第25話 なぐりこみ

 とにかくチムナターが世界の危機だと騒ぐから、そのままの足で幫の根城に殴り込みをかける事になった。

 時間を置けば人は憑依され、女は意思もなくレイプされる。

 明日になるのを待てばと思わないでもないが、小道具屋を起こしで、魔力回復のエリクサ・ポーションや体力や精神力や疲労回復ポーションをそれぞれ買った。

 金はジオンが持ちだすことに。

 チムチムにデモンメイルの胸当てをつけた。

 受ければ酸がとんで武器を壊す。

 着ける時に乳首に当たって「アン」と感じている。

 メリルがコレを機にビキニアーマーか何かつけて下着を身につける習慣を教えたらと提案してきたが、アレは王族がカリスマをあげるのに使用するのであって持ってないと言われた。

 オリハルコンの胴当てもつけた。タイミングよくオーラを発生させればマジックアイテムを破壊できるソフィアの賜り物。

 両方をつけるのにチムチムもジオンも抵抗がない人種だった。

 チムナターがぐびぐび呑んで魔力の回復に努めた。

 もう10本目ぐらいか。

 そんなに呑んで魔力酔いとか高揚感でおかしくならないのかと心配したが「大丈夫、大丈夫。王族がケチ臭い心配すんな」とろれつが怪しい。

「本当にこの道正しいの?」

 メリルが聞いた。

「飛んで来たから地図の詳細はわかんない。

 でも、だいたい。

 こっちの方角。

 あってる。あってる」

 キャラキャラと笑った。

「どうやら正しいようです。

 取り囲まれました」

 森の番人ドライアドのエルザは常時生命探知の魔法が働いている。

「矢は風の精霊シルフの力でどうにでもなるが、鉄砲がでてくるとやっかいだ。

 とりあえず壁を背にしよう」

 狭い路地に逃げ込める場所で歩みを止めた。

「いるのは、分かっている。

 出てこい」

 ジオンが叫ぶ。

 1ブロック離れた路地からバンデットアーマーを着た1人の男が歩いて、正面に立つ。

「用があるのは、魔女っ子だけだ。

 ソイツを渡せば残りのヤツは見逃してやる」

「お前たちは騙されている。

 リュウ老師はもう死んでいて、ハーフオークのハンフリーと入れ替わってある。

 ヤツの狙いは幫の全員をオークの魂に憑依させることだ、もはや幫ではおさまらない、国家規模の陰謀かもしれない」

 バンデットアーマーの男はニタリと笑った。

「それを話したら皆殺しにしなきゃいけないじゃないか」

 コイツ。

 もう、憑依されている。

「全員路地に入れ、遮蔽を確保しろ。

 大地の精霊ノームよ、大地の壁を作りたまえ」

 皆が狭い路地にかけだすとジオンとチムナターが残りジオンは両手を地面にあて壁を作り。チムナターが魔法を防御する結界をはった。

「野郎ども、やってしまえ」

 銃声が響くがすべて大地の壁に陥没して何も届かない。炎や氷がマジックミサイルと融合して襲ってきたが結界によって阻まれる。

風の精霊シルフょ、矢を払いたまえ」

 火炎の魔法や雷の魔法などと融合した矢が飛んできたがあらぬ方向へと向かう。

 敵が魔法を撃ったためコチラを見ているということは、コチラからも見えているということ。

「スリップ」

 チムナターが唱える。

 敵の大将。

 バンデットアーマーの男が転んだ。

「スリップ」

 屋根にいた5人が弓を手にしたまま滑り落ちる。

 隠れた側の屋根にのった連中が避難した狭い路地側にやって来て矢を撃ち下ろそうとする。

 最初の一発目だけだろうが呪文スペルがかかっている。

「スリップ」

 結界を維持しながら、やって来た5人ほどを転がした。

 1人は皆が避難した所の上に落ちてきたがチムチムの拳の犠牲になった。

 残る4人がジオンの横に落ちてきた。落下によるダメージであちこち骨折している。

「チムナター、

 大将を捕える。

 スリップの維持を解け」

 ダッキがエルザの指示のもと狐火を放った。

 火薬に引火して部屋が爆発した。

 魔法は距離が遠くなれば、それだけ魔力がかかる。

 近距離まで近づいてきた2人の魔法使いにメリルとルナとチムチムが襲いかかった。

 炎の壁と氷の壁をそれぞれ作ったがチムチムが腰に両手をためる。

 左右同時に魔闘技を解放すると壁は破壊された。

 ルナのブーメランが氷の魔法使いの頭部に当たってかち割った。

 メリルの斧による横薙ぎが炎の魔法使いの腹部に叩き込まれる。

 地面にかかっていたスリップが解除されて立ち上がったバンデットアーマーの男にジオンは手首の関節技をかけて崩した。

 関節技で拘束されながら、地面にうつぶせに倒れ込み背中から横隔膜近辺をかかとで踏むと呼吸困難になった。

「質問に答えろ、お前はオークが取り憑いているのか、イエスならうなずけ」

 返事がない。

 チムナターがやってくる。

「肉体が苦しんでいるから、取り憑いている霊が苦しいかといえばそんな事は無い。

 彼らは又新しい取り憑き先を探すだけだ。

 ダメージ織り込み済みのゾンビアタックを仕掛けてくるかもしれない」

「なんとかできるか」

「白魔法使いじゃないから浄化ピュリファインできないけど、除霊なら出来る。

 分離した霊体エクソプリズムはどうする?」

「それなら考えがある」

 マルスのアイテムボックスからアポートして、拳大ほどの『封印の壺』を取り出した。

「怪しげな魔神とか入ってないだろうな」

「ソイツは空だ」

「ていう事は、入っているのもあるのか」

 チムナターが男に錫杖をかざした。

「汝、何者か、真の名を告げよ」男は苦しむばかりで名前を告げはしなかった「それなら、それで構わない。強制的にひっぺがす」それだけ言うと白い霊体エクソプリズムが耳や鼻や口からでて、錫杖の先で白い丸い球体を形成する。

 開いた壺に球体を吸い込ませてからフタをする。

「いっちょう上がりですね」

 チムナターが笑みを浮かべる。

 ジオンがかかとを外すと呼吸ができるようになった。関節技で自由は拘束してある。

「生命は助けてくれ、俺はハンフリーの野郎に操られていただけだ。

 あんたらに協力する。

 仲間の解放も手伝うし、罠や襲撃場所を外して道案内してもいい。

 リュウ老師の仇を討つため、ハンフリーの野郎を殺すのなら手を貸しても構わない」

「お前、操られた時の記憶があるのか」

「ある、あります。

 ハンフリーには憎しみしかない」

「どう見る?」

「霊体の大きさによっては完全支配で記憶が飛ぶ場合と、憑依で意識が残る場合がある。

 どちらが残酷かは分からない」

「取り憑かれた段階で幸せではあるまい」

 ジオンは手首を離して拘束を解いた。

 ねじりあげた手を摩りながら起き上がる。

「俺の名前はキム・ジョン・イル。

 ジョンと呼んで下さい」

「ではジョン残りの戦力について聞きたい」

「シャオ・パイ・ロン。

 極めて強い。

 アンタでも勝てない。

 念法を使う。

 リュウ老師に絶対の忠誠を誓っている。

 後は槍使いのユウリンと呪符使いのシー・チン・ピン。

 この3人は別格だ、

 だけどハンフリーとリュウ老師が入れ替わっている事を知らん。

 上手く立ち回れば戦わなくて済むかも」

「ジョンから説得する訳にはいかないのか」

「マジックアイテムや魔法を使えるのは、あらかた連れてきた、おれが仕切っているように見えたかもしれないが、アイツらに比べたらチンピラもいい所。

 構成員の中で3人を除いてマジックアイテムで武装したのはいません。薬を扱える回復師ヒーラーが5、6人程度残っているぐらいで」

「分かった。

 案内してくれ。

 なるべく戦わずに済ませたいが」

 

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