第3話 埋葬

「メリル。人間の死体ばかりだが、関係者なのか、お前以外救えなかった」

「私のお父さん小人ドワーフにしては変わり者で、考古学、旧支配者の文明や創生神話から宇宙の謎を解き明かす学問をしていたの。

 私もその影響を受けて同じ道を進んだ」

 この時代、親の職業を疑問を持たずに受け継ぐ事が普通だ。

「ある日、この惑星に点在する旧支配者の在処が載っているマスターカードを手に入れた、たぶんコレは宇宙船の中に入る鍵になる。

 お父さんは各地の諸国を回って探索隊をだすように王室や貴族に依頼した。

 かつての文明や技術に興味を持ったエスカチオン国が人や飛空船を用意してくれたの」

 メリルは少し涙ぐんだ。

「小さい頃から本が好きで、炭鉱街でも浮いていた私を養女にしてくれて大学まで通わせて、自分の研究室に入れてくれた良い人だったけど、

 冒険前に急死して、降霊の結果、私が後継者として仕事を引き継ぐ事になった」

「大変だったんだなぁ」

「49歳。人間の寿命から年上だけど新米の教授、若い探検家リーダーに皆親切でした」

「ともらおう、このままじゃ、狼に食べられるだけで可哀想。

 君は焼け跡から旅に必要な物を集めなさい。

 俺は穴を掘るょ」

 ジオンが馬から降りてから、メリルを下ろした。

「アッシはどうしましょう」

 馬が口を開いた。

「この馬しゃべった」

 メリルが驚いた。

「人前ではしゃべるなと言っているだろう」

「ジオン様、そんなこと言われましてもメリルさんを連れて歩く気なんでしょう。

 アッシの事を紹介してもよろしいのでは?

 メリルさんはガチガチのソフィアの信者じゃないんでしょう」

「違うわ、学者だから異文化や異端にも寛容ょ。

 共感するかどうかは分からないけど、反対意見の主張は聞くわ」

「この馬は魔法陣を描いて人の魂を焼き付けてある。

 輪廻の環から外す行為、

 ソフィアの連中はギャーギャー騒ぐ。

 誰にも言うなょ」

「人倫を外れる魔法の研究はどの国もやってます。

 やってない国は戦争に負けるんです。

 動物だけでなく、魂を焼けつける金属ヒイロイカネなどもあり、インテリジェンスソードやリビングアーマーなど原料になったんですょ。

 輪廻転生で知識や技術が失われるのを恐れて、教会に内緒でこっそりやるんです」

「アンタも何か特別なの」

「これからはアンタでなくてマルスでお願いします」

 マルスが頭を下げた。

「アッシの場合は金ですね。

 この身体の馬が死ぬと魂は死の精霊に見つかって輪廻の環に連れて行かれるでしょう」

 ジオンは大地の精霊・岩男ノームを呼び出して穴を掘った。耕すのにもつかえる。

 火の精霊サラマンダーで料理したり、光の精霊ウィル・オー・ウィスプなどで明かりを取れるが一般的には普及してない。

「その身体になって金なんか意味がないじゃない」

「聞いて下さい、お嬢さん。

 聞くも涙。

 語るも涙の物語があるんですょ」

 マルスは涙を流した。

「くだらねーこと言ってないで、あの連中の所に行って死体を片付けるように言ってこい」

「いいんですか。しゃべっても」

「連中はソフィアに告げ口はせんだろう」

「やれやれ、顔を見せたら殺すとか言ってたくせに」

 マルスはトコトコ歩きだした。

 帰ってくる頃にはワイバーンの傷の治療をしている実験体の少女以外、4人がマルスの後についてやってくる。

 2人1組になって死体を穴の中へ運ぶ。

 ジオンが埋め戻しを終える頃、荷物をまとめたメリルが帰って来る。

 即席の墓の前にジオンとメリルが立った。

 同時に5人の暗黒魔導士達もフードをとり鎮痛な面持ちで少し頭を垂れている。

「新教と旧教のどちらだ」

 ジオンがメリルに問う。

「知らない。でも共通のやつで」

「我ら迷い子を等しく愛し給う大いなるソフィアょ。

 この者らの魂を輪廻の環に連れて行き給え」

 戦場で牧師も神官もいない場合、ジオンが略式でやっていた。

 正式な奴と違って、死霊使いネクロマンサーにもてあそばれない効果はない。

 輪廻転生を皆信じているから火葬でも可。

 敵に利用されたくない時は火葬していた。

 ジオンが胸で十字を切った。

 ソフィアの聖印シンボル聖偶像アイコンのない十字架なのだ。

「こんな形になったが、ここで会ったのも何かの縁。

 自己紹介させてくれ」

 ジオンも戦いの興奮も冷めてきている。

 コクリと小さく頷いた。

「争いの理由は口にするな。

 知れば戦わねばならなくなるかも知れない。

 埋葬も手伝ってくれたし、友人として別れたい」

「当然だ」

 額に魔石を埋め込んだリーダーが答えた。

「私の名はヨハン。

 このパーティーのリーダーだ」

「彼女はサロメ」

 サキュバスを紹介した。

「彼女はシル。自称魔族だ」

「彼はタビテ」

「私は漆黒のチムナター。

 禁じられた実験体96号にして、禁呪エクスプロージョンを単体で使いし者」

 紹介される前にポーズを取った。

「間違ってはいないけど」

 ヨハンが苦笑する。

 ジオンはメリルをマルスに乗せた。

「ジオン様はこれからどうされるおつもりでしょうか?」

「水筒替りの水の精霊ウィンディーネがオシャカになった」

 1魔力を供給すれば水の精霊ウィンディーネは1リットルの水に変換してくれる。

 真水の確保が出来ないなら、近代戦において補給の4割は水になる

「近くのオアシスのバザールに寄って水の精霊を補充する。

 そこから先はメリルと相談だ」

 1魔力は1キロの物体を1メートル、1分間浮上させる能力が単位の基準であり、魔法学園アカデミーの平均値がだいたい20程度である。

「精霊の件は、すみません」

「精霊の件なら、お互い様だ」

「飛行石はどうしましょう」

 空中に浮いてある飛行石を指差した。

「アンタらが好きにしてくれ、エスカチオンにそこまで義理はない」

 ジオンはマルスをひいて歩きだした。


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