第21話 ヘクトル将軍
漆黒の夜が支配する。
歓楽街の光も消え、静寂が辺りを支配する。
消去方でマルスが
「ここです」
以外にも街の中にある。
誰も騒いだ様子はない。
「アイツ目立つだろう。
口封じに殺したのか」
「ヘクトル将軍が」
扉を開けてソレは出てきた。
ては使ってない。
魔法的な何か
「随分大所帯じゃないかジオン」
ライオンの身体に老人の頭が乗っていた。
「相変わらずの化け物ぶりだな、声も違うし、分からなかったぞ」
「今度は人間の魔法使いの頭にライオンの身体を取り入れた。
ワシなりに最強を目指したぞ」
魔法使い達が多くの実験の果てに夢見たキメラが目の前に存在した。
ドラゴンの身体を入手しなかったのはヤツなりの限界か、それとも動き易さでも選択したか、ジオンが頭の中で計算する。
「エルザには手を出してないだろうね」
ダッキが気色ばむ。
「安心せい、お主が種ぬきしてくれだからワシも賢者タイムに入る。
死に掛けのドライアドなんぞ、裸にして舐め回すだけに留めて置いたわ。
奴も大分発情はしてはおったがな」
「このぉ、人でなし」
能力を発動させようとして、身体が青白い光の炎が立ち上った。
「発情せょ」
瞬間ダッキの股間を押さえて崩れ落ちる。
女なら男が欲しくて欲しくてたまらなくなるし、男なら射精して、でもしないのに射精して、快感を通り越して激痛に感じるほど、下手な媚薬や精力剤よりよほど効く。
どれだけ、どこを感じているかも支配の指輪の持ち主には情報がダダ漏れである。
ジオンはすぐさま魔力感知の指輪で支配の指輪を探した。獣の指に支配の指輪は入らない。
支配の指輪は身体から離れれば使用できない。
ヘクトル将軍を打ち倒した時、支配の指輪で連鎖的に行動を抑制できた。
女奴隷戦士達の身体が屈服を受け入れるしか無かった。
100以上の支配の指輪が並べられ、おベッカ貴族達が「ジオン様のハーレム」にしましょう。
下品な笑いを浮かべた。
元々アダマンタイト製で悪魔の道具である、天使達を使って
結局戦争中裏切らないように保管して、戦争が終わった後、解放奴隷として一人一人に手渡しした。
強力な魔力の流れを体内から感じた。
アイツ飲み込んでいる。
しかもどういう原理か分からないが体内を動いている。
「貴様、許さんゾナ」
チムチムが手に闘技の魔を貯めた。
「動くなょ、獣人。
隷属の首輪はワシの意思次第で使用者を殺せるぞ」
今度はダッキが首輪を握って苦しみだした。
「卑怯者ゾナ」
「褒めているのか、策士と呼んでくれ」
着物を着た、腰まで黒髪のある女が履き物をカランコロン言わせながら後からやってきた。
全ての毛先が揃っていて、整っているが人工的な感じがする。独特の美しさを醸し出していた。
「傀儡」
ダッキが短く口にする。
首絞めは解除されたが、性感あげは解除されていない、服の上から乳房と股間を揉んで耐えている。
「へぇ、友達いないんだ」
メリルが口にした。
当時の魔法技術では日本の傀儡が最高とされ、西洋もやっと球体関節人形ができ、人形劇をする程度。
日本の傀儡は傀儡師が魂を削りながら彫られ、生命を吹き込む。陶器の様に磨かれた肌に幻術を使う。
舞が奉納され人々を夢幻の桃源郷に引き込む。
彼等を使った舞台は客を集めた。
ソレは芸術の粋まで高められ、戦国武将達はこぞって傀儡を求めた。(当時の日本の鉄砲保有量はソフィア正教圏全体の10倍以上)
傀儡は子供を産まないが側室として、個人で夢幻を使用して昇天するのが大名の間で流行して、一国に変えてもという数奇屋者も現れる始末。
当時最高の傀儡『加賀』なぞ100万石だしても売らんと言われている。
笑っているのか、怒っているのか、表情が豊かでありながらどれでもある。
ジオンは僅かに振り向いて一瞥をくれた。
「友達?は〜ん」ヘクトル将軍が答えた「愛など、夢など、希望など人を縛る為の、最も安易な呪いにしか過ぎぬわ。
呪物ならもっと効率のいい物はいくらでもあるわ。
絶対的な主従関係こそ、もっとも素晴らしい人間関係ょ、お前たちもその年なら分かっておろう」
「知らん」メリルが短く答えた。
「気をつけろ、戦闘用の傀儡だ」
大抵絶対服従で戦闘の合間、兵士達の売春もこなした。なかには自我に目覚め脱走する者もいたが見つけ次第破壊されたし、戦場に連れてきた傀儡が敵の渡るぐらいなら火薬で爆破した。
男の歪んだ所有欲を満たした。
「なあ、ジオン。
なぜあの美少年を殺した。
ワシはもっといたぶりたかった。
もっともっと入れたかったのに」
ヘクトル将軍がジオンの脳を握りにきた。
離れた手を動かす物理的な動作で相手を掴み動かす。
引っ掛けて脳の血管を切るのは上等手段だが、肉体が条件反射するように、|守護霊『ガーディアンスピリット》も条件反射でガードする。
超能力も守護霊も誰にでもあるが、強弱あるがいつまでもそんな他力本願に任せる訳にはいかない。
メリンダに言わせれば、ジオンを苦しめたがる
首をずらして焦点をずらすが、視線が見えない手と共に追ってくる。
時間をかけられない。
「ジオン将軍」ダッキが涙を流し、ヨダレを流し、足首まで濡らし、顔をぐちゃぐちゃにして「私は妖怪。首を絞められたぐらいでは死なない。ヤツを倒して私を開放して下さい」赤面させアヘ顔でジオンに縋り付く。
チリン。
鉄の日本扇子(東洋の扇は団扇のようにたためない)の両端に取り付けられた鈴が鳴った。
この傀儡。
雅楽もなしに夢幻を仕掛けてくる。
「ジオン。
その女は真正のマゾょ。
仲間を殺されても、お前の姿を見ただけで濡れておったぞ。
身体は正直ょ、『ジーク・ジオン』の地鳴りの様に絶叫するサルディーラ軍の中で、目がお前を探しておったわ。
ワシの腹の下でお前の事を思い震えていたぞ」
「やめて」
ダッキはすがる手を離した。
「止まらぬ肉欲など、誰にでもある」ジオンが優しく語る「チムチム、傀儡に意識を奪われるな。目をつぶって戦え」叫んだ。
「こっちに来てから偽物の生命や詐欺的戦闘が増えてきてるゾナ」
「綺麗… 」
メリルがゴトリと斧を落とした。
目が傀儡を、その深淵を見ていた。
ゆっくり敵の間合いに歩き出した。
ルナが目をつぶったままメリルにすがりついた「正気に戻るニャン」
ジオンがメリルの首の裏を手刀で叩いて気絶させた。
ルナが下敷きになって受け止める、後頭部はジオンが受けとめた。二人でそっと下ろした。
「随分優しくなったじゃないか、
お互いに将軍時代は犠牲は織り込み済みで、軍隊を突撃させていたろう。
小娘一人など昔のお前なら切り捨てていたろう」
鼻血が出始めた。
頭に力を入れて視線で握るだけ。
支配の指輪は魂と癒着しているわけでない、交換して相手を変える事ができる。
さっきから魔力感知で支配の指輪を探してアポートを試みるてるが、視認できないのと魔法抵抗されるのと相まって引き寄せられないでいる。
「俺の優しさは弱さだ。
俺は昔からそんなに強い男じゃない。
心を殺してきただけだ」
日本刀・村雨ブレードを抜いた。
水気がほとばしる。
金剛石と玉鋼とヒイロイカネをブレンドし、処女の自分の娘を窯の中にいれ、魂を癒着させた曰く付きの妖刀。
心を強く持たねば、魂をすすりたがる伝説の業物。
上段突きの構えをした。
もうコチラの時間はそんなに残されてない。
「行くぞ、チムチム」
ジオンがヘクトル将軍に対して、チムチムが傀儡に対して駆け出した。
『敵の急所を一発で仕留める。
鍛えし心眼を開け、全ての努力と犠牲はこの一瞬のために』
チムチムが耳から棍をとりだして2メートルほどの長さにして棒高跳びの要領で空に逃れた。
開いた鉄扇が横薙したがチムチムが上空にのがれる。
回転して顔面に蹴りを叩き込む。
足底から闘技が炸裂した。
頭部が爆散する。
ヘクトル将軍がジオンの突進に対応して、カウンターで前足をふる。
魔法の靴は蹴りの攻撃力を高めるだけでなく、タイミングよく使えばジャンプ力をあげ、ダッシュ力をあげ、動かずに衝撃力だけで移動できる。
魔法の靴の衝撃力で突進を止めて回避する。
物も言わず胸部を貫いた。
貫通した剣先に支配の指輪が引っかかっている。
それだけじゃない。
指輪を首輪のようにはめたイナゴが付いてきた。
頭が超能力から解放された。
何が起きた。
「ジオン将軍、そのイナゴが奴の正体だ」
羽根を広げて飛び上がる。
「アポート」
指輪を視認して引き寄せた。
左手で刀を引き抜くと右手に指輪がテレポートしてくる。
「任せるニャン」
昆虫食を生業とする。
昆虫ハンター袋猫のブーメランが炸裂する。
引っ掛けてブーメランはルナの下に帰ってくる。
ジオンが血振り納刀する。
「食べるなょ、何がおこるか分からんぞ」
ルナが首の裏をつかんだ。
虫の扱いは心得ている。
ダッキが立ち上がりルナからヘクトルを奪った。
「ジオン将軍。
この男はアンタの美童の仇だが、私に譲ってください。
多くの仲間がコイツに姦り殺された。
私自身の仇だ」
拳大の
「構わんょ、
復讐を正しく行いなさい」
目を開けてぼーとしているメリルの手を握って、起きるのを手伝っている。
「まて、ダッキ。
ワシらはあんなに愛し合っていたじゃないか。
サドとマゾが出会うのは天文学的奇跡だぞ。
あんなに喜んでいたじゃないか」
ダッキの目が青白い炎を帯びた。
ヘクトルが青白い狐火に包まれる。
「止めろ、ダッキ。
止めてくれー」
「アンタの身勝手な愛を、触られた時から嫌悪していた。
焼け死ぬなぞ、お前には贅沢だ」
「ギャー。熱い」
目の前でイナゴが炭になっていく。
メリルが立ち上がって周囲を見渡す。
「終わったの」
キョロキョロした。
「啖呵をきった割には呑気なヤツゾナ」
チムチムがやってきて、棍でメリルの頭をコンコンと叩いた。
「夢を見ていたニャン」
メリルがだんだん状況が分かってきて赤面する。
ダッキが炭を握りつぶし、灰が風に溶けていく。
「これで本当に終わったのか」
ジオンの問いにダッキは黙ってうなずく。
空になった手に指輪を置いた。
2人の姿を見て「人は所詮、個人の魅力でしか縛られはしない」メリルがつぶやくのをマルスは聞いた。
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