第33話 新たな日常に慣れた少女(中編)
「……ヤッべぇ。これが期待のルーキーの本当の実力って奴かよ」
「ひぃえー……この人スゲー」
私とアイルの合作である燃え上がる火柱とそこへと魔物をくべるように吹き飛ばす竜巻。それを見たディルとメイソンの2人のつぶやきが私の耳に入った。
「ディルさん、あぶれた魔物の対処をお願いします!……私は、魔法の制御で動けない、のでっ」
「お、おうっ! ま、任せてくれぇ!!」
「ほ、ホントお願いしますよディルさん! 俺っち、マジで大して強くないんで!」
やはり5小節分の魔力を注ぎ込んだ魔法は制御するので手一杯であり、よけながら戦うなんて器用なことは私にはやはり出来ない。だからこれまで通りにディルに対処をしてもらい、ただ炎の柱の中へと現れる魔物をひたすら放り込んでいく。
――ったく、やっぱり魔石がもったいねぇなぁ! これぐらいの火力だと流石に燃え尽きるぞ! 器用に抉り取ってこっちに放り投げられねぇか!
「魔石から直に魔力を回収するのが一番手っ取り早いからって、私に無理難題を押しつける辺り相変わらず大した駄棒ですわね! 自力で魔力を回復出来るんですからそれで我慢なさい!」
ベティの周辺に現れた魔物も含め、全部竜巻で吹き飛ばしていた時に駄棒が余計なことを言い出した。そんな器用なことが出来ていたら私だってやっている。そんなもったいないことを好んでする程余裕がある訳じゃないと思いながらも即座に反論した。
――ハァ!? 俺の中にある魔力が尽きたら今の状況を維持できなくなるんだぞ! 俺のために役に立つぐらい契約者として当然のことだろうが!
しかしこの駄棒も相変わらず口が減らない。この部屋の中央にある巨大な火柱を維持しながらも、尤もらしいことを言って私にあれこれ言ってくる。またしても私を平然と苛立たせてくるこの駄棒に思わず奥歯を噛みしめた時、ふと目の前で赤々と燃える火を見てある感想が口から漏れた。
「……あれぐらいの火力でしたら、流石にこの棒も燃え尽きたりしないかしら」
――ハッ、馬鹿抜かしてんじゃねぇよ。あれぐらいじゃ燃え尽きたりしねぇからやめとけ。絶対無意味だからな。やったところで無駄な労力だ。やったら後悔するぞ。魔力を無駄にするぞ。いいな、やるなよ? 絶対にやるなよ?
どうやら図星だったらしい。いつになく饒舌になった駄棒を見て私は口角が吊り上がってしまうのをどうしても抑えられなくなった。
「へぇ……後で炎の魔法に適性のある人を探してみましょうか。それも5、いえどうせですから7小節分詠唱が出来る玄人が良さそうです」
――やめろやめろやめろぉ!! 俺をガラクタにする気かこの馬鹿っ! かのドワーフの銘作であるこのアイル・オーテン様になんてことやろうとしやがんだ!!
この口ぶりから察するに流石にあれほど炎の勢いが強いとこの駄棒も無事では済まないらしい。ダンジョンの核を得てから一層口やかましくなった気がする駄棒に意地汚い笑みを向けながらも私は次々と魔物を火柱へと放り込んでいく。
「あら。存外前衛芸術として評価されるかもしれませんけれど? 火にくべて折れ曲がった形が味わい深い美しさを見せる可能性だってありますわ」
――こ、この腐れ脳ミソがぁー!! どこをどうしたらそんなドブより汚い発想が浮かぶんだオイ!!
「口も性格も悪い棒きれと長く生活をしていたからかしらね。自分のやったことの報いを今受けているだけでしょう?」
――馬鹿抜かしてんじゃねぇぞクソったれ! 今すぐドブ川で頭と腹の中でも洗ったらどうだ! こびりついた汚れが少しぐらい落ちてキレイになるだろうよ陰険女ぁ!
「あぁ言えばこう言う……! いつもいつも品性の欠片もない言葉をよくも私に投げつけてきますわね!」
無駄にうるさくてワガママな棒ではあるものの、しっかりと役目は果たしている辺り優秀な魔法の杖であると改めて思った。それを口にすればすさまじく調子に乗るのが目に見えているから絶対に口にはしないが。
「……また一人でヒス芝居やってやがる」
「あれ、本当に杖に心あるんですかね。相変わらずヤバい人にしか見えないっすよ」
「好きでやってる訳ではありません!」
――ハァ!? 俺様の意志を無いものとして扱うとかホント見る目の無ぇ人間ばっかだな!
そしてまたしても私が一人芝居をしているように言われて軽くカッとなった。1回火柱の近くまで運んでしまおうかと思っていると、不意に何かが砕け散る音が耳に届いた。
「お嬢様ぁー! こちらは終わりましたー!」
どうやらベティがダンジョンの核を破壊してくれたらしく、大声で知らせてくれた。おそらく残った魔物を討伐することに専念してくれているだろう。
「……アイル、早く『フレイムピラー』の解除を。後は私だけでやります」
――へいへい。ったく、とっととお前がそうしてくれれば魔石の回収が楽だったんだけどよぉー。あ、金を好き放題使ってた奴には難しい注文だったかぁ~?
このイリリークに来てまだ半月ぐらいの頃だったら『レディがそんなはしたないことをしてはいけない』と叱っていたけれども、そうしなければ私の下に来なければいけないのだから手間がかかってしまう。
利便性を考えてそういった無作法は許容することに貴族としての作法が段々と崩れてしまっていることを改めて感じながらも私は火柱に向かって棒きれを投げた。投げた直後に沈火した。
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