第7話 |幽霊世界《アストラル・ワールド》

 メリンダの身体から幽体アストラルボディがでてくる。

 魂は妖艶なる美女の姿をしていた。

 軽く浮きながらジオンの所に来る、ジオンの身体から幽体アストラルボディを取り出した。

 互いに天井を漂う。

「目を開けても良いぞ」

「浮いてる」

「幽体離脱は初めてか」

「いや、何度か経験はある、大丈夫なのか」

「死んではおらん。

 霊糸スピリチュアル・ケーブルでつながっている内は大丈夫じゃて。

 身体の心臓は動いておるし、

 切られても魂が死の精霊レイスに連れて行かれないなら、蘇生してやる」

 ジオンの魂は現世の服を着ていたが、若返ったメリンダの魂は裸だった。

「アンタも服を着ろょ。

 だいたいなんで若返ってるんだょ」

「魂に年齢は関係無い、婆程の術者になれば魂のみかけの年齢など自由に変えられる。

 お主達は生霊じゃから現世の姿を反映させる」

 宝石を散りばめたシースルーの服になり、妖艶さが増した。

 左手でジオンの二の腕を掴み、右手に宝石の入った錫杖を持った。

「婆の側を離れるでないぞ、死の精霊レイスに見つかると厄介だ、ケンカせずに隠れてやり過ごすぞ」

「俺に憑いている霊達はどうなった」

「皆、煙に巻いておる。

 ワシらの事に気づいておらん。

 誰もついてきておらん」

 2人の幽体アストラルボディは天井を抜け、上空へと抜けた。

「戦場を一望するためここまでは経験もあろう。

 精霊界アウタープレーンに飛ぶぞ」

 一瞬で光景が変わる。

 腰までつかる黄金の菜の花畑のような光の海。

 立っているか、浮いてるか分からない微妙な感覚。

 空はたくさん太陽の群れ。

 さすがのジオンも自分を掴む手を、そっと反対の手で確認した。

「以外と可愛い所もあるんじゃのう。

 霊に距離は関係ない。

 死んだ人間が枕元に立ってお別れをいう原理じゃ。

 知った人間、知っている場所には瞬間移動できる」

「ここは?」

精霊界アウタープレーン

 あらゆる民族の、アニミズムの祈祷師がやって来てここで《防護》や《治癒》と言った、使えそうな精霊スピリットを捕まえて物質世界プライムプレーンに連れ帰る。

 小さな部族ならそれだけで支配的地位が約束される。

 常人はここまでは来れない。

 死の精霊レイスによって魂の緒を切られ、丸い光の塊になって、死の精霊に抱かれて、光の波動で会話しながら輪廻へと歩いていく。

 走馬灯のように現世の思い出を語りながら」

「前世の記憶はないぞ」

世界樹の葉アカシックレコードで、自分が人生に課した課題と答え合わせした後、輪廻の精霊の海に洗われて前世の記憶と共に罪も綺麗に洗い流す。

 お主たちの宗教観だと煉獄の炎に焼かれるのか。

 お主達を送り出した光の共同体ソウルメイトの下に帰る」

 メリンダは空を指差した。

 大きな光がたくさんある。

光の共同体ソウルメイト?」

「ここは人々が懐かしむ、魂の原始の風景。

 天国も地獄もない。

 人の弱さを知り抜いたソフィアや仏教が、正しく生きねば地獄に落ちるとした方便。

 元々双方とも、智慧をありがたがる教えが進歩した物。

 神の愛も仏の慈悲も似たようなものじゃ。

 光の中で暮す集団は一個の料理を分け合って食べるか、我欲剥き出しに奪い合うかは所属する集団の性質があるだけ、修羅界や餓鬼道と名付けておるが」

「魂の集団?」

「原初は血縁集団じゃった?

 宗教が産まれる前は子供を作る事を生まれ変わり先を作るという概念がある。

 東洋人が徹底して血縁しか信じないのは家というのが産まれ変わり先であり、子は天からの授かり物として受け入れる魂の最小単位の共同体。

 『人類みな兄弟』と宗教家はいうが、東洋人は顔でにこやかに笑ってみせて、『血は水より濃い』と腹で舌をだして笑っている。

 義の国と言いながら姉妹や娘を娶って血縁になるのが当たり前、王朝が変わる度に、国家を納めるカバネが変わり、旧王朝の九族皆殺しを行い産まれ変わり先を潰す」

「生まれ変わり先を潰された魂の集団はどうなる」

「解散じゃ。

 宗教を頼る者、民族を頼る者、種族を頼る者、遠縁を頼る者、あるいは一粒種を見つけて指導霊として見守る者、あるいは怨霊となりて新王朝を呪う者、色々じゃて。

 多くの宗教は因果応報と赦しとのせめぎ合いじゃ。

 それでも魂の集団ソウルメイトは自ら成長するため、今日も現世に魂を送り出す。

 使命感に燃える魂もあろう。

 嫌がるのを無理矢理押し出されるのもあろう。

 現世に産まれる赤子は余りにも無力で、魂は無垢だ。

 受け入れる側もそれなりの社会を築いておかねばならない。

 魂の共同体ソウルメイトは血縁を信じて送り出すのじゃ。

 それなのに出来物が出来たぐらいの感覚で堕胎したり、間引きを行ったりする。

 子殺しは親殺しじゃ、きちんと家庭を築けなかった報いじゃろうて。

 供養されたのなら死の精霊も気づくじゃろうが、かれらも戦場や寿命が来た人に張り付いて忙しい。

 水子の霊となって、親を怒り、社会を憎み、生きている人間が羨ましくて、戦争を起こしたり、殺し合いをさせたりする。

 水が蒸発して雲となり、雨となり大地を潤し生命を育み、川に流れ海に還るように。

 魂もまた巡る。

 皆、嘆いておる。

 お主の馬のように闇堕ちする者、アンデットになる者、悪魔との取り引きに使われ食べられる者。

 多くが帰って来ぬのじゃ」

「魂が帰ってこないなら人工は減るだろう。

 どの民族も増えているぞ」

「現世で自分が課した、課題をこなした修業した魂は大きくなって還ってくるのだ、

 それを小分けして現世に送り出す。

 魂の兄弟ソウルブラザーとして現世で協力しあう。

 複数の人生を経験し成長することは志の高い魂にとっても嬉しい事だ。

 高潔に生き高徳を積んでおれば、それはそれは眩しい光になる」

「高潔?高徳?」

「支配でもなく、被支配でもない、一緒にいて心地の良い人。

 魂はそういう人に惹かれる。

 計算でもない、その場しのぎでもない、相手の成長促すという、優しさの連鎖。

 サルディーラ王朝の魂は修羅道ぞ。

 誰も魅了しない小さな光ぞ」

「子供がいなかったらどうなる?」

「養子をとれば良い。

 きちんと親子関係を重ねれば、魂の交ざり合いがおき、魂の共同体ソウルメイトとしてお互いにむかえあう。

 最たる物が宗教であり、民族じゃ。

 皆、魂の交ざり合いを行なっておる。

 あまりに徳が高い宗教家は死の精霊レイスにスカウトされるがな」

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