第2話 冒険の予感

 ワイバーンが着陸する。

 お互いに魔法を使ったから範囲魔法がある。

 三方向にそれぞれ止まった。

「その娘は病気だ、強力な伝染病を持っている。

 早く治療しなければならない。すぐに渡せ」

「なんて事言うんだ。もう少しマシなウソをつけ、モブらしい言動をしろ」

 メリルが叫んだ。

「交渉の余地が無いのなら強引に行くぞ」

 漆黒のローブを纏い顔を隠した6人が身構える。

 ジオンも4つのカバンを開けて身構えた。

「来いょ」

 薄く微笑んだ。

「麻痺せよ」

 リーダー格の男から即興魔法に分類される短い呪文スペルが飛んだ。

 ジオンの胸のペンダントが輝いた。

 先程声をかけてきたリーダー格の男が硬直してひっくり返る。

「気をつけろ」

「魔法を使うな」

魔法反射マジックリフレクションだ」

 お互いに声をかけあう。

「ジオン、アンタ何者。

 魔法防御のオリハルコンは聞いたことがあるけど。

 反射するなんて超強力なオリハルコンじゃない」

「旅人さ」

 精霊籠を3つ取り出した。

「全てを焼き尽くす炎の精霊サラマンダーょ、正面のワイバーンを襲え」

「大気を震わす電気の精霊ラムゥょ、左後方のワイバーンを襲え」

「全てを凍結させる氷の精霊ょ、右後方のワイバーンを襲え」

 小さな火蜥蜴サラマンダーが、小さな虹色の鏡虫ラムゥが、ちいさな瞳のない氷の美女シヴァがそれぞれワイバーンに襲いかかった。

 構成精霊エレメント・スピリットは魔法か魔法の武器でしか傷つかない。炎を吐けないワイバーンに有効的な攻撃方法はない。

 あちこちで火傷をおい、あちこちで痺れ、あちこちで凍傷をおかした。

「しゃらくせい、やっておしまい」

 女の声でローブをはいだ。

 そこには手と足の関節がある。四角い身体、四角い手足、頭部にはジオンが使う精霊籠。

 そこにはジオンが使う精霊籠の10倍はあった。

 炎の精霊サラマンダーが入っていた。

 関節は知恵の輪のような鎖で繋がっている。

 原始の自動人形オートマタ

 本来人形操作の魔法は日本の付喪神系で、想いを込めた友達人形が動きだす魔法であり、白魔法使いが戦闘で使うゴーレム系の魔法とは一線をかくす。

 だがこれは不恰好であるが戦闘用の自動人形オートマタ、友達想いが宿る意識の部分で構成精霊エレメント・スピリットを使ってきている、将来量産を見据えた実験機プロトタイプ

 頭の炎を膨らませて四つ足になって向かってくる、新しい籠を3つ取り出した。

「命を育む水の精霊ウィンディーネょ、炎を打ち消せ」

 小さな妖艶なる美女の姿をした精霊ウィンディーネが向かっていく。

 構成精霊エレメント・スピリットによる対抗がおきた、精霊の大小によらず火と水の精霊は打ち消しあって消えてしまう。

 火と水、大気と大地、光(炎の従属精霊)と闇(大地の従属精霊)、雷(大気の従属精霊、研究が進むと運動の精霊、振動の精霊とも呼ばれる)と氷(水の従属精霊、研究が進むと静寂の精霊、無動の精霊とも呼ばれる)それぞれが打ち消しあう。

 四つ足の炎は消えて崩れ落ちる。

「天地を切り裂く風の精霊シルフよ、我が剣に宿りて、あの女を牽制せょ」

 今まで片手剣が幅広の両手剣に変形すると、飛行してローブを剥いだ女に襲いかかった。

 ヒラヒラする薄い鉄片にも変形する優れ物。

 熟練すれば鞭のようにしならせながら周囲を切断する。

 正面の2人組は解呪の魔法を唱えている、それと同時にジオンを中心に上空に巨大な魔法陣が展開した。

「暗黒の極大に住まう漆黒の魔神−・・」

 ローブを纏っているが声から少女と理解できる。

 右手で上空に魔法杖を回し左手で小瓶の触媒をばら撒き、軍団や都市を吹き飛ばすというエクスプロージョンを唱え始めた。

 いかに最近、女性が子宮が空の時は魔力をため込む技術が確立したとはいえ(もっとも受精卵の魔力被爆が増える原因にもなった)単体で使える魔法使いなんて聞いた事がない。

「複数の魔法使いや生贄がいる儀式魔法じゃないの」

 驚くメリル。

「それを単体で唱えるなんて」

 ジオンは精霊籠を鞍に引っかけて、背中の腰の部分に履いてある、遊牧民が使うショートボウを取り出した。

 騎乗弓の技術で遊牧民族ミリディアは鉄砲の集中運用が開発されるまで野戦最強を誇り、東方では1万の軍隊が6人の騎乗兵に蹂躙されて、あまり逃走する者が多いから座らせて戦わせたという記録もある。

 馬を呪文スペルを唱える魔法使いに走らせた。

 カバンから矢を取り出し直ぐにつがえる。

「全てを包む暗き闇の精霊シェードょ、矢尻に宿れ」

 黒い炎の精霊シェードが取り憑くと光を吸収して見えなくなる。

「止めろ、その魔法は強力すぎる。みな死んでしまう」もう1人の黒フードの男が叫びながら体当たりする。ジオンの放った見えない矢から庇う形になり、背中から出血した。

 弓をしまい、カバンからミスリル製の刺又を取り出した。 

 剣を受け止め、折ったり、絡め取ったりするのに便利だ。

 槍に変化させた。投げ槍から薙刀まで長さを自由に変えられ、刃物はフックやフレイルやサスマタに変えられる。

「私は実験体96号、次の世代への責任が」

 ジオンはもがき叫ぶ少女の顔面に槍先を突きつけた。

「貴様、一体何を考えている。自分も巻き込むぞ」

「すみません、旅人様。コイツ実験室から出たばかりで常識がないんです」

「このミスリルの槍に死の精霊レイス付与エンチャントして、輪廻の環に直接引き渡す。蘇生出来ないようにしてやる」

 死の精霊レイスの精霊籠を取り出した。

 仮面の女、千の顔を持つ女。

 それぞれの宗教にあった、天使エンジェル戦乙女ワルキューレ死神レイス、死んだ近視者の姿に変えて魂を輪廻の環まで手をひいて引導する。

 ジオンが手にしてる籠には大きな鎌を持った、黒ローブをきた仮面の金髪長髪の美女が入っている。

「旅人ょ、どうかお怒りを納めて下さい」血を流しながら女の子の頭を押さえ「お前からも謝れ」

「すみませんでした」

 女の子も土下座する。

「旅人ょ、我々が悪かった。

 女の子からも手を引く。

 だから矛を納めてくれ」

 麻痺が取れたリーダーらしき男が叫ぶ。

「お前ら全員フードを取れ、顔を覚えるぞ」

 ジオンが怒鳴った。

 正面の2人が正座したままフードをとった、闇の精霊シェードに視覚を奪われている人間の若い男と、左目に96と刻印された少女。

「精霊ょ、戻れ」

 ワイバーンを襲っている精霊達が籠の中に戻ってくる、フードを剥いだ女を牽制していたミスリルソードが帰ってきて、片手剣に戻って鞘に収まる。

 風の精霊シルフが籠に戻った。

 女がフードを取る。

 短い小さな角が額の右側に一本だけある。

 身体がシンメトリーになっていない。

 魔力被爆者とこの時代は呼ばれた、後に彼等は魔族と自称して国家を打ち立てる。

 魔法はどんなに身体にマナがあって魔法の適性が無いと使えない、突然変異以外は大抵血筋で、大きな集団では貴族、小さな集団では指導的立場になる。

 世界中から魔法の適性がある子供達がアカデミーに集められた。

 宗教が避妊や堕胎を禁じていたから、貧乏で子沢山な家庭では親が口減らしで才能のある子供は容易に手放したし。

 偉大な魔法使いになれなくても「魔力感知」という魔法を憶えれば食いっぱぐれない。

 物に魔法がかかっていれば公文書や契約書として成立しない。

 それが高級に成れば命令書の契約魔法ギアスを含んだ物になるがそれは別の話。

 雇い主は嘘をつかれたらかなわないから結構高額だす。

 魔法使いの産まれてくる子供達は魔法の適性は高いが親の代から続く魔法の被爆が問題だった。遺伝子が傷ついて先天的身体障害者が多かった。

 リーダー格の男がフードをとった。

 額に真紅の宝石が埋め込んである。

 大陸中央から東方に散らばる先天的な宝石人かと思ったが彼等は髪も爪も宝石と同じ色をしている。

 後天的に魔石を埋め込んで一つの魔法を魔力消費なしに常時発動させる融合手術。

 恐らく後者とジオンは感じた。

 解呪していた者がフードをとった。

 後頭部から額にかけて2本の角がある女だ。

 悪魔属の中では夢を見せて男の精液を糧にしている、魂を欲求しない穏健主義なサキュバス。

 悪魔は基本悪魔召喚によって人間に憑依して身体を乗っ取る、精神生命。

 悪魔との取り引きによってアダマンタイトに封印して使用する、それが一般的な使用方だが、自殺や絶望した人間の背中に魔法陣を描いて召喚し、支配し、隷属するやり方がある。

 ゾンビと違って肉体が悪魔の魂に合わせて変化する。

 生きているのだ。

転移アポート

 ジオンが槍をしまうとミスリルの矢がタリスマンの描かれた指の無い右手の手袋に転移テレポートしてくる。

 軍人達は身体に止まった、矢尻や弾丸を取り出すのに使い、その後白魔法のヒールや精霊魔法の治癒や生命の構成精霊ユニコーンを使い治療するのが一般的だが、

 宝石や金を検知してスリに使ったり、酔っ払いの傭兵たちが給仕の下着の色をかけて引き寄せるのに使うため「バイアグラ」や「媚薬」の類のスケベ魔法の一種と見られていて、軍人でも常時身につけている人は少ない。

 ジオンは外聞をあまり気にしない男だ。

「傷の手当てをしろ、致命症じゃない」

 矢をカバンの中にしまった。

 男に取り憑いていた、闇の精霊シェードが籠の中に帰る。

 視界が開けた。

 水の精霊ウィンディーネは失ったが、向こうも火の精霊サラマンダーを失っている、お互い様である。

 ジオンはリーダー格の男に馬を歩ませた。

「俺はソフィアの洗礼を受けてはいるが、熱狂的な狂信者ではない。暗黒魔導士が対ソフィアの互助組織だと知っているが敵対するつもりはない」

「旅人様、ありがとうございます」

 リーダーどころかサキュバスまで頭を下げた。

「もはやお前たちが争った理由は問わん。俺は元軍人だ、多く殺して来たが、これ以上無益な殺生はこのまん。

 二度とその顔を見せるな。

 この娘が傷一つ負ってみろ、地の底まで追いかけて息の根を止めてやる」

「旅人様、出来ればご高名を、お聞かせ願いたい」

「ジオン・サルディーラ」

 少し考えてから答えた。

「おお」

 感嘆の声があがる。

「誰ですか?」

 実験体が隣の男に聞いた。

「サルディーラ王国の元王子でありながら現役最強将軍、15年かけて魔法王国カステラヤを滅ぼした戦争の天才」

 解説する。

「通りで高価なマジックアイテムぎょうさん持っていると思った」

 普通ベテラン冒険者であれ、ミスリル製の武器など持ってない。精霊籠を腰に一つぶら下げていれば良い方だ、暗黒魔導士達は自分達が規格外の男を相手にしたのだと知った。



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