第11話 酒場にて

 とりあえず場所を移動しよう。

 ということになった。

 ジオンが泣き出したチムチムの肩を抱いて、酒を提供するテントへと移動する。

 白の大型のゲルへと移動する。

「親父、入るぞ、4人分席あるか」

 絨毯の上に座し、中央に盛られた串焼きの羊肉をそれぞれ啄む形式。

「親父、馬乳酒は回し飲みするから一杯でいい」

「相変わらず弱いねぇ」

「酒やタバコを回し飲みするのは、友人としてのコイツの集団の習慣なんだ」

 ジオンはクシャクシャとチムチムの頭を撫でた。

獣人アニマルフォーク?でも、なんか、毛色が違うな。

 この辺は獣人は隊商の奴隷か、旅の冒険者しか見ないから詳しくは分からないけど、手が違う」

 獣人アニマルフォークは反転母趾があり、人間の道具を器用に使いこなすが、手首の親指側に第6の指が小指側に第7の指があるパンダ手なのだ。

 手のひらは肉球で出来ていて、肘にかけてまでびっしりとネコ科の動物のように短毛が生えており、足も膝まで同じ構造。

 下着を履かないのも、それを扱う器用さがない。

 反転母趾が無い事に関しては袋猫も一緒で手首に第6の指しかなく、器用さは人間に遥かに及ばないが、リーダーのいない集団が協力しあって生きている。

 彼等にとってお互いの毛繕いグルーミングに時間をかけるが、群を維持するための重要な儀式である。

 知的生命体の条件に反転母趾をあげる学者とそうでない学者の間で意見が割れている。

「我らはラゴン待つ人

 獣人アニマルフォークなどこの地に適応させた融合種。

 我らは宇宙戦士コスモウォリアー、グイン将軍の帰還を待ち、再度混沌カオティックと戦う調整者ゾナ」

 獣人アニマルフォークは腕力の強いパンダ型、脚力の強いラビット型、走るのに特化した馬娘型、バランス的に人間の上位互換イヌ型、幻術に特化して魔法も使えるキツネ型やタヌキ型、翼で物を掴む事もできるが基本槍を鍵足で戦う鳥人間ハーピーや水陸両用のダック型など色々いる。

「親父。

 彼女は学者の分類では獣頭種。

 女は猫耳、尻尾の獣人アニマルフォークに見た目は近いが、男は獣の頭が乗っている。

 混沌大陸ケイオスランドの軍団が新大陸目指して北上したが素手で全て返り討ちにした、パナマに拠点を構えた最強民族。

 怒らせたら俺より強いぞ」

 獣頭種は宇宙船で改造された全ての獣人アニマルフォークの祖と言われている。

「ジオンさん。

 この世にアンタより強い奴がいるのかい」

 調理しながら驚いた。

「空を飛ぶビーヤーキーや海を行くディープワンは、防げなかったし、それにジオンよりはチョット弱い」

 チムチムは少し赤面させた。

 ビーヤーキーは混沌の風の邪神ハスターを信奉する、骨と皮で出来ていて、草食の獣のような痩せた頭部が乗っている。身長は人間程で、コウモリのような2メートル程度の大きな翼を持っている。

 宇宙空間をもかける。

 ディープワンはサルガッソーの海に生息して、水の邪神クトゥルフを信奉していて、甲乙のない魚顔した二足歩行の混沌生物。人魚マーメイド半魚人ギザオンと海の覇権を争っている。

 雄しかいないため、子孫を作るのに知的生命体の女が必要だったし、ビーヤーキーの方も星の精スターチャイルド(脳が露出した人間ぐらいの大きさの大型のハエ)を召喚するのに、正しい星辰の位置にある時、ゲートを開く生贄が必要だった。

 混沌大陸ケイオスランドにいる赤人(低酸素地帯がメインの居住区で赤血球が多く全身が赤い)が迫害を逃れて新大陸に大量移動した時、獣頭種は護衛についた。

「謙遜するな。

 まぁ、世の中は広いということだ」

 4人が座ると食事がでてきた。

 酒を回し飲みする。

 チムチムがニカっと笑う。

「これで我らは仲間ゾナ。

 群れの一員ゾナ」

「初めての人間もいる、とりあえず自己紹介をしよう」

 ジオンが2周目を受け取って口をつけた。

「我はチムチム。

 誇り高いラゴンの一族の端に連なる物」

「僕はルナ。

 魔物大陸出身の袋猫ニャン」

「私はメリル。

 大学教授アダマンタイトの娘」

「俺の名はジオン・サルディーラ。

 今は一介の旅人だ。

 ジオンと呼んでくれればいい。

 それよりチムチム、新大陸からアナスタシア大陸まで何しに来たんだ?」

「ジオンが大陸に帰った後、モア様の護衛として一緒に混沌大陸ケイオスランドを探検したゾナ。

 世界初の真の探検家はモアゾナ。

 冒険者アメリカなんて飛空船で飛んだだけ、原地の住民と会い、習慣や風俗を明記し、動物や植物を採集したのはモアゾナ」

「モア・サルディーラって、やっぱり生きていてアルフレンド・ボカッチオと同一人物なの?」

 メリルの問いにジオンは黙ってうなずいた。

「ちょうど旅の途中で戦闘で片腕失ったし、向こうはアナスタシア大陸のようなカステラヤ魔法王国産の義手義足もないし、《四肢再生》の白魔法を使える宣教師もいないゾナ。

 ちょうど可愛い女の子になりたかったから、人工子宮が開いたから転生したゾナ」

「輪廻転生は肉体を選べる物なの?

 前世の記憶は受け継がれるものなの?」

「メリル。

 彼ら、いや、彼女ら、ラゴンは旧支配者の宇宙船時代の技術が残っていて、魂を空の肉体に移すんだょ。

 十月十日経たないと魂は目覚めないし、魂を入れないとES細胞は成長しない。

 骨や臓器まで人工的に育てる技術はない。ホルモンバランスを崩した女体のラゴンが母乳で育てる。

 元の肉体は機械の中に吸収される」

「自然じゃない」

「神の摂理に反するか」

 ジオンが薄く笑った。

「この惑星テラを作りし文明は崩壊。

 各地に墜落した宇宙船は、積んでいた民族と近しい風土と共に木石から文明をやり直しゾナ。

 我らは戦闘に特化しすぎて、人工子宮によるデザイナーベイビーが出来なければ、種として絶滅してしまうゾナ」

「メリル様、いい、悪いの問題じゃないニャン」

「でも」

「ラゴンの500年をお前の個人の道徳で裁くのは傲慢だぞ」

「我がこの大陸にきたのは、なぜ白人が世界を席巻して、我らの側が向こうに侵略出来なかったゾナ。

 その謎を解明するために選ばれたゾナ」

 チムチムはデカい胸を張った。

「ジオン様達は、なぜだと思うニャン?」

「胡椒に対する執念、執着。

 学者先生はどう思う?」

 皆の前に羊肉の串焼きがだされた。

 それぞれが手を伸ばす。

「好奇心かな」

「えらく抽象的な」

「学問の自由。見たい、知りたいという欲求を誰にも止められなかった。

 先取りの気風を生んだ」

「自由か、

 ルナと旅してそんなに自由ではなく見えたゾナ。

 モアと旅して、この大陸の言葉を覚えていたし、ジオンにこの身体の初めてをあげようと思うたし、女の方が顔の作りが人間に似ているから、我が行くことになったゾナ。

 旅の途中、唯一の弱点であるマタタビを嗅がせられ酔っ払われている所を奴隷商人に捕らえられて、この大陸まで移送されることになったゾナ。

 前後不覚になった所をルナに助けられたゾナ。

 マタタビを普通の香料にすり替えてくれたゾナ」

「こんな年のいかないお嬢さんが、隷属の首輪をはめられて貴族に一生弄ばれるなんて可哀想だし、マタタビの匂いさえなくなればチムチムが強い事も分かっていたニャン」

「それに動けない我が、船員に辱められている所を『商品に手を出すな』と身を挺して庇ってくれたゾナ、

 大陸が近いとわかった時、檻を破壊して船員全員を殺した。

 乗り合わせた商人に船を売って、旅の路銀にして、リュックサック一杯、金貨を詰め込んでルナと共にサルディーラまできたら、モアは暗黒大陸に探検にいってるし、ジオンは戦争が終わって東に旅立ったというから追ってきたゾナ。

 モアはどこにいるかわからない。

 ジオンは目立つ馬を連れていたから選択は一つゾナ。

 馬を買ってルナを乗せてジオンを追ってきたゾナ」

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