第14話 イラッとくるけれどやたらと美味しい話?
「ハァ……いきなり変な紋様を刻まれたことで心底苛立っているのはわかるが私の話を聞け。セリナ、お前が持っているものは間違いなく、窮地のお前を助ける代物だ」
「このやかましいだけの棒がですか?」
副長が改めてこの駄棒の有用性を述べましたが、到底そうは思えません。こんなうるさい上にさっきから段々と力が抜けていきますし、呪いのアイテムだと言われた方が余程納得がいきます。
これごときが一体何に使えるのやらと思っているとベティと副長が顔を突き合わせてボソボソと話していました。
「お嬢様、一度機嫌を損ねるとしばらくネチネチと責めますからね……」
「怒らせると面倒なタイプか」
お黙りなさい2人とも。全く、私はただ繰り返し忠告をしているだけです。それを言うに事欠いて小姑のように……いえ、違いますわね。小姑ではありません。小姑では。
割と本気で言い返せないことに思い当たってしまい、私は自分に必死で言い訳をする。そうしているとふとまた例の杖の方がこちらにだけ聞こえる声で舌打ちをしてきた。
――ったく、俺がどれだけスゴいかを理解してるのはそっちのババアだけかよ。冗談じゃねぇぜ。
「今この杖が副長を年齢のことで貶しましたわ」
「よし、お前がダンジョンの核を破壊したら一緒にへし折るぞ。コイツが壊れたところで余程の物好きでもなきゃ嘆かん」
――うぉおおぉぃ!? や、やめ、やめろぉー!! 俺は魔杖アイル・オーテンだぞ! 俺様の力を知ったら今まで散々な扱いをしたこと、本気で後悔するからな! 土下座したくなっても知らねぇぞ!
「だったらすぐに貴方の情報を吐きなさい……副長、この棒が自己紹介したいと言ってきましたが」
「聞いとけ。確実に役立つはずだ」
「なら話しなさい。話次第では扱いを考え直してあげます」
念のため副長にも尋ねつつ、私達はこの駄棒の話を聞くことにしました。
よくわからない男から押し付けられたことを考えるとどこまで有用かはわかりませんでしたが、話を聞いてから処分を考えても悪くはないでしょう。何度か愚痴を吐いたことで頭もスッキリしましたし。
――ったく、俺はそんじょそこらの棒なんぞとは違ぇんだぞ。耳の穴かっぽじってよーく聞けよ。
するとやれやれといった様子で語りかけてきたため、私は心が軽くささくれ立ってしまいました。人に色々とやっといてよくもまぁ尊大な態度がとれるものです。
「話すのでしたら端的に話しなさい。いいこと?」
――あーハイハイ。わかりましたー。
私は苛立ちを軽く露わにしつつそう伝えると、向こうもはいはいと気のない返事をしてきた。やっぱり今すぐへし折ってやろうかと思った時、ベティと副長が声をかけてきました。
「……お茶をいれてからの方が良さそうですね。一息入れましょう、お嬢様」
「流石に客人に茶をいれさせる真似は出来ん。ゴンザレス、適当に暇してる職員に声をかけろ。茶菓子も分けると言えば文句は言わないはずだ」
「あい」
私のためにベティと副長が気を利かせてくれたようです。確かに、軽く苛立っていましたし、このまま駄棒を壊す気でしたからありがたいです。利用価値が無いと切り捨てるにはまだ早いですものね。
「まずは落ち着け、セリナ。壊すのは後でも出来る。ソイツをどうこうするのを握ってるのは私達だ」
「……ですね。お気遣い感謝いたします」
私を気遣って言葉をかけてくださった副長に頭を下げ、一緒にお茶をいただくことにしました。なお私だけ虚脱感を感じているのをあえて口にせず、改めてこの杖の話を聞くことに。
――よし、話をしていいんだな? まず俺の名前はアイル・オーテン。お前達からすれば遥か昔の頃、名工のドワーフに作られた『意志ある杖』だ。契約を結んだ相手を補助するための役割を持たされている。
ドワーフ。今は南の東の山脈地帯の洞窟にいるとウワサされ、かつてはこのミカス王国にもいたとされる種族のひとつです。金づちをひと振りするだけで伝説に残る武器を作るとまで言われている存在に作られたとこの杖は述べてきました。
確かにこうして意思を持って話が出来る道具というのは現代では無いだろうと私は判断しました。もし仮にあるのだとしたら今頃社交界で持ちきりのウワサになっているはずだからです。
だからこそこの杖の言うことも嘘ではないだろうとは思ったものの、その程度なら物珍しい棒でしかない。そのため私は慎重に話を伺っていきました。
「具体的には何が出来るというのです? 単に担い手とおしゃべりするだけしか能が無いという訳ではないのでしょうね?」
――ったく今度の契約者も口やかましいったらありゃしねぇな……いいか。俺はな、相手と契約して魔力を得ることで俺自身も魔法を詠唱出来るんだよ。これがまず最大の能力だな。
「……本当に、ですか?」
この杖が言ってきた言葉に私はカップをソーサーに戻す手が止まりました。
人間以外が詠唱する? 確かに言ってることが本当ならやれそうではありますが、単なる大言壮語ではないかと思っているとベティと副長から声をかけられました。
「お嬢様? 手が止まりましたが……」
「一体その杖は何を話したんだ? 言ってみてくれ」
「その……この杖とやらも詠唱が出来る、と述べてきました」
その一言で副長は目を細めてこちらを見てきました。ベティは『ほぇ~』と感嘆していましたが、実際とんでもないことです。何せお金の取り分を要求してこない魔法使いが1人増えたということですから。
――それに契約者のレベルアップならいつでもやれる。ただしレベルアップをやるための燃料として魔石をいくらかもらうけれどな。
そして更なる一言で私はティーカップを落としそうになってしまいました。
これはつまり私だけの強化に限り、かつ魔石を捨てたのならばそのままダンジョン攻略を続けても問題ないということです。
これなら相当の勢いで突き進めるはず!……と思いましたが、そこでふと私はさっきからずっと気になっていたことをこの杖に尋ねることにしました――さっきからずっと起きている不調のことを。
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