第12話 着実な歩みの先には

「お嬢様ー、リュックの中もそろそろ満杯ですー」


「帰りに出てくる魔物のことを考えるとここらで止めた方がいいと思うぜー」


「わかりました。ではベティ、アーニー。はぎ取りが終わったら地上に戻るとしましょう」


 3階に出てきたゴブリンアーチャーやゴブリンナイトを解体していた2人の言葉を聞いて私はうなずきました。今はまだ私が魔法で一方的に倒せてはいますが、いつそれが出来なくなるかもわからない。後々のためにも私とベティのレベルを上げるべきでしょうね。


「終わりましたね? では2人とも、地上に戻りましょう」


「はい。お嬢様」


「うん。わかったー」


 全く、男の子らしいというかこの子ときたら。


 アーニーの返事に苦笑しつつ、ベティと共に私は上へと戻っていきました。魔物の死骸は核がある状態のダンジョンでは後々吸収されるらしいのでそのまま放置。そして地上へ戻るかたわら、私達は襲ってくる魔物をなぎ払い続けました。



「はい。それでは今回の討伐報酬はこちらになります。どうぞお納めください」


「えぇ、ありがとうございます」


 難なく地上へと戻った私達はそのままギルドへ直行し、討伐報酬をいただきました。今回の総額は合計18000ケイン。ちりも積もれば山となるとは言いますが、2人のリュックが満杯になるほど倒した成果は中々のものでした……これで半分天引きされてなければとは思いますが、今は我慢です。


「では私とベティのレベルアップ、それと強化値上昇の手続きをお願いします」


 今回稼いだお金で私もベティもレベルアップすることが出来ます。朝早くからダンジョンの攻略に勤しんでいた甲斐があったというものです。


「了解しました。では先程いただいた報酬から引かせていただいた5000ケインを支払いにあてさせてもらいますね」


 レベルアップの手続きに1人頭2000ケイン、また強化値上昇の手続き1回毎に500ケイン。


 貴族だった頃は手続きにかかる額なんて一生知る機会はないと思ってましたが、こうしていち冒険者の立場となってみるとその額の重みというものを実感しています……。


(ただのゴブリンを倒すだけで日銭をなんとか稼いでいる人間からすればかなりの苦労……道理でアーニーや他の荷物持ちの方がすぐにレベルアップを行う訳です)


 レベルアップも強化値上昇もどちらも魔石を使う訳ですし、これだけコストがかかるとなれば誰も強化値上昇に費やす人間がいないはずです。自分の生まれというものにここまで感謝する日が来るとは思ってもいませんでした。


「お2人の冒険者証を確認したところ、既に強化値は限界まで強化されていますのでこのままレベルアップに移りたいと思います。ではレベル水晶に手を触れて下さい」


「あ、はい。お待ちを」


 そうして考え込んでいると、受付の方から声をかけられました。もう準備は終わっていたようです。私はベティに目配せをして先にレベルアップをすることにしました。手を触れた瞬間、体とレベル水晶が淡く輝き、久々に力がみなぎる感覚と殻を破ったような感覚を感じました。


「セリナ様、冒険者証を確認されますか?」


「いえ、結構よ。強化値の上昇を終えてからにしてちょうだい」


「承知しました。ではベティ様、こちらに」


 学院以来の感覚を懐かしんでいると不意に受付に声をかけられ、すぐ我に返りました。また一歩ダンジョンの核破壊と賠償金の完済に近づいたと思いつつ、ベティに場所を譲ります。


「ふぉぉ……あ、上がりました。上がりましたね」


「はい。レベルアップ完了です。ではベティ様、冒険者証の確認をなさりますか?」


「は、はいっ!――お嬢様!」


「もう……はいはい」


 そして彼女も無事にレベルアップを終え、冒険者証を受け取りました。そしてキラキラした目でこちらを見てきたので今回も目を通してあげます。



名前:ベティ

性別:女性

年齢:16


レベル:4(0/28)

力:15

体力:19

魔力:14

敏捷:19


強化値

力:1(0/10)

体力:2(0/15)

魔力:1(0/10)

敏捷:2(0/15)



 相変わらず体力と敏捷の数値は順調に伸びてますわね。体力は単に言葉通りだけでなく体の頑強さも表していると学院のフィンレー先生も仰ってましたが、そうなるとこの子は将来タンクの役割を担わせるべきなのかしら? 敏捷も高いですからスカウトにも向いてますし、それは追々考えるとしましょう。


「ではいただいた魔石はまずセリナ様の強化値上昇及びレベルアップに用いるということでよろしいでしょうか?」


「お願いしますわ」


 目を通したベティの冒険者証を彼女に返すと、私は受付の方から魔石の使い道について尋ねられました。これは事前の話し合いの通りです。


 まずは私が強化とレベルアップに使って、余ったものをベティに費やす。ダンジョンの奥へと向かうならば主戦力となる私はもちろん、ついてきているベティにも強くなってもらわなくてはなりません。


「早く稼げるようになりたいなー」


「貴方ならきっと大丈夫ですわ。アーニー」


 ちなみに荷物持ちはギルドに所属している間、物品の貸与や譲渡は認められてないとのことです。つまりお世話になった冒険者からお下がりをいただいたり、魔石を譲ってもらうということはやれないということ。おそらく道具の授受によるトラブルなどを避けるためでしょうね。


「では素材の魔石をレベル水晶に吸収させます。レベル水晶に手を触れてお待ちください」


「はい。了解しました」


 またアーニーや受付嬢の方が言うには、ゴブリン程度の魔石ですと増える数値は1か2そこらということです。3以上になるのはゴブリンチャンピオンやキング辺りだと受付の方は仰っていましたね。


(生活費を稼ぎながらレベルを上げる。それだけでも相当の数の魔物を倒すか、強い魔物を相手にしなければならない……力が足りなかったり、パーティーに恵まれないとそうそうやれそうもありませんわね)


 魔石は細かく砕けば魔道具の燃料として使えるとは聞きますが、その価値は倒した労苦に応じて与えられる対価なのでしょうね。そんなことを考えて憂うつになっていると、再度受付から声を掛けられました。


「強化値の上昇は終わりました。こちらがセリナ様の冒険者証となります」


「ありがとうございます」


 そうして私は自分の冒険者証を受け取りました。さて、どこまでいったのかしら――。



名前:セリナ・ヴァンデルハート

性別:女性

年齢:17


レベル:6(0/52)

力:19

体力:19

魔力:36

敏捷:22


強化値

力:1+1(0/25)

体力:1+1(0/25)

魔力:3+3(60/60)

敏捷:2+2(23/50)



 注文通り、魔力と敏捷の数値に優先して割り振ってくださいましたね。とりあえず魔力は上限いっぱいまで上げましたし、最悪敏捷の数値を上げたらすぐにレベルアップに移ってもいいかもしれません。


「セリナ様、今回は魔石の購入はよろしいのですか?」


 ――実はギルドの方で魔石の購入というのも行えるらしいのです。価格は各魔石に含まれる魔力の量で決まっているらしく、ゴブリン系列の大半が含まれる価格帯ですと確か1個300ケインが相場だと聞きました。


 ……ゴブリンの魔石をこちらが卸した際の値段が100ケインそこらと考えると、中々に足元を見られていると思えて腹立たしくは感じます。まぁ魔石自体どこも需要がありますし、それぐらい高騰するものだと思いましょう。


「えぇ。ベティが使っているリュックの買い替えか、手提げ袋が欲しいとおもってましたから」


 今回は一旦見送らせてもらいました。購入した魔石で私のレベルアップや強化値上昇に費やすより、一度に持ち帰れる量を増やした方が効率が良さそうに見えたからです。


 ……期限が迫っている中、いささか焦りが募りますが、ここで嘆いていても仕方ありません。


「では一旦買い物に向かいましょうか、ベティ」


「はい。お嬢様」


 出来ることならアーニーの分のリュックも購入したいところでしたが、手持ちとギルドの規則がありますし仕方ありません。再度ダンジョンの攻略に向けて私達は市場へと向かいました――この後、私の運命を変える出会いが待っているとも知らずに。

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