第16話 ゴブリン2

 足跡を追ってみると小さな焚き火が目に入る。

 夜行性でも彼らは火を管理して暖をとる。

 大小子供のゴブリン2人が火の管理をしている。

 それくらいの社会性があるのだ。

 メリルがヤバイと思った時、ジオンとチムチムは物も言わずに駆け出した。

 ジオンが大きい方の口をふさいで、首にダガーをつきたて一周して、首をはねた。

 チムチムが小さい方の首を殴りもぎとった。

 メリルは決定的瞬間をただ首をそらして、目をつぶった。

 この2人は同質なのだ。

 無言の呼吸もあっている。

「ルナ、メリル、マルス。

 ゴブリンが他にいないか警戒しろ」

「子供なのに、何も殺さなくても」

「さっきからメリルは何を言ってるゾナ」チムチムが怒気を込めた。

「コイツら後半年もすれば大人になって、母親さえレイプするようになるし、数も増えればそれだけ災害にもなるゾナ」

「お前は『自分は優しい人間です』と我らにマウントを取りたいだけの自分に酔ってる甘ちゃんゾナ。

 お前の態度は社会の安全から言って、ちっとも優しくない、むしろ害悪ゾナ」

 チムチムが最後は怒鳴った。

「チムチム止めろ。お前はそんなに弱い者に当たり散らす人間ではないだろう」ジオンがチムチムの肩にてを置いた「友人になるのは口でいうほど簡単な事ではない。相手の立場になって物事を考える、それでいて自己主張する、自らも魅力的な人間になる、ケンカしても謝って修復する。酒やタバコの回しのみして終わりという単純な物ではない。友情を維持するのは難しい事なんだ」

「ごめんゾナ。

 ジオンが我に手を出さないのは、お前に遠慮しているのかと思ってイライラしていたゾナ」

「メリルもお前は裕福な家庭で育っている。

 多くの共同体はそんなに豊かじゃない。

 新大陸の部族では身体障害者が産まれれば、3人の証人を集めて安楽死させられる。

 それが障害を持って産んでしまった親の優しさで、所属する共同体への義務だからだ。

 今度産まれてくる時は…

 どこもギリギリで生きていて、誰が大人まで育つか分からない。飢饉になれば口減しが横行する。

 優しさが許容される程、幸福でも幸運でもない人は多い

 チムチムは謝ったぞ」

「ごめんなさいチムチム。

 私が傲慢だった。

 あなた達が正しいわ」

「ジオン様、いっそ魔力感知と生命感知で周囲を探ってみてはどうですか?」

 マルスが提案してくる。

「チムチム、周囲の警戒は任せたぞ」

 マルスのカバンから2つ指輪を取りだした。

 指輪の効力は片手に一つの原則があり、右手にはアポートのアミュレットがはめてあるから、左手に順番にはめて、周囲を確認する。

 生命反応も魔力反応も一人分あった。

 エリクサをかき分けジオンがそっと近く。

 裸の女の子が両手両足を縛られ、首を杭につながれていた。

「敵はいないようだ、女の子が1人いる」

 どのような扱いを受けたか容易に想像できた。

 メリルがローブを用意する。

 ジオンがミスリルダガーに生命の精霊ユニコーンを宿らせでエリクサで編んだロープを切った。

 生命の精霊ユニコーンを宿せば万一皮膚が切れても治療するし、局所麻痺して痛みもない。

 食い込んだ後をダガーをかざして治療する。

 震えていたがジオンが抱き上げると身体にしがみつく「助けて…」微かにうめいた。

 チムチムが周囲を警戒した。

 ルナが鍋の用意する。

 メリルが死体をそっと移動して、焚き火の側にローブを敷いた。

 ジオンがローブの上にそっと置いてもしっかり離さない。

「もう、大丈夫。体を拭くのにお湯を段取りしたいから手を離してくれないか?」

 頭を撫でて優しく微笑みかける。

「本当?」

 短い微かな問いに小さくうなずいた。

 黙って手を離す。

 ジオンは水の精霊ウィンディーネ火の精霊サラマンダーの籠を取り出して、ルナの鍋にお湯を作った。

 身体はメリルが拭いた。

 ジオンが生命感知の指輪でお腹を探った。

「どう?」

「いる」

 メリルの短い質問に短く答えた。

 どうするの?

 とは聞けなかった。

 ジオンは死の精霊レイスを段取り始めた。

「母体に負担はかからないの?」

 メリルだって、金のない娼婦がお腹の中の嬰児を針金で突き刺して引きずりだすのは知っていた。

「かからない、何もないとは嘘になるが、

 戦場ではよくある話だ。

 宗教が避妊と堕胎を禁止しているから」白魔法使いは医者を兼ねている人が多い「闇医者やモグリの医者なら簡単に出来る」

 ジオンはお腹の上に死の精霊レイス籠を置いた。

「死の精霊ょ、無垢なる魂を奪い給え」

 死の精霊は淡く白く光、やがてその手に小さな白い魂を宿す。

「終わった」

 精霊籠を脇に置いた。

 ジオンはお腹の上に右手をかざした。

「アポート」

 エイリアンにも似た、嬰児がジオンのてに現れる。

 もう殺してあるから道具と同じ扱いなのだ。

 アポートで瞬間移動テレポートして取り出される。ヘソの緒が千切れるくらいの負担。

「せめてジオン埋めてあげて、

 私の自己満足なのは分かっている

 だからお願いするの」

「分かった」

 ジオンが短く返事する。

「彼女が痛がっていたら、これで治療して、かざして魔力を込めるだけでいい」

 生命の精霊ユニコーン付与エンチャントしたミスリルダガーを渡した。

 メリルは受け取りながら「魔法の勉強はしてこなかった。扱い方は分かんないわ」

「魔法の道具は値がはるけど、普及用に特殊な才能がなくても誰でも使えるように設計されてる」

 ジオンはミスリルダガーを握る、メリルの手を握って、自らの手のひらを切って見せた。

 切断されているが血が出ない。

「痛くないの?」

生命の精霊ユニコーンには、苦痛を和らげる効果がある。

 手術や暗殺に使う、切り落とされた事にも気づかない。

 焦点具に集中すれば勝手に魔力を使って癒してくれる」

 メリルは言われた通り焦点具に集中すると、ジオンの傷はミルミル癒、完治した。

「おねがいジオン。

 傷が治せるからといって自傷行為はやめて」

 メリルから手を離した

「済まなかった。

 傷つけるつもりはなかった」

 ジオンは立ち上がり大地の精霊ノームを段取り始めた。

 ジオンの開けた穴にチムチムとルナがそっと死体を並べた。ジオンが魔法で埋め戻す。

 身体を拭いて毛布をかけたメリルが、簡易な墓の前で十字を切って、手を組み祈りを捧げた。

「今度産まれてくる時は、ゴブリンに産まれてきてはダメょ」

「メリル。

 言っていることは無茶ゾナ。

 魂は種族や民族や宗教内で環流するゾナ。

 仮にゴブリンのような身勝手な魂が人間として生まれても周りは迷惑だし、本人も幸せでは無かろう」

「彼女はいい人なんだ」

「それより、生きてる方ニャン。

 言葉から遊牧民だと思うけど」

「遊牧民はそれ程、善良でもないから、近くの部族に預けるのはなしだ」

 渡せば引き受けはするだろうが、わざわざ元の部族に届けるような事はするまい。

 良くて妾、悪ければ性奴隷を兼ねた奴隷。

 勝てば敵国の王族の女さえ裸で、手に穴を開けて

ロープで引き回し、酒宴でシャクをさせるという残酷さ。

 とてもわざわざ娘1人の為に部族の進路を変えるなど考えられない。

「近くのオアシスに冒険者ギルドがあれば、そこに預けて身の振り方を相談してみよう。

 金額次第では部族まで届けてくれるパーティーもあるかもしれん。

 ないようなら巫女シャーマンのネットワークを使って、知り合いの知り合いにでも預かってもらうか思う」





 

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