楽園への道

鈴木

第1話 灰色の雲

 遊牧民が行き交う草原地帯。

 蒼とも呼べそうな灰色の空。

 魔力でも育つ砂漠をも緑化した、強力な繁殖力をもつエリクサが繁栄して、生態系の下層に位置し、多くの動物にマナを供給して、惑星上に絶対数が少ないが、最大で全長10メートルを超えるドラゴンの巨体を維持した。

 この辺りの羊は尾が頭の様に大きくなり、尻尾を切れば殺さずに肉がとれたうえに、エリクサをモグモグすれば1日ほどで魔法的に元通りに生えてくる品種なのだ。

 そんな多少起伏のある大地に一匹の馬とそれをひく1人の髪の青い大男。

 それぞれの馬の足の上と男の背中。

 合計5つの魔法のホールディングスバッグを運搬していた。

 空間を捻じ曲げ200キロの品が20キロまで軽量化する、魔法の袋自体が結構な財産である。

 空の輝きが交錯する。

「雷」

 男がつぶやいた。

「魔法ですね」

馬が言葉を話した。

 ドラゴンの成り損ないワイバーンが3匹、それぞれに魔法使いが2人ずつ乗っている。

 飛行石で空を飛ぶ飛空船を追い回している。

 海上の帆船を模していて、水上に不時着できるタイプ。四角で陸地に着陸できるタイプ。

 用途によって使い分けられるが、上昇気流を掴む為側面にも帆が張られる。

 銃声が響く、飛空船からの反撃が始まった。火縄銃がベースだから散発だ。弓矢もいかけているが小回りの効くワイバーンには当たらない。

 下から火炎系の魔法撃たれて引火した。

 男は鞍に足をかけ、騎乗の人になった。

「どっちの味方をするんで、やられている飛空船が正義とは限りませんょ」

 馬がため息混じりに口にした。また、やっかいごとに首を突っ込もうとしているといいたげ、「むかえ」手綱を握り足で脇をうった。

 双眼鏡を取り出すと、船が下降し始めた。内陸ではオアシスに着水する。大地に不時着できる形状にはなってない。

 内部にある飛行石に問題が起きなければ自由落下はない。徐々に降りてきている。

 飛行船の積載量を考えると貿易には向かない、あのタイプの飛空船は内陸では使わない。

「これはヤバイ山だなぁ、本当に向かうですか」

 走りだした馬が最後の抵抗を試みる。

「急げ、女の子が飛び降りようとしている、船で何かあった」

 双眼鏡をしまった。

 女を見てやる気をがぜんだしてきた。

「受け止める気ですか」

「間に合わん」

 右前足の鞄から10センチ程の東洋の竜が入った精霊籠を取り出した。

 船が爆発した。

 火薬にでも引火したのか、

 多くの破片が燃えながら自由落下している。

 精霊籠を両手で掲げた。

力の精霊グラビティょ、万物に等しくかかる力の精霊グラビティょ。

 あの少女にかかる力を解き放て」

 小さな扉を開くと小さな竜が出て行く。

「女の子以外にも落ちて来ますょ」

力の精霊グラビティは1匹しかいない」

 小さな竜が取り憑くと女の子の自由落下が終わり、浮き出す。

「ゆっくりと降ろせ」

 燃え盛る破片をかわしながら落下点につくと精霊に命令した。男の側に来るとしがみつく。

 男は大柄ではあるが女の身長は座高ほどしかない。

「助けて」

 男は力の精霊グラビティを籠に戻した。

 三体のワイバーンが男の上空を舞う。

 羽があっても人間の大きさ以上になると魔法的に飛ぶ。必要ないならそんなに高速で飛ばない。

 男は女の子を馬に乗せ直すと剣を抜いた。

 いきなり魔法を撃ってはこない。

 お互い距離をとり相手方の出方を見ていた。

「旅人ょ、矛を納めて話をしよう、

 君とは敵対していない」

 両方とも相手の実力を計りかねていた。

 魔法も使うし、騎乗も上手い。

「お前たちの目的はなんだ。

 彼女をどうするつもりだ」

 剣をしまわずに叫んだ。

 男には上空の6人やワイバーンを圧する迫力があった。

「彼らは暗黒魔導士、神々の時代の秘宝を狙ってます」

 女の子がりゅうちょうに話してくる。

 頭が少しデッカチ。

 目が顔の上下中央にある。

 手足が大きい。

 靴を履いてない。

小人ドワーフか」

 小人ドワーフはこれで大人なのだ。

 地覚視力があるから10メートル先の地面や土の中や罠がわかる。

 洞窟を掘ったり、生活するのに便利だ、

 明かりを必要としない。

 寿命は500歳。

 人間の寿命は50年。

 約10倍。

 コクリとうなずく。

「俺の名はジオン。半妖精ハーフアルフだ」

 妖精アルフの血脈は20才で人間と同じに成長するが、そこからは不老であり、神々の時代が終わり700年しか経っていない。

 旧支配者や魔法とも呼べる原理の分からない科学文明とも混在していた個人もいる。

 お互い人間が99%の世界、どちらが年上なのかわからない?

「君の名は?」

 袋の中から両刃の戦斧バトルアクスを取り出した。無造作に目の前に差し出す。

 ミスリル製で魔力を込めればハルバートになるし、分銅のついた鎖にも変化する

 小人ドワーフの武器は戦斧と相場が決まっている。

「私の名はメリル。大学教授アダマンタイトの娘」

 小人ドワーフにファミリーネームはない。紹介も父親の職業、父親の名前、何番目の娘(息子)かと続く、一人っ子の時は順番が省略される。

「私は戦士じゃないわ」

 やんわりと断ってくる。

「マジックアイテムだ。軽くできている。演技でもいいから持っていろ」

 強引に受け取らせた。

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