第23話 エルザ
建物の中に入ると公民館として使われたのか、広い空間がでてきた。
対して広くもないステージの上に深緑の髪を持つ裸の女が転がっていた。
ヘクトルに全身舐められていたため肌がテカテカと光っていた。
「エルザ」と発しながら抱き上げる。
「お姉様。ご無事で」
か細い声がする。
ジオンがマントを脱いで身体にかけた。
「もうヘクトルは消滅した。私達は自由になった」
ダッキがエルザを抱き上げた。
「ドライアドなのか、それも宿木を失っている」
ジオンの問いにダッキは静かにうなずく。
生命の精霊ユニコーンは処女による被肉化、ユニコーンが肉体を持ってる間生理は止まる。
角はあるけど性器はない。
生命の上級精霊ドライアドは齢100年を超える老木を宿木に受肉化する。
森の賢王とよばれ女性型のみ、知的生命体の男性と交配して生命の精霊を増やし森全体に株分して、全体の情報を支配する。
「天使達の集めた義勇兵達が火をかけたのは村や畑だけではない。神聖な森にも手をかけた」
「済まなかった」
「アンタが謝る事じゃない。
そういう時代だった」
「宿木を失ったドライアドは伝説のように消えるの?」
メリルの質問に二人は答えなかった。
沈黙が答えだった。
「何とか治す方法はないの」
「対処療法で入手した魔石のエネルギーを与えるか、私が存在するエネルギーを与えるしかない」
「そうして二人で心中するゾナか?」
「それもいい。生活は破綻している」
ダッキが笑った。
冒険で獲得した魔石をエルザのエネルギー維持に使えば生活はどうなる?
売春か、
福祉がある時代じゃない。
売春は女性貧者の最後のセーフティネット。
まして妖怪は両想いにならないと妊娠しない。
人間の女性と妖怪の男性なら十月十日だが、妖怪が女性の場合は最短3日で産んで、自分のエネルギーを与えて死ぬ時もあるし、百年妊娠して自分のエネルギーや妖術を少しずつ与えながら出産し、子育てもきちんとする場合がある。
売春すれば病気になる可能性もあるが、白魔法もあるし、妖怪は頑丈にできている。
「
同化すれば宿木なしでも半年は持つ。
その間に新しい宿木を探すか、誰かに寄生すれば良い」
「金貨5枚も払う金などない」
「貸しにしとく、
ここまで来て救えるのに救わなかったら目覚めが悪い」
「ジオン。ありがとう。あなた、いい人」
ダッキが涙を流した。
ジオンは精霊籠から
一応暴れる。
知的生命体と家畜の生命を同列に扱う訳にはいかない。
まして
ジオンはエルザの心臓の上に精霊をかざすと「万物に流れる生命の精霊ょ、御身を使いてこの者を癒し給え」
エルザの体内へと押し込んだ。
精霊の身体に近い上級精霊だけあって回復が早い、両目を見開くとジオンの手を払った。
「ジオン・サルディーラ。
我が民と我が森を焼き払った男」
上級精霊だけあって怒らせれば目が爛々と輝く。
「何を言ってるゾナ。
ジオンにだって言い分はあるゾナ、アンタの生命を助けたのはジオンゾナ。
それなのに…」
「止めろ」チムチムを制した「怒りと憎しみが生きる糧になるし、知らない事か幸せな事もある」
「ジオン将軍は戦争を終わらせた、私を自由にしてくれた」
「だから感謝でもしろと、その男は全部自分の事情でやったのょ。
平和の使者?
笑わせないで、
ただの戦争の勝利者ょ」
「せめて血を流さない政治が行われている」
メリルが口にした。
じぶんでも世界が平和になったとは言えなかった。
「おめでたい女。平和とは白い鳩が青い空を飛び、念仏を唱えれば叶うものでもなければ、相手の抵抗力を奪えば、巨大な火力による相互確信破壊による抑止力でもない。
自分の家族や友人を殺した人間が家族で笑っている横で生活する血と汗と涙の結晶
許せなくても戦争をしない意思。
他人を赦さず、復讐心に猛るお前には理解できまい」
「俺が与える事ができるのは安全でも平和でも秩序でもない、現実と闘う力と知恵だ」
「賢しさと力のみで勝利を納めた者はいない。
お前以外はな」
上級精霊は強く睨んだ、回復したエネルギーと直結しているようだ。
ガタッ。
後ろで扉が開く。
「お取り込み中の所、すみません」
チムナターが倒れ込む。
「助けてください、世界の危機です」
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