第15話 ゴブリン
チムチム達と合流して、食糧とメリル用の馬を買いたし、オアシスを後にした。
朝と夜の食事の用意はルナが担当した。
みんなで手伝おうとしたが、ルナが「自分は今更訓練してもたかが知れてるから、皆さんの訓練時間に使って下さい」
メリルは引き続き素振りの訓練だった。
チムチムはミスリル製の棒状の棍が渡される。
剣などは反転母趾のない彼女にとって相性が悪い、バランスを維持するために握り込めない。
魔力を使う事で50センチから3メートルに変化するし、ムチのように柔らかくなって、巻き付いたりして色々別の用途にも使えた。
その使い方や戦い方をジオンがチムチムに指導していた。チムチムが向かってくる所をジオンが空気投げを行い、お姫様抱っこをして受けとめたり、槍を使っ棍を跳ね上げたり、チムチムが素手で襲ってくるといなし、バランスを崩させ転ばせようとするとダンスの男役のように受け止め、顔と顔を近づけて「どうした、そんな物か」と笑う。
素人のメリルの目でも、2人の実力の差は明らかだ。
「戦い方なら、素手で魔力を使う闘技があるゾナ」
「ここから先は武術。
技がモノをいう。
知ってる奴が知らない奴を一方的に倒す世界。
対魔物戦では、力もあってスピードもある、お前の方が強いだろうが対人戦では、知ってる俺の方が強い。
とにかく戦い方を覚えろ。
相手がしてくる技を暗記して、対応を身につけろ」
「東方の人間は皆、ジオンのような技を身につけているのか、自信をなくすゾナ」
「安心しろ、ここまでのはそういない。
だが、超一流のお前でも、知ってる二流に負けるかもしれん」
「超一流の技の持ち主が来たら、どうするゾナ」
「その時は、お前は下がれ、俺が相手をする」
「う〜ん。なんか遠いゾナ」
「メリルと違って、体捌きとかバランスとか基本はできているから、知らないだけだすぐにある程度までは覚えるょ。
俺から一本取れたら、その時は」
「その時は?」
「心まで抱いてやるょ」
チムチムは棒を持って、地団駄を踏みながら「俄然、やる気はでたゾナ」
同時にメリルは思った。
何考えているんだろうコイツ。
メリルは知っていた。
夜中チムチムが横に潜り込んできたら、追い払わずに腕枕を差し出して寝ている。
さすがにやってはいないようだが、基本的に王族だから来るモノ拒まずかもしれない。
子供が出来たら政治的な問題になるから、賢い人は用心深くなるともいうが、メリルはジオン個人を良く知らなかった。
練習が済んでジオンがマルスに道具をしまっている時、チムチムが棍を振りかぶり、こっそり忍び足で近付いている、メリルは声をかけるべきか迷った。
だってチムチムの恋路を邪魔しているみたいだ。
チムチムは積極的にアプローチしているのに、ジオンには自分に振り向いて欲しいと思うのは卑劣な事だと感じた。
頭に振り下ろされる瞬間、ジオンは体捌きでかわし、片手で棍を掴むとチムチムから奪った。
力はチムチムの方が強いが、肉球では握りが弱いのかジオンの技なのか、あるいは両方か、片手だけで棍の先端をチムチムの眉間にむけた。
「くだらない事をやってないで、真面目に技を覚えろ」棍をチムチムに優しく返した。
「ワザと負けようという気は起きないゾナ?」
受け取ったチムチムは棍を小さくして、ネコミミの中にしまった。
「起きない」
ゆっくりと全員ルナから食事を受けとった。
「今度から文化圏が変わって、漢字文化圏でハシになるけど、メリルは使えるか?」
「昔、習った事があるから使えるわ」
メリルは不思議そうに答えた。
「残りの2人はスプーンさえ怪しいからなぁ」
「ハシゾナ?」
「僕等は突き刺して使うしかないニャン」
ルナもチムチムも汁物は口をつけてすすっている。
ルナの方が貿易船で働いていただけあって見識がある。
「ジオン様、さっきから人影が見える」
袋猫の方が夜目が効くし耳もいい。
「狼じゃなくて」
ジオンはマルスから双眼鏡を取り出して、周囲を伺った。
子供のような人影を確認した。
風下から来ている。
狩猟態勢に入っている。
「みんな武器を構えろ」
ジオンは鍋を温めていた
「はぐれのコバロスかも知れん」
身長は人間の3分の1程度。
犬の頭が乗っていて、嗅覚は人間の200万倍。
全身に毛が生えていて、寒さに強い。
多産で一度に4、5匹産む、乱婚型でそれぞれ父親が違い、子供は部族で育てる。
短命で寿命は30年ほど、狩猟採取な生活、環境に応じて数が増えたり、縄張りを巡って争ったりする。
人間とは交流があり、毛皮と武器や小麦の物物交換を行なっている
飢饉になると奴隷市場に良く売られている。
姿を消す泥棒相手に嗅覚で対抗できるため金持ちには重宝されていた。
共同体はそれほど豊かではない。
この時代は奴隷制度と売春は貧者のセーフティネットなのだ。
ディアスボラ。
縄張りを追い出された部族は新天地を求めて移動する。
ベーリング海峡を渡り、新大陸まで北回りできて拡散した。
新大陸は南から赤人が、北からはコバロスやトロールが、東からは白人が、西からは倭寇の黄色人種があらわれた。ホットスポットなのだ。
身長からいって遊牧民とは考えにくいし、夜間は寝る。
遊牧民でも友好的とは限らない、気候変動でマイナス20度に達すれば、羊といえど凍死する。
そうなれば掠奪が産業になり、周辺国に襲いかかる。
ジオンも腰の剣を抜いて、
バレたと気づいたのか5体程かけだしてきた。
「ジオン。あれはゴブリンゾナ」
アナスタシア大陸では滅んだ。
自らは女性種を持たない。
緑色の身体をした醜悪な種族。
他の種族の女をレイプする事で子供を増やす。
彼等は女を苗床と呼び、尿に対して性的な興奮を覚え、縛りあげ次次とまわす。
1カ月ほどで産まれてくるが、歯や髪は生え揃い、乳など吸わずにいきなり肉食を始める。
3ヶ月ほど乳腺に刺激がなければ、捕らえられた女にも排卵が始まり、そのサイクルを繰り返す。
アナスタシア大陸では憎悪を受けて、300年前に狩尽くされた。
冒険者達の仕事が一つ減った。
新大陸ではまだ現存していて、ゴブリンシャーマンを中心とした部族が点在していて、多くの女性を苦しめている。
「
輝く小さな女性が上空へ舞い上がり、周囲を照らす。
夜行性のゴブリン達は昼のように明るくなりひるんだ。
チムチムとジオンがダッシュする。
チムチムはゴブリン2人の真ん中に位置取ると何もない空間に肉球パンチを放つ。
白いエネルギーの塊が出て、ゴブリン2体を巻き込みながら破壊した。
ラゴンは単に身体能力だけで
魔力を使う闘技と呼ぶ技を編み出していた。
ジオンの方もミスリルソードをリボンのようにしならせてゴブリン3体の首を同時に刎ねた。
「ジオン、ゴブリンだ」足で緑色の首を転がしながら「間違いないゾナ。
誰かがこの大陸に連れてきたゾナ」
チムチムは生首をジオンに蹴った。
ジオンは
博物館や美術館や植物館や動物園など世界中の珍しい動植物やモンスターなど集めるのが金持ちのステータスになっているのは確かだ。
メリルとルナが追いつく。
「殺したの?」
メリルの問いに何聞いてんだコイツ。
当たり前だろうという顔でチムチムが見た。
「足跡がある。
巣が近いかもしれん。
追ってみよう。
助けれる女性がいるかもしれない。
君達は段取りして馬をとってきて」
3人が馬に向かって歩きだす。
メリルが振り返る。
「埋葬はしないの?」
「あんな物、狼の糞になればいいさ」
チムチムが少し怒った。
「メリル。
この大陸では300年前に滅んでいる。
俺はゴブリンの宗教や信仰までは知らないんだ。
今は先に急ぎたい。
残りがどれだけいるか分からないから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます