第28話 報酬の使い道は?(元お貴族様Ver)

「さて。これで報酬は支払わせてもらったが、使い道はどうするんだね」


 手に取った革袋の重みに意識を向けていると、不意にギルド長から疑問が投げかけられる。私はハッとして革袋をテーブルの上に戻すと、一度せき払いをしてから自分の考えを伝える。


「出来ることなら全額賠償金の支払いにあてたいところですが、先に討伐報酬の金額を確認してからになりますね」


 『もちろん魔石は全部こちらが使いますが』と付け加えつつ、そう述べた。今回の報酬は破格の額ではあるものの、今このお金を全額賠償金の支払いにつぎ込んだとしてもまだ1700万ケイン以上残ってしまう。だからこそまだお金の使い道は保留とさせてもらった。


「えぇ。まだ支払いの期限までいくらか余裕がありますし、魔物討伐の報酬もありますからね。今後より強い魔物がいるダンジョンの攻略に励むのであれば――」


 ゴドウィン副長が述べたようにまだ時間はある。それに武具の更新や魔石の買い取りに使って強化した方が後々稼ぐのにいいと私も考えていた。そんな時、ゴドウィン副長の言葉をさえぎるように部屋にノックの音が響く。


「職員のロックです。今しがたセリナ様が持ち込まれた討伐報酬の用意が完了しました」


「わかった。入れ」


 また緊急の案件だろうかと軽く身構えはしたものの、そういえばスカーレットに換金を任せていたのだということを思い出して軽く自分を責める。いくら何でも浮かれすぎてしまっていた。


 ただ、その様子は横にいたベティも気づいていない、あるいは気にしてないようなのでその幸運とご厚意に甘えさせてもらう……流石に、恥ずかしいですからね。


「キングを含めたあらゆる種類のゴブリン、それにダンジョンの核の防衛反応で生み出したと思われるハーピーやマーマンなどを合わせまして、計10万8700ケインとなります」


 そして報告に来た職員の方の話を聞いて少しばかり驚きました。魔石を計算に入れずともなかなかの額になっていたのですから。まぁ一方的とはいえ命を懸けてやってこの程度の稼ぎ、と考えられなくもなかったですが。


「わかりました。ではセリナ様、こちらを」


「えぇ。ありがとうございます」


 まぁ私個人の感傷は横に置いておいて、ゴドウィン副長から差し出された革袋を私は受け取る。先程のものよりは大分軽くはあったものの、それでも相応の額は入っている分重みは感じられた。それを受け取るとギルド長が先程話題になった私のお金の使い道について尋ねてくる。


「さて、セリナ殿。こうして手元に300万もの金が来たのですし、どういった風に扱われるかお聞きしても良いだろうか」


「構いません……と言いたいところですが、少々困っていまして」


 尋ねること自体は予想がついていたのだから構わないのですが、改めて考えると色々と使い道が浮かんで悩ましい問題だと思いました。何せ今回のことで色々と反省しなければならない点が浮かんだのですから。


「と言いますと? 私どもの方で何か助けになれば」


「ありがとうございますゴドウィン副長……その、私とベティの装備のことなんですが」


 やはり一番の懸念は私達の装備。ベティは荷物持ち以外やらせる気が無かったから頑丈な防具や強力な武器を身に着けていなかったというのもありましたし、私自身を守る防具もこれを機に更新するというのも手ではないかと思ったからだ。


「なるほど。ベティ様も荷物持ちでなくいち冒険者として活躍させるつもりということですね」


「えぇ。ですから少々武具の見積もりに関しても相談に乗っていただければ」


「そうか。それなら私達も力を貸せる。まずはどんなものが必要なのか言ってほしい。腕利きの職人のいる場所に紹介状も書こう」


 いち早く私の考えを察したゴドウィン副長に私はうなずき、ギルド長もわざわざ紹介状の用意もしてくれると仰ってくれてとてもありがたかった。


「ありがとうございます。いち冒険者に過ぎない私に便宜を図ってくださって感謝いたしますわ」


「いや構わんよ。このイリリークを救ってくれた人間なのだ。その対価に見合ったことぐらいはやらせてほしい」


 笑みを浮かべながらそう述べてくださったギルド長の心配りに感謝しつつ、早速私は自分の考えを述べていく。


「まずベティのステータスはスカウトに近いものですし、身軽に動ける装備を整えていただきたいです。出来れば武器はナイフの類ですね」


「「なるほど」」


「ありがとうございます、お嬢様。私なんかのために……」


「貴女のためなのよ、ベティ――それで彼女の防具はドラゴンの革か鱗を使った衣服のものを仕立てて欲しいのですが」


 そうして要望を伝えていくと、いきなり2人の顔が固まってしまう。一体どういうことかと思っているとギルド長とゴドウィン副長が尋ね返してきた。


「うん? 今、妙なことを口にしなかっただろうか?」


「えーっと、だ……正気か?」


「お、お嬢様! い、いくら何でも元メイドごときに過分ではありませんか!?」


 ――馬鹿かお前。魔物の中で最高峰のドラゴンの素材とか、そう簡単に手に入る訳ねーだろ。そこらに生えてる雑草みたいに拾えるわけじゃねーっての。これだから夢見がちなお嬢様ってのはよぉ……。


 しかもベティもあたふたした様子で断りを入れにきたものですし、アイルまで私を罵倒してきた。やっぱりこの駄棒を破壊しようと思いつつも、横を向いてベティに私の思いを伝える。


「ベティ、貴女のためを思えばこの程度過ぎたものではありませんわ。貴女の柔肌にほんの少しでも傷がついてしまう方が私にとっては辛く苦しいものですから」


「で、でしたらまずお嬢様の方が! 私はなもので構いませんので! お嬢様にもしものことがあった方がよっぽど辛いです!!」


 確かに1度骨を折って治療院にお世話になりましたし、ダンジョンの核破壊の際に意識を保つのも難しくなるほどの大けがをしてましたしね。


 ベティが私のことを思ったことを考えれば先に私が良いものを装備すべきかと考え、ギルド長とゴドウィン副長にそのことを頼み込む。


「でしたらまず私の方から。それらを取り扱うお店はどちらに?」


「……面白い冗談を言う子だな、君は」


「予算考えろ馬鹿。300万そこらのはした金じゃ予算の一部にもなるか」


 けれど2人の言葉に思わず私も目を剝いてしまう。一応高いという話は聞いていたのですが、まさかそこまで高いとは。あとペネロペ副長、今の言葉は覚えましたわ。


「え、そうなんですか?」


「そんな……高望みが過ぎましたか。でしたらワイバーンやドレイクなどの鱗を繊維にしたドラゴニックファイバーのものをオーダーメイドで仕立てられる店はありませんか?」


「おいペネロペ。変わった子だとは聞いていたが、そこのメイドの子までそうだとは聞いてないぞ」


「だから上の名前呼ぶな酒浸り……おい正気かセリナ? それとベティもだ。本気で言ったのか? 今のは冗談だとしたら笑えないぞ」


 おかしい……妥協案を述べたはずなのに、何故か2人とも顔が引きつってしまっている上に私を貶してきた。


 ここ数年で技術が確立した製法で、翼竜であるワイバーンや地を這う竜のドレイクなどの鱗であれば糸にして服にするということも出来るようになったとうかがっているのだから作ること自体は可能なはず。なのにどうして?


「だ、駄目でした……?」


「いえ、まさか……その職人の方は忙しくて頼めないのですか? でしたらこの案は取り下げさせてもらいますが」


 もし私の懸念した通りならばギルド長に無理をさせてしまうことになる。そればかりは私としても本意ではない。とりあえず先程2人が言ったことを頭に刻みつつ、他に何か強力な素材は無いかと考える。


「だとしたら値段は張りますがギガースの革を使った衣服でしょうか。だとするとインナーとして着てもらって――」


「私はあまり存じてないのですが……ミカエル様、ゴドウィン様。お嬢様が出されたものは何か問題があったのでしょうか?」


「正直何と戦う気なのか全然わからん。少なくともレベルがまだ1桁程度の人間に与えるものじゃあないし、予算もまずオーバーする」


「過保護も行き過ぎとしか言えないんだよそこのボンボンは。金銭感覚死んでるんだよ」


「えぇっ!?」


「えっ?……そ、そんな馬鹿な……」


 ベティのための防具の素材に何が良いかと思いを馳せていたらギルド長とペネロペ副長にまでこう言われてしまった。アイルの方は先程から黙り込んでて好都合でしたが、まさかペネロペ副長から罵倒までされるなんて……ショックで軽く目の前が真っ暗になってしまいました。

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