第18話 秘密結社

 ヨハン達一行がワイバーンを降りた。

 6人が降りるとワイバーンは自由行動になり、大空へ飛び上がる。

 徒歩で城壁の検問所へと歩きだす。

 目深く被った暗黒魔導士のフードを幻影を使い巡礼者の服装に変えた。

 検問所で身分証明書を見せ、6人分の通行料を払う。

 大した取り調べも受けずに入れた。

「チョロぃですね」

 チムナターの声に。

「いいから黙ってろ、聞こえるぞ」

 ダビデが突っ込む、いらぬフラグを立てないでくれ。

 街中に入ってもソフィア正教はどの宗派も、一生涯に一度、女神ソフィア降誕の地である、聖地巡礼を奨励しているため、特に目立たず。

 他の巡礼者とすれ違うたび、十字を切って挨拶する。

 ヨハンは手慣れた物で、聖書の一節を引用して会話する。

 聖書は全て暗記してあるのだろう。

 そのまま裏路地に行くと大きな建物がこれ見よがしに立ち並んでいる。

 城壁内部という限られた面積の中では、貴族の家以外庭など無い。貧民街は上へ上へと伸びていく。

 原色の赤を使った素材は多いが、貧民街は色までこだわってない。

 扉の入り口に2人の男が槍を持って見張りを立てていた。

「なんか要か、外国人。

 ここは秘密結社・幇の根城と知ってか、

 悪い事は言わん。

 とっとと帰れ」

 ヨハンはフードを取って、巡礼者の幻影を解いた。

「私は暗黒魔導士のヨハン。

 首領のリュウ老師とは旧知の間柄だ。

 伝えてくれないか」

 男は一人中に入り、そして出てきた。

「応接室へどうぞ。

 リュウ老師が歓迎するそうです」

 ヨハンの後をゾロゾロついていく。

 応接室はやや広め。

 遊牧民のタペストリーや花がいけてない壺が品良く飾られていた。

「食事の用意ができたらお呼びします。

 しばらくお待ちください」

 一礼して扉を閉めた。

「歓迎されているの?」

 フードをとりサキュバスのサロメが聞いた。

「敵対する理由がない。

 会わずに追い返す選択肢もあったし、協力が得られるなら、こした事はない」

「あたしらだけでやったが良くない?

 ジオンはマジックアイテムぎょうさん持っているから魔力感知で一発だろう」

 シルが答えた。

「お食事の用意ができました。

 迎賓室へどうぞ」

 案内されると槍を持ったサファイアの瞳と髪と爪を持つ女が入り口に立っていた。

 黄色のチャイナドレス。

 金色の髪飾り。

 2つのお団子頭。

 額には宝石人の特徴である、第3の目のような宝石。

 サファイア。

 それは宝石人同士の混血であるしるし。

 黙って道を譲って、腕を組んで壁にもたれかかる。

 なんとなく気圧されてヨハンは一礼して入る。

 中に入ると円卓が用意されていて、奥の席に老人が座っている。

 老人を挟んでヨハンとサロメが座り。シルとオートマタ、ダビデとチムナターが座った。

「遠路はるばる起こしくださいました。

 歓迎しますヨハン殿」

「歓迎いたみいります。

 でも、あなたは誰ですか?」

 暗黒魔導士の全員が立ち上がり杖を構えた。

「それは、何の事ですか?」

 老人が汗を流す。

「決めていたはずですよね。

 合言葉。

 この後に至っても思い出しませんか」

 サロメが老人の手を掴んだ。

「真の姿を」

 幻影系で姿を変えていれば、ヨハンの額に埋め込んだ魔石ですぐに理解できた。

 悪魔の魔法、遺伝子変換デスガイズと理解するとサロメの行動は早く。

 同じ悪魔なので魔法を解析して解呪した。

 豚の顔の乗ったハーフオークにもどり、小柄だった身体が中堅の太めに変化する。オークと違い髪の毛が生えている。

 300年前に光の帝国との一大決戦に敗れ、ちりぢりになり消滅したオークの特徴を備えていた。

 惑星パンゲアのパンゲア大陸の覇者。

 悪魔崇拝は元々彼らの文化なのだ。

 7つの大罪とソフィアがしょうした。

「怠惰」「嫉妬」「傲慢」「憤怒」「強欲」「色欲」「暴食」の7つの内、「怠惰」以外の6つを美徳とした集団。

 魂を生贄に悪魔の力を借りる集団。

 個体としては力が強く、脂肪を蓄えやすくて寒冷地や夜の砂漠を疾走する集団。

 そして共喰いをする集団。

 人間側が勝利できたのは魔法の効果を阻害する鉄器文化に至ったから、オーク側は青銅器文化で必要性さえ感じていなかった。

 何人かの天使エンジェルが対悪魔用の白魔法を携えて降誕し、彼等悪魔崇拝者が魔神とよぶ「ルシフェル」「サタン」「シバ」「オーディン」「ティアマト」「リリム」「オーカス」などの復活を聖痕者スティグマートがことごとく阻止した。

 そして軍事的にはあぶみが採用され、包囲殲滅作戦が可能になり、勇気を超えた怒りに任せた戦い型が種族自体の消滅へとつながった。

 引き方を知らない戦い方で同じ戦術に同じように敗れた。騎馬兵どころか戦車の概念さえなく家畜化の概念もなく、籠城戦の時は弱い奴から食べた。

 勝利の立役者ビビア・ユーノスなど兵站ロジスティックで勝ったと看破していた。

 サロメは手を振りほどこうとするハーフオークの腕を両手で捻り上げ机に叩きつけた。

「おぅと、そこまでだ」

 槍を持った宝石人が乱入してくる。

 出入り口は一ヶ所しかなかった。

 サロメはダガーを取り出して「動くな」と叫んだ。

 ねじりあげた手に人の顔をした人面そがサロメの手に降りてきて噛みついた。

「痛ッ」悲鳴をあげて離した。

 左手をかじられている。

「悪魔憑き」

 短くサロメが叫んだ。

 サロメもサキュバス。

 悪魔の端くれ、ちぎられた肉に薄皮を張って止血する。

 ハーフオークは風水的な墨で描かれた掛け軸の中へと逃げ込んだ。

 出口は別にある。

「風水師、境界に逃げ込んだ」

「追えるか?」

「閉じてある、無理ね」

 ダビデが腰の剣を抜き宝石人に斬りかかった。

 左手には杖を持っている。

 槍で弾き返した。

 宝石人は親指と人差し指を挟んで高い口笛を吹く。

「氷の槍ょ、集いて襲いかかれ」

 チムナターが5本の水と氷で作ったマジックミサイルを再現。

 5本、別々の方角から襲いかかるが宝石人にことごとく叩き落とされる。

「宝石人は軽く2、3手心をよむぞ」ヨハンが叫んだ。

 扉から4つ足を模した虎のような幻獣がゆっくりとやってくる。

 宝石人の左手に丸い光に包まれて鳥の幻獣が召喚される。

 コイツ2体も扱うのかと驚愕した時、一人の長髪の男が地面に光の五芒星ペンタグラムが現れ、上から下へと動くとにゅうと現れた。

 全体的に細身で細長い顔に、細長いメガネをしている。

 メガネを押さえながら「ユウリン。リュウ老師が誰も殺すなとのことです」左手には包帯のように白い布を持っていた。

「麻痺せょ」

 ヨハンが即興魔法を2人に唱えたが、2人の懐の対呪符用の身代わり呪符が青白く燃えるだけだった。

 髪の毛を一本抜くと念を込めると一本の針の様に仕上がり、人差し指と中指に気合い込めると発射された。

 ヨハンの肩に刺さると麻痺して右手から杖を取り落とす。

「経絡秘孔に刺さりました。動くと痛いですよ」

 コイツ念法を使うのか。

 全員が思ったとき、右手と左手に一体ずつ炎の精霊サラマンダーを召喚すませたシルが自動人形オートマタに命令を下す。

「あの、長髪の男を倒せ」

 何も言わずに長髪の男に襲いかかった。

 ダビデは雷を杖にまとわせてから、右手の剣に当てて帯させる。

 剣で宝石人・ユウリンの攻撃をうける。

 ユウリンは電気が伝わり槍を取り落とした。

「重力制御、押しつぶせ」

 チムナターが範囲魔法で超重力をかけてユウリンを押し潰した。

 床に這いつくばったユウリンは「何という魔力」

と驚愕した。

 シルは両手の火の精霊サラマンダーにそれぞれ命令をあたえると、右の火の精霊サラマンダーは4つ足の幻獣に、左の火の精霊サラマンダーは鳥型の幻獣に襲いかかった。

 4つ足の幻獣は毛針攻撃、飛行型は羽根手裏剣と敵に回すとやっかいだが、魔法の武器でしか傷つかない精霊は相性が良くジリジリと追い詰めた。

「殺すなとは聞いたが、自動人形オートマタを壊すなとは聞いてなかったな」

 左手に手にしていた布をローブを剥ぎ取って襲ってくるオートマタの全身に巻きつけた。

 念を込めると握り潰すように圧壊。

 こぼれでた火の精霊サラマンダーが布や周囲を引火しようとする。

 長髪の男は布を回収して、左右で拳を作り合わせてから念を込める。

 左右に開くと白く輝く木刀を念で練り上げた。

「不知火」

 大きなサラマンダーを切った。

 マジックアイテム扱いになり、左右に切り裂いて消した。

 チムナターの顔面に札を貼られた。

 カメレオンのように姿を消した男が現れた。

 明らかに巨漢で肥満の怪しい中国人だった。

 チムナターは札を貼られると硬直して倒れ込み魔法の集中も途切れた。

「シー・チン・ピン。

 誰も殺すな」

 長髪の男が命令した。

「呪符も無限では無いアル。

 1日1枚しか作れないアル。

 魔法の紙もタダではないアル。

 もう少し大切にして欲しいアル」

「チムナター」ダビデが叫んで巨漢・シー・チン・ピンに切り掛かる。

 開放された宝石人・ユウリンが金色の腕輪で十字に受ける。

 気を使って触れない所で防御してあるため電流が流れない。

 右手で剣を払うと同時に左手の掌底でダビデのお腹に触れると「哈ッ」発勁を叩きこんだ。

 ダビデが後ろに吹き飛ぶ。

 シー・チン・ピンが左右から3枚ずつ呪文の描かれた札を取り出してシルに投げた。

 水平に風を切りながら飛んで行くと影でできたモンスターに変化した。

 シルは手首、足首、首、胴を噛みつかれて壁に激突した。

「変に抵抗しない方がいいアルょ、

 影より薄い物はないアルょ。

 良く切れるアル」

 シルの首に一筋の赤い切り傷ができ、一滴の血の玉が上から下へと降りていく。

 長髪の男がヨハンの前まできた。

 サロメが庇うように間に入る。

「邪魔だ」裏拳を叩き込んだ。

 サロメが横に吹き飛ぶ。

 片手でヨハンを喉輪にして吊り上げた。

「生命までは盗らん。

 無駄な抵抗はやめろ」

「みんな杖をおけ」

 ヨハンが苦しげに命令すると、

 ダビデが剣と杖を置いた。

 シルが火の精霊サラマンダーに帰還してもらい杖を離した。

 カン高い音がして床に転がる。

 サロメが杖を放り出した。

 ユウリンのチムナターを踏みつけて硬直した指から杖を奪った。

「グゲ」カエルのような声を上げる。

 長髪の男がヨハンを離した。

 ヨハンが床に崩れ落ちた。

 サロメがすがりつく。

「お願い、治療させて」

 サロメが口にした。

 長髪の男が髪の毛を抜く。

「時期に痺れはとれる」

 振り返ると命令を下す。

「リュウ老師の指示だ。

 誰も殺すな。

 杖と触媒の入ったホールディングポシェットを回収して見張りをつけょ」

 シー・チン・ピンが影獣を消して、チムナターの顔面から呪符をはいだ。

 3人が出ていくと構成員が入ってきた。

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