第4話 基礎練習

 日が沈んでいく。

 オアシスの湖面を赤い光をキラキラと反射している。

 東洋と西洋を分ける長いエリクサ草原地帯。

 多くの羊の皮で作ったテントが密集していた。

「日が沈む前にバザールに着いたか」

 子供達が家路を急いでいる。

 商人達が店をたたみはじめた。

 閉めかかった武器屋の前につくと、ジオンは無理を言って開けさせた。

「いらしゃいませ」

 あまり愛想は良くなかった。

 品揃えはあまり良くない。

 修復や研ぎをメインにやっているだろう。

「この娘は小人ドワーフ、基礎練習用の何かいい武器を見繕ってくれ」

「投げることもできる投げ斧あたりはいかがでしょう。バランスが良くて扱いやすい」

 2人の会話を聞いてメリルは「武器の扱いなんて、体育でやっただけょ」

「最後に自分を守るのは自分だけだぞ。

 練習しておけ。

 技量はともかく小人ドワーフが斧持ってるだけで敵はビビる」

 ジオンは商人に向き直る。

「それでいい。

 それからそこにある木のスモールシールドも、

 この娘に合うようサイズを調整してくれ」

 一応鉄で周囲は補強してある。

 丸いサイズである。

 メリルの腕のサイズを測ってから、腕を通す所と握る所を取り付けた。

「出来たょ、試してみてくれ」

 メリルが通してみる。

「いいんじゃないかな、武器には詳しくないけど」

「店長。ここに銀貨5枚置いとくぞ」

 銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚とレートが決まっている。

 希少度で大きさや重さが決められている。

 コインに王の顔を彫るのは、マスメディアなき時代の王室の宣伝である。

 鉛とか入れて水増ししないのが国のプライドであるが、大陸中央では両替商人による計り売りが基本である。

 ジオンを信用しているのか確認はしなかった。

 基本、人の1日の生活費が銅貨6枚程度。

「行くぞ」

 メリルを促して外に出た。

 馬をつなげる宿屋についた。

 ジオンはマルスをつなぐと首輪を横にかけた。

 基本馬の声帯構造はしゃべれる様にできてない。

 この首輪をはめる事で大気の魔法に作用して人間の言葉を動物が話すようになる。

 大気をトランシーバーの様に使う魔法の応用だ。

 外せばただの馬だ。

 ジオンは馬に取り付けてあったホールディングスバッグを外した。

「メリル、体育で習った、縦振り、横振りの練習をしろ」

「ハー」とため息をついて盾と斧を取り出した。

 ジオンはメリルの頭の頂点に人差し指を置いて。

「ここから、股間まで軸を感じれるようになったら次に進む」

「リーチが短い小人ドワーフは走りながら切るとかいうテクニックが必要になってくるのでは」

「そんな物は腰動部や関節の中に球体の様な物を感じられる様になってからだ。

 小人ドワーフは頑丈な鎧を着て、カウンターを狙って一歩踏み込んでが戦術だ」

「どれぐらいかかるの?」

「才能があれば3カ月。

 無ければ2年立っても身につかない」

 ホールディングスバッグを両肩に担いだ。

 背中まで入れれば100キロになるが、元軍人だけあって平然と歩いている。

「何か能力がつくとかスキルが上がるとかのマジックアイテムとかないの」

「ある。

 貴族のボンボンが使う」

 ホールディングスバッグをテントに入れて戻ってきた。

「柄だけ握っていれば勝手に戦うのもあるが、ヘッピリ腰で、最悪転ぶ。

 かえって危ない。

 憑依型もあるが戦闘後、身体を乗っ取られる可能性がある。

 上手い話はない。

 努力しろ」

 馬の鞍を外した。

「足は肩幅にしろ」

 鞍を持ったまま軽く蹴飛ばして足の幅を調整する。

「軍人の教え方」

 この時代にパワハラの概念はない。

「武器を振る時に小さく息を吐け。

 息は止めるな。

 一生懸命力を入れているのは分かるが、握力以外は脱力しろ。

 体育の先生は教えてくれなかったか」

「1日どれぐらい練習すればいいの?」

「自分で決めろ、メリルは俺の部下じゃない。

 手の皮が剥けるまでやってもいいが、もったいないから回復用のポーションは使わないぞ」

「えげつ」

「はははははは。

 俺は構成精霊使いエレメンタリスト巫女シャーマンを探して水の精霊ウィンディーネを補給するから、練習が終わったらマルスにブラシでもかけといてくれ」

「女の子をコキ使って恥ずかしくない」

「働いた方が気兼ねしなくていいだろう。

 帰って来たら飯に行こう」

 

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