第19話 私が認める魔法の杖
――よし、出たな。それはお前のステータスの数値だ。今から吸収した魔力を使って強化する。残しておいたホブの魔石をセットして好きに数値を割り振れ。
「やり方は大体わかりましたが……どのようにすれば数値を割り振れますの?」
――そうしたいって思うだけでいい。数値をそこに割り振りたいって思うだけでな。やってみろ。
そこで私は杖のアイルの言う通り、出された料理をナイフとフォークで切り分けるのをイメージしながら強化値とレベルアップに必要な数値にポイントとやらを割り振ろうと念じる。
名前:セリナ・ヴァンデルハート
性別:女性
年齢:17
レベル:6(6/52)
力:19
体力:19
魔力:36
敏捷:22
強化値
力:1(0/25)
体力:1+1(25/25)
魔力:3+3(60/60)
敏捷:2+2(50/50)
振り分け可能ポイント:0
「……なるほど。イメージ通りでしたわね」
アイルの方も『だろう?』と短く答えたのを聞きつつ、私はステータスが記載された膜に改めて目を通す。体力は今後ダンジョンを攻略し続けることを鑑みると必要ですが、力は最悪無くても構わない。後はここの魔物を倒しながらレベルアップを図るべきかと私は考えました。
「……あっ。遠くからゴブリンどものうなり声が聞こえるね」
「今回はあまり休めはしませんでしたね。ではベティ、スカーレット。再度戦いと参りましょう」
「はい。お嬢様」
「あいよ、了解」
――俺への気遣いはナシか、ったく……。
「ありがとう2人とも。それとそこの杖も減らず口を叩けるようなら問題ないでしょう?」
2人には礼を述べつつ一瞬だけ私は杖をにらむ。常に緊張感ある人生にしてくれたお礼はまだまだ払い足りませんからね……!
そうして私達は迫って来たゴブリンの群れを見すえ、迎撃に移りました。
◇
迫りくる魔物を倒しては進み、遂に地下5階まで私達は歩を進めました。今現在私達の前にいるのは7体のゴブリンで、どれも見覚えがあるけれども厄介な布陣でした。
「グォオオオォォ!!」
「私が2小節の魔法を連発して時間を稼ぎます。アイルは5小節の『ウィンドカッター』の発動を!」
――はいはいわかった。じゃあせいぜい死なねぇようにな。俺だってゴブリンどもに使われるほど落ちぶれたくないんでな。
「無駄口を叩く暇があったら詠唱をしなさい、全く……ベティはひろった石をゴブリンメイジに向かって投げて気をそらすこと。いいわね!」
「は、はいっ!」
ゴブリンチャンピオンが2体、そしてゴブリンメイジが5体というあまりにも面倒な編成。頑強な体と凶悪な筋肉を持つゴブリンチャンピオンの強さはあの時死にかけたことから嫌と言う程理解しています。その上あまり強い威力の魔法を撃ってこないとはいえゴブリンメイジが5体も並んでいるという状況。控えめに言って1人と杖1本では自殺と大して変わりません。
「魔力よ集いて形を成せ」
――魔力よ集いて形を成せ。
けれどそれは私にとっては些末なことでしかない。ここで進まなければダンジョンのレベルアップを許してしまう。それに賠償金の支払いも考えれば足踏みをしている余裕もない。
「ゴァアァアアァァ!!」
「汝は全てを流す大いなる瀑布」
――汝の名は風の刃。
それにこの杖の欠陥のせいで私は現在満足に寝ることすら出来ない状況。ならば進み続けて勝利を勝ち取る他ない。かつて死ぬ寸前まで私を追い詰めた相手が迫っていようと関係ない。ならば突き進むのみ!
「そこっ!」
「ゴァッ!?」
ベティがもう発動しかかっていたゴブリンメイジの魔法を妨害してくれたことでこちらも時間が稼げました。ありがとう。まずは小手調べといきましょうか!
「呑み込め、タイダルウェーブ!」
迫ってきていたゴブリンチャンピオン2体含めてこれで軽く押し流す。目的はあくまで時間稼ぎ。杖のアイルの魔法が発動出来ればそれでいい。たたらを踏んでひっくり返ったゴブリンチャンピオンどもとゴブリンメイジを確認してから私は次の魔法の詠唱にかかった。
――
「魔力よ集いて形を成せ」
次に唱えるのは『エアロブラスト』の魔法。目的は直接倒すのではなく、ただ顔面を狙うこと。
「漂う風よここに集え、撃ち放て、エアロブラスト!」
「「「「「ゴァッ!?」」」」」
顔面や目、そして鼻の穴へと攻撃することでアイルの時間を稼ぐ。そのためには手数で押せる上に自在に操作が効くこの魔法が必要不可欠。
ゴブリンメイジの方は上手く狙えたおかげで昏倒一歩手前まで追い込めましたが、ゴブリンチャンピオンの方はもう体を起こしてこちらへと向かおうとしている。
――嵐のように来たりて凪を与えよ。
けれどもう問題は無い。後はアイルが魔法を起動するだけ。見えざる全てを切り裂く刃の魔法を。
――両断せよ、ウィンドカッター!
アイルにセットしていた魔石にヒビが入ると同時に
「行きなさい!」
その刹那、何度となく攻撃を繰り返さなければ倒せなかったはずのゴブリンチャンピオンも2つの風の刃によってナナメに筋が入り、上半身と下半身にもりっぱな横線が刻まれる。
「「ゴ、ォアァ……」」
「やった……!」
いくら不利な条件が重なったとはいえ、自分を死の淵に追いやった魔物をこうして難なく討伐できた。地下の深い層の魔物であってもこうして自分の実力が通用した。そのことへの喜びが私の中で暴れ狂いそうになる。
――おいおい、嬉しいのはわかるけどとっとと魔石をセットしやがれ。お前も魔力がそこそこ減ってるだろうが。
「――っ!……そう、ですわね。ご忠告、痛み入ります」
既に魔石は砕け散っており、体からまた力が抜け出ていく感覚が私を襲っている。すぐにスカーレットから残り少ないゴブリンの魔石を受け取ると、すぐにアイルにセットして魔力の流出を防ぐ。
「? お嬢様、一体何が?」
――さて、他にも何か言わなきゃいけねぇことはあるんじゃないか?
「何でもありませんわ、ベティ……まったく、底意地の悪い魔法の杖ですこと」
顔があったのなら間違いなくニヤつきながらこちらを見ていることでしょう。ベティに心配させないよう声をかけると、私はこの杖――アイル・オーテンへと頭を下げた。
「私に力をお貸しください。ドワーフにより作られた魔法の杖、アイル・オーテンよ」
――そうそう。素直な奴は好きだぜぇ~? 可愛げのある奴もなぁ。
事実、この杖のおかげで私達は破竹の勢いでこのダンジョンを進むことが出来ているのだから。ならばぞんざいな扱いはやめにして相応の態度をとらなければならない。この杖の仲が悪いせいで死んでしまったら元も子もないのだから。
「ですが、あまり調子に乗るというのでしたらいつか火かき棒代わりに使わせてもらいます」
――ったく、やっぱ可愛げだけはねぇな。お前は。
とはいえあまり図に乗るというのなら話は別。そのことを伝えると悪態を吐いてきた杖に私は鼻を鳴らす。この杖と真っ当な信頼関係を築けるのやらと心の中で少し不安に思いながらも私はベティとスカーレットがはぎ取ってきてくれた魔石を使ってステータスを強化するのだった。
名前:セリナ・ヴァンデルハート
性別:女性
年齢:17
レベル:7(0/68)
力:20
体力:21
魔力:42
敏捷:26
強化値
力:1(0/30)
体力:1(0/30)
魔力:3+3(3/80)
敏捷:2(0/70)
振り分け可能ポイント:0
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