第13話 酒場にて3
「メリル、アンタはどうなんだ。
旅の目的は古代遺跡か宇宙船の探求?
これからどうしたいんだ?」
「私は父が手にしたマスターカードで、かつて人類が暮らしていた楽園を見たい。
知りたい」
「楽園ねー」
頬を赤くさせたメリルとは対象的に、ジオンは興味あるようなないような遠い目をした。
「私1人の力じゃ無理。
お願いジオン。
力を貸して」
「師ダーヨが修行した日本に行ってみようかと思っていただけだから、別に構わない」
「危険な旅かもしれない」
「構わない」
「暗黒魔導士連合も諦めてないかもしれない」
「構わない」
「もう報酬も払えない。
何か換金できる物があれば全てジオンにあげる」
「それで構わない」
「優しいんだ。
カン違いしちゃいそう」
「気にしないで。
君が望むのならエスカチオンの出先機関に預けると言う選択肢もあるが、共に冒険すると言うならば君を守るょ。
それに宗教家達の言い放ち、戦争に駆り立てた『地上の楽園』を作るという妄言。
俺も見たくなったんだ。
旧支配達の楽園とやらを
でどこにあるか目星ついてるの?」
「
誰もが緊張した。
そこは魔石、魔性石の一大産地。
幻獣に守護された世界屈指の
宝石人の支配する領域。
「ジオン。
私の事は話したわ。
あなたの事を聞かせて」
「どこからどこまで話せばいいのか」
「ジオン。
少なくとも我らにはジオンの言い分を話せゾナ。
『魔人ジオン』悪逆非道の徒のように言われて、お前を知る人には胸が苦しかったゾナ」
「元々は国境沿いに発見されたミスリル鉱床の所属をめぐる、小さな小さな争いだった。
(妹の)アルテシアはお互い共同管理で、税金の配分だけを決めようと穏やかな提案をしていた。
カステラヤ側が軍隊を派遣して、一方的な領有権を宣言した。
ここに15年に及ぶ戦争の火蓋は切って落とされた。
その頃俺はエスカチオン国のガンダーラ総督として植民地争奪戦に携わっていたが、母に寿命がきて『君の軍事才能はアルテシアに10倍する。過去のわだかまりは捨てて、サルディーラ国を救ってくれ』と遺言した。
別に重度のシスコンじゃねー、母親の遺言が大きかった。
ちょうどアルテシアの旦那で官僚のボスだった、カストーナのアデューが死んで、国内人事は混乱を極めていて、俺が帰ったら全権将軍としてサルディーラ軍を率いた。
越境して来た軍を全て叩き返し、ミスリル鉱山を奪還したが、もう、憎しみが憎しみを産み話はそれですまなくなった」
「新教と旧教の代理戦争になって、戦争の規模が大きくなったと聞いているわ」
「旧教の幹部が腐敗していたのは皆知っていたし、新教の聖書主義も、活版印刷の普及で活字が読める層は皆入手できた。
そこで親父は
新教の中心に据えた。
人々は『魂の救済』を求め、牧師に『私の魂は救われますか?』と聞いて、『救われますょ』と答える素朴な物に変化した。旧教の『未来永劫地獄の苦しみを味わう』という恐怖の支配とは別の物だった。
親父としては旧教に対して利子を認めさせる、嫌がらせ的な分派活動だった。
ルーン文字をいじっただけの偽物入れ墨の
そんな中、エリスという
新教を真っ向から批判した、
新教に手を差し出したのがカステラヤ魔法王国。
始めは信教の自由だけを求めていたが、一夫多妻の容認、結婚年齢の引き下げ、愛さえあれば兄弟婚もOK、同性婚や獣強姦もみとめ、性的倒錯者の地位向上を約束して数集めにでた。
旧教側も捕らえていた
各地で変態達や農民の反乱が勃発、そこに変態貴族も新教を名乗りソフィア正教圏はモザイクになり、カステラヤとサルディーラの間で起こった紛争は、
もはや、鉄砲まで装備して植民地争奪戦に参加していた、練度の高い常備兵のサルディーラ軍に対して、かつて吸血民族に十字軍を繰り返していた頃の感覚で兵を集めて訓練させただけの軍隊。
戦術的に良く練られているのもあったが、結局は俺の全勝で幕を下ろした。
野戦では敵わないと見たカステラヤ軍はトポティエ要塞に引きこもった。
結局10年に及ぶ攻城戦に入った。
エリスもまた理想を語り、多くの義勇兵を集めた。
俺は補給もあるし、常備兵だけでいい。統率が取れない。彼女に解散するよう迫ったが、連合軍内の政治の駆け引きも加わった。
実質彼女を支持する白魔法使いも、長い戦争を勝ち抜く上に必要だった。
エリス軍は戦争は弱かったが、近隣の町や森や畑に火を放ち、トポティエ要塞に避難させ、備蓄の食糧を減らすという手を打った。
あの女、
義勇兵とは名ばかりの食い詰めた民衆、傭兵、牢人だかり、エリスの命令通り突撃はしたが、統率など取れていない。女神ソフィアにただ祈りを捧げる集団。
トポティエ陥落と共に義勇兵による掠奪、強姦、虐殺が始まった。
十字軍の頃と対して変わらない。騎士の誇りも軍の規律もなかった。
字の読み書きもできない、『女神ソフィアが望んでおられる』と叫びながら、火をかけ、赤ん坊を空中に投げ槍で突き刺したのを見た時、エリス達
自分達が正義に燃える集団を
エリスは槍に貫かれた血まみれの赤子を受け取った。
兵士達は『これでアッシら天国へ行けるんで』と無邪気に祈りを捧げていた。
『ジオン将軍、虐殺をやめさせてくれ。
お主にしかもうできない』
サルディーラ軍は包囲を形成していたし、グリフィン聖騎士団は予備兵力として温存していた。
白魔法使い達は呆けていたし、欲に駆られた貴族達は芸術品の独占に余念がない。
エリスの言うことをまともに聞けば包囲を解いてサルディーラ軍に介入しろ意味した。
これからもまだ戦争を続けるのに、ウチゲバを起こせば連合軍は瓦解してしまう。
エリスの涙ながらの懇願。俺の右足に縋りつき靴に口付けさえしてきたが呑める話ではなかった。
俺は髪の毛を掴み『地上の楽園を語り、理想郷を語り、魂の救済を語った。
彼女は剣先、槍先に多くの子供や娘を貫いた義勇兵の群の中で皆、彼女達
『あなた方に、天国への道が約束されるでしょう』彼女は自らの罪を直視して、ひき受けることがなかった。
俺にできた事は燃やされていない森があり、そこの一箇所だけ包囲を解く事。
『策あって分けた』と文句を言う貴族達に報告したし、追撃しようとした馬鹿には鉄砲玉をくれてやった。
そんな時
『ジオン将軍。内情は分かっている。
残った
私もここで死ぬからどうか虐殺を止めてくれ。
もう戦える者はいない。
この戦場であなたとあなたの軍団しかいない』
『虐殺は止まらない。
コレも人のもう一つの暗い性だ。
夢や理想や正義を語り、素人を巻き込んだ
あそこから多くの人が脱出した、彼らには指導者が必要だ。
森に帰り、人々を導け。
これからは『生きる為の戦い』をしろ』
俺は彼女の治療を行い、護衛をつけて森へ帰した。
俺が分かったのは犠牲を減らすには早く戦争を終結させるしかない。
その後は関を切ったように降伏がおき、金で裏切る奴は裏切らせた。調略も行い城ごと寝返らせた。
そこでカステラヤ側の使者が来た。
使者は最後の
イリヤ・カステラヤ。
王族の端に連なるが、身体に
降伏するのかと思いきや、ミスリル鉱山の帰属権を認めるから停戦しろという物だった。
カステラヤ上層部はここに至っても現状把握できてないのかと愕然とした。
俺はお前たちを滅ぼそうとしているのだぞ。
そして使者イリヤの苦しい立場も分かった。
『使者イリヤ殿、これからの話をしよう。
戦時下での条約を決めよう』
エリスを呼んで3人で会談の場を設けた、
笑えたのはお互いに『自分達こそ被害者だ、生き残る為になんでもする、自衛権の範囲内だと』主張しだした。
『後世に恥じぬ戦いをしろ、誇りの為に死ね。
籠城するなら、10日以内に降伏しないのなら、虐殺を開始する』
それからソフィア正教圏において、弱者にも生きる権利がある。
女神ソフィアが平等に与えた権利として、基本的人権について三日三晩話し合った。
以後俺は銅貨1枚でも盗んだ者は敵味方問わず処断した。
味方の連合軍からも『魔人ジオン』と恐れられた。
カステラヤを攻め滅ぼし、浮遊城一つになっても首脳陣は降伏しなかった。
摂取した飛空船を使い、鎖と魔法で引きずり下ろして乗り込んだ。
そこにあったのは、初期巨大魔導臓器によって金属に繋がれ、視覚や聴覚は城中に張り巡らされ、巨大な金属の男性シンボルには、女奴隷達が順番にまたがっている。
400年の時を生きた初代魔法王カイン・カステラヤの姿だった。
もうここまでくれば老人への虐待だ。
ここまでしなくてはならない維持できない権力機構なら、もっと早く代替わりするなり、滅ぶなりするべきだった。
俺は人工臓器も生殖器も何もかも破壊した。
カステラヤ内部に搾取するだけの王家を懐かしむ人はいなかった。
それが俺の側の真相だ」
ジオンは回された酒を飲んだ。
「ジオンは悪くないゾナ。
弱い事は罪ゾナ。
誇りをかけて戦って死にたくないのなら、生殺与奪を握られた、奴隷の平和を獲得するしかない。
彼等は身に過ぎた自由を求め、ただ罰を受けた。
ただ、それだけゾナ」
チムチムはニカっと笑った。
「
「
昔と比べて宗教や国家に弾圧されるがな」
「
「彼女達は俺と一緒で不老だ。
純真無垢な彼女達も賢くなって、幽閉されると分かっている旧教の本拠地ソフィアーネに誰も帰らなかった。
魔法的な翼を消して人間のフリもできた。
大戦後はエリス会を発足。
『奴隷解放宣言』を行い、世界中各地に散って運動に身を捧げている」
「イリヤさんはどうなったの?」
「妖精山脈に潜伏して
(妹の)アルテシアに『潰さないのか?』と問えば?
『全ての希望を奪えば自爆テロを誘発する。
ガス抜きに脅威になるまで置いておく』らしい。
権力に抵抗する論理的言動は全てここから拡散しているから放っておいたら足下をすくわれるだろう。
まあ、アルテシアにはアルテシアの考えがあるんだろう」
「他人の心配ができるなんて、ジオン様、余裕があるニャン」
「もう、食べる物食べたし、酒も飲んだ。
テントに帰ろう」
ジオンが立ち上がった。
少しふらつく。
チムチムとメリルが立って支えた。
「相変わらず、酒に弱いゾナ。
一杯も飲んではなかろうに」
「久しぶりだしなぁ、
2人に支えられて歩きだす。
勘定の方はルナが済ませた。
「こんなに弱いなんて、暗殺者でも来たらどうするのょ」
支えるメリルが文句を言う。
「その時はチムチムが守ってくれるさぁ」
「任せるといいゾナ。
今夜は久しぶりゆっくりするといいゾナ」
チムチムが胸を叩いた。
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