃やして荼毘に伏せる以外は手がない。

 チムチムとユウリンはルナやマルスやメリルやジョンを守りながら、魔闘技と気功で追い払う。物理攻撃無効で、魔闘技や気功や念法や精神剣サイコソードはダメージを与える。

 ジルが火の精霊サラマンダーを呼び出し攻撃する。ダッキが狐火でエルザを守りながら攻撃する。

 ジオンもアイテムボックスから火の精霊サラマンダーの入った。精霊籠と聖水を取り出した。

 誰か取り憑かれたら頭から聖水をかけようと準備する。

 精神力の強靭さの順番は分かるらしく誰もジオンに近づかない。

 ジオンが近づけば逃げ出し、誰も精神剣サイコソードの射程に入ってこない。

 精神力が弱いのかシー・チン・ピンは狙われた。「爆炎符」と言いながら、近づいてくる霊体エクトプリズムに札をかざして爆破していた。実体がないため貼り付ける分けにはいかない。

 投げた札は貫通して、壁に引火していた。

 ヨハンとサロメが炎上した壁や天井やカーテンを「沈火」の魔法で消したり、「水創造クリエイトウォーター」て消火したりした。

「この魔女っ子が結界を解け」ハンフリーに取り憑いた一際大きな霊体エクトプリズムが結界を維持しているチムナターの首に両手を伸ばした。

 右手の次元刀に左手の魔法の杖で炎をまとわせたダビデが間に入る。

 近づく両手を火炎の刀で切った。

 切れた端から燃えて空気中で霧散する。

 ダビデが上から下へと突き刺した。

 炎を纏った刀身が消える。

 刀身がハンフリーから半身を乗り出した霊体エクトプリズムの頭部に突き刺さる。

「ぎゃー」

 苦しむ霊体エクトプリズムにシー・チン・ピンが呪符の束を投げると蜘蛛の巣状に紙が広がり、霊体エクトプリズムを取り込む。

「何をした」

 叫ぶ霊。

 見事に取り込まれて、ソフトボールぐらいの大きさの呪物へと成り下がる。

 シー・チン・ピンは拾いあげて懐にしまう。

 正気づいたハンフリーが「うわああ」と言いながら腰をぬかす。

 部屋に充満していた悪霊イービルスピリットは片付いた。

 親玉を失いでてくる気配がなくなったのか、チムナターが結界を解いた。

 雲のような霊が動くだけの幽世の絵になった。

「後で封印をほどこそう」

 ヨハンが口にした。

 全員の視線がハンフリーに集中した。

「俺はヤツに取り憑かれたんだ。

 だんだん心が消えていったんだ」

「心がないのは、心が腐るより、よほどマシな状態だ。

 リュウ老師を殺害し、我らを謀った罪は万死に値する」

 両手をくっつけたばかりでまだ動かない。

 それでもけじめをつけるべくパオロンは1人前にでる。

「ヒャアアアア」

 ハンフリーは4つ足になって後の鏡まで逃げた。

「次元回廊だ。異空間につながっている」

 ヨハンが叫んだ。

 鏡から光が漏れハンフリーが中に入り落ちていく。

「逃がさん」

 パオロンが飛び込む。

「どんな罠があるか分からんぞ」

 ジオンが叫んだが、パオロンも鏡の中へと消えていく、そして門が閉じるかのように光が消えた。

「パオロン」

 ユウリンが鏡に触れた時、そこは鏡面だった。

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