第11話 古くからの新たな同行者と共に少女は進む

「ではベティ様、こちらにお名前を記入して注意書きを読んでからチェックを入れて下さい」


「は、はいっ」


 ゴドウィン副長との話し合いを終え、ベティを荷物持ちとして登録するために私達はギルドの受付へと向かいました。


 古くからヴァンデルハート家に仕えている人間として、私の昔からの馴染みの相手だからと文字や勉学を教えたことがここで活きましたわね。ベティの物覚えがあまり良くなくて悩んだのも今ではいい思い出です。


「これでお願いします……」


「……確かに確認しました。ではこちらにあるレベル水晶に触れてください」


 けれども披露する機会なんて私との勉強以外でありませんでしたし、それを考えると嬉しいような悲しいような……まぁ今更の話です。


 レベル水晶が置かれた台座にある穴、そこに受付の方が先程の用紙を差し込むとベティはレベル水晶に触れました。確か私が登録をする際に受付の方が『体の一部を触れることでレベル水晶が情報を読み取り、下の台座で記録しています』と仰ってましたから、今ベティの情報を記録しているんでしょう。


「ありがとうございました。これでベティ様の冒険者登録は完了となります」


「あ、思ったより高い……あ、ありがとうございました」


 ベティも無事登録を終えたようですね。小走りでやってくる様を見てやれやれと思いつつも、私はベティが戻ってくるのを待ちました。


「お待たせしましたお嬢様。無事、登録完了です。こちら冒険者証です」


「えぇ、お疲れ様。はいはい今見るわ」


 一応人目があるのですから宿に戻ってからでもいいでしょうに。もう。少しため息が出てしまいそうになりましたが、それを抑えて私はベティの冒険者証に目を通しました。



名前:ベティ

性別:女性

年齢:16


レベル:3(20/20)

力:13

体力:16

魔力:12

敏捷:16



(なるほど。確かに相応にありますわね)


 ベティのステータスを見て私はうなずいた。普通の人間のレベルは1、他の数値も10前後だというのは座学で知っています。


 それを考えればレベルアップと強化値による恩恵があるとはいえ、ベティも相応に強いのがわかります。少なくとも鍛えてない同じレベルの男性よりは遥かに強いでしょう。


強化値

力:1+1(10/10)

体力:2+1(15/15)

魔力:1+1(10/10)

敏捷:2+1(15/15)



「私にも見せておくれ……あぁ、やはりか」


 レベルの方もそうでしたが強化値の上昇も限界に達してます。やはり上限まで魔石を投入していますね。


 そういったことはお父様に任せていましたからわかりませんでしたが、お金を稼いだらすぐにでもベティのレベルを上げてもよさそうです。


「はい。旦那様が手配してくれたおかげですぐにでも戦えそうです」


「そうですわね。感謝しますわお父様」


 お父様に2人で感謝を伝えると少し気恥ずかしそうにされていました。ですが、すぐにその表情も心配そうなものに変わっていまいます。


「いや、二人は気にしなくていい……やはりベティも行くのか?」


 心配性ですわねお父様。流石にベティもいるとなればそこまで無理は出来ません。おひとりで待つことに不安を感じるのはわかりますが、大船に乗ったつもりでいてくださいとしか言えませんわ。


「はい。必ずお嬢様のお役に立ってみせます」


「敵をしっかりとなぎ払って安全を確認してから進むつもりよ。心配なさらないで、お父様」


「だが……」


「まぁそれ以前にこうなったのもお父様があの女の手綱をしっかりと握っていなかったのが原因でしょう? 不安ぐらい耐えてくださいませんか?」


「ぐぅ……はぃ」


 まぁそもそもお父様があの多情な女をしっかりと御していればこうはならなかったのです。その失敗を今、しっかり清算するのがヴァンデルハート家当主としての務めではありませんか?……さて。


「ではセリナ様、ベティ様。ご用意は出来ましたか?」


「お待たせしてすいませんでしたゴドウィン副長」


「あ、お待たせしました。ではお願いします」


 近くで待ってくださっていたゴドウィン副長から声を掛けられ、私もベティもそれに返事をします。


「構いません。ではリア、ゴンザレス。ジョシュアさん達を店へと案内してあげてください」


「はい、わかりましたー」


「了解です、副長」


 そうして私達は職員の方に連れられてベティのための服と装備をそろえに向かいました……その買い物の最中、私も上の服をちゃんとしたものに替えた方がいいのではないかと思ったのはここだけの秘密です。



「――これで終わり。やはり上の階層ではそこまで苦戦する要素はありませんわね。ベティは乗っていたゴブリンと狼の耳を、アーニーは魔石の回収をお願いします」


「は、はい! わかりました」


「うん、わかったよ」


 階段を下りて早々、迫って来た10以上のゴブリンライダーを魔法で一掃し、2人に命を下した私はすぐに周囲の警戒に移りました。もちろん敵の死体は『サイクロン』の魔法で近くまで運んでおります。


 現在私達はダンジョンの地下1階、階段近くのスペースで壁を背にしながらそれぞれ作業をしています。今のところゴブリンナイトやチャンピオンといった上位の魔物と遭遇するということもなく、余裕で進むことが出来ています。今後もこうありたいものです。


「お、お嬢様、終わりましたー……」


「こっちも。行こうぜ」


「えぇ。では向かいましょうか」


 2人はそれぞれ剝ぎ取った部位をリュックに入れたのを確認してから奥へと向かいます。残った時間のことを考えるとあまり長居は出来ませんからね。


「……ベティ、無理はしないでね」


「だ、大丈夫です!」


 とはいえまたベティが顔を青くしていますし、ちゃんと声をかけて気遣う必要はありました。この子の心意気を無碍むげにするというのもはばかられますし、後で適当なタイミングを見計らって休んだ方が良さそうです。


「お、おいアンタ! つ、強いゴブリンが!」


 そこでアーニーがかけた声を聴いてすぐに前方に意識が向きました。確かにゴブリンナイトが2匹、後はゴブリンライダーが4匹と普通のゴブリンが10以上を確認できました。これもレベルアップの前兆かもしれませんわね。


「ありがとう、アーニー。これでしたらすぐにでも倒せます」


 あの時はミーナさんの救助が最優先だったから先手を打てなかったこと、そして急に現れた相手にどうすればいいかと考えあぐねていたこと。


「魔力よ集いて形を成せ、漂う風よここに集え」


 ……そして何より、私が敵を下に見ていたことが原因で苦戦しました。ですが、同じ轍を踏む真似はしません。絶対に。


「グォ?――ガァァァァァアァ!!」


「ゴァアアァァアア!!」


「固まれ固まれ球となれ、見えざるものよいくつも並べ」


 津波のように敵は迫ってきていますが問題ありません。充分に時間は稼がせていただきました。


「流星の如く降り注げ、撃ち放て、エアロブラスト!」


 5小節。これだけかければチャンピオンといえど無事では済まない威力、これで一気に叩く! 杖を前方へ向けると同時に放たれた50を超える風の球は、見事に魔物の頭や手足を砕いて肉の塊に変えました。やはり手数といえばこれですわね。


「すげぇ……一発で全部倒しちまいやがった」


「えぇ。セリナお嬢様の実力はこんなものじゃありませんよ!」


 やはり、時間さえかければあっけないものです。それとベティ、もうちょっと持ち上げてくださらないかしら? 貴女からの褒めの言葉はいつ聞いても心が震えますもの。


「じゃあ2人とも、これから『サイクロン』の魔法で魔物を持ってくるから今倒した魔物の素材をはぎ取ってちょうだい。あ、それともし鞄がいっぱいになったのなら一旦外に戻りましょう。まだ時間はありますわ」


「はい、お嬢様」


「うん、わかった……アンタのおかげで今日も稼げそうだよ」


「ありがとう。お褒めにあずかり光栄ですわ」


 アーニーからの賛辞の言葉を聞いて頬が緩むのを我慢しながらも私は『サイクロン』の魔法を使いつつ警戒を強める――そう、このセリナ・ヴァンデルハートは強いのですから。



名前:セリナ・ヴァンデルハート

性別:女性

年齢:17


レベル:5(40/40)

力:17

体力:17

魔力:30

敏捷:18


強化値

力:1+1(20/20)

体力:1+1(20/20)

魔力:3+3(50/50)

敏捷:2+2(40/40)

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