第10話 メリルとマルス2

 金髪の女が左耳を押さえて、血を流している人差し指を見た。

「さすがジオン。

 噂に違わぬ男」

 唇をヒューと吹いた。


 マルスがモグモグ、麦藁を食べている。

「メリルさんは何故、冒険なんか?

 女で学者さんなんだから、人を雇い報告を待つと言う選択肢もあったのでは?」

「人々が追放された、

 という楽園があるのなら、

 この目で見てみたいの」

「ロマンチストなんですね」

「ジオンって、どんな人なの?」

「第一印象はどうですか?

 あなたが感じられたような方ですょ」

「そりゃ、生命まで助けてもらったし、吊り橋効果を含めたとしても最高ょ、

 ただ、余りいい噂は聞かない」

「ちなみに、世間ではどのような話が流行ってますか?」

「重度のシスコンで自分を追い出した妹の為に、サルディーラ軍を率いて戦い。

 怒りに任せてカステラヤ魔法王国を滅ぼしたら、戦争の天才でありながら政治力0で国から追い出された。

 トポティエ要塞の虐殺を指揮し、敵からも味方からも『魔人ジオン』と畏怖された」

「まあ、だいたい合っているんじゃないですか?」

「バカウマ。

 否定しなさいょ」

「ジオン様にはジオン様にも言い分はあると思いますょ、

 直接聞いてみたらどうですか。

 まあ、あのような方ですから、余り自分の事は話されないし、へんな言い訳もしません。

 会ったばかりのあなたにどこまで心を開かれるか、アッシには分かりませんけど」

「お酒なんかどうかなぁ?」

「酒樽ドワーフと比べるとほとんど飲めません。

 祝宴でも1人でチビチビやってましたから」

「ガードは固いんだ。

 例えばだけど、

 女性関係とかどうなの?」

「気になります?」

 メリルは顔を赤面させてコクリと頷いた。

「そりゃ、おもてになりましたょ。

 元王子で女王アルテシア様に息子が1人しかいませんから、実質王位継承権2位。

 アルテシア様は夫に先立たれて再婚する気なし、半妖精ハーフアルフですからまだ10代の容姿。

 ジオン様だってリーファ様という妻がいますが、年上だったからもう60才、そりゃ馬鹿な貴族の親子で・・」

「ジオン。

 結婚していたの」

「元々父親のモア様はジオン様に性奴隷を買ってあげていましたが、凄いブスと政略結婚させられるのが嫌で奴隷も置いて旅に出た。

 そんな時、戦場でモア様が殺され、リリア様が後追い自殺。

 棚ぼた的にアルテシア様に王位が転がりこんできて、

 遊牧民の中で生活していた所を捜索隊のリーンファ様に見つかって、もう逃げられないと思い結婚したと」

「リーンファ様ってのは生きてるの?」

「ジオン様はエスカチオン国のガンダーラ総督に任命され、ジオン様が戦争のためサルディーラに帰国された時にガンダーラ総督代行になり、ジオン様の留守を守っておいで、15年も前の事ですし、生きているかどうかまで知りません」

 メリルは反対に台を持って移動してブラシをかけなおした。

「会いに行かなくていいの?」

「アッシも、そう言ったのですが『別れならすませてある』の一言。

 夫婦のことですし、あまり立ち入った話も聞けませんでした」

「子供とかいないの?」

「ええ、いませんょ。

 いたら、多分帰りますょ」

「それでも、彼は帰るべきだと思う」

「直接言われてみてはいかがですか?

 干渉されることを極端に嫌がる人ですけど。

 嫌われる覚悟がおありならですがね」

 ここでジオンに嫌われたらメリルは生きてはいけない。

 やはり計算が働く。

 こうして旅に帯同させてもらえているのもジオンの好意だ。

 嫌われることはできない。

「人間にとってドワーフって、性的に倒錯している事になるのかなぁ?」

「合法ロリって言って、それでハーレム作っている貴族いますからねぇ。

 ジオン様は今更悪名が一つ増えたって気にする人ではありません。

『言わば言え、我することぞ我のみぞ知る』という方ですから」

 向こうからジオンが籠をひっさげてやってくる。

 どことなく雰囲気が変わった。

 疲れている。

「何かあった?」

「色々ね、

 まだ麻薬が抜け切っていない」

「男って、1人にするとコレだから」

巫女シャーマンの世界観を味わってきたかな。

 同じ物を見ても宗教によって解釈は違うけど」

「唯一神は大きな精霊に過ぎないとかいう奴」

「そう、それそれ。

 精霊籠をバッグの中に入れてくる。

 食事にでも行こうか、

 これからのことも話あいたい」

「高価なものだし、見張りとかいいの?」

「マルスもいるし、コマンドワードを唱えずに触れたら電撃で痺れる仕様になっている。

 俺が心を開いた者にしか開けられないし」

 その時、馬の入り口から声がする。

「ジオン」

 黒の猫耳、頭を超える黒の尻尾。

 大きなリュックサックを背負っていた。

 大きな布に丸く穴を開けて首を通しただけの、粗末な服、腰の部分紐で結んだだけで、両脇から下着をつけてないのが丸見え。

 馬を降りると泣きながらジオンに飛び着いた。

 ジオンも受けとめながらも、勢いが強く、押し倒される。

「お前、誰だょ」

「チムチムゾナ」

 メリルは見た。

 普通獣人アニマルフォークは人間と身長は変わらない。

 人間にしてはジオンはかなり大柄な方だが、この娘、小柄なのだ、

 その割にオッパイがデカい。

 自分より少し身長かあるぐらいなのに6回りほどデカい。

「遥か新大陸からお前を追ってきたゾナ。

 途中で相棒のルナを仲間にして、二人でなんとか協力して、大陸を渡り、追いついたゾナ」

 馬の上に体高50センチ程の袋猫がちょこんと座っている。

 背中にはそれなりのリュックをからっていて、調理器具やサバイバル器具一式が見えた。

 最後に白人に発見された大陸。

 魔物大陸と命名された。

 有袋類という独自に進化させた動物がいて、猫を直立させたような体高50センチ程の袋猫が唯一の知的生命体。

 北部はユーラシア大陸東南の人間が踏み込めない大胞子地帯、巨大昆虫がはばをきかせている。

 魔物大陸北部は胞子の影響を受けた。

 袋猫達は昆虫食を中心に大陸胞子地帯で共存していた。

 彼らは環境適応して、熱帯の大菌類地帯もマスクなしでも大丈夫。

「よろしくニャ」

 とあいさつしてきた。

 ジオンは泣き出したチムチムの両肩を掴んで引き剥がしながら聞いた。

「なぜ、お前。女になっている」


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