第9話 いばらの道の果てにある栄光へ
「レベルアップ、だと……それは本当なのか!?」
この情報を聞いて体が強張りましたが、それは脇にいたお父様とベティも同じです。何せ副長の口から語られたのは国の一大事に繋がりかねないものですから。
「他の冒険者にも聞き取りを行ったが、他の階層はそうでもなかったらしい。にもかかわらず今回の事態が起きた……つまり、このダンジョンでは初めて起きたということになる」
「えぇ、本当に……頭痛がしますわね」
ダンジョンのレベルアップ。それはダンジョンの核の破壊が遅れたことで発生する、出てくる魔物全てがより強い個体になってしまう現象のことです。つまりあの時私が戦ったあの魔物は本来あの近辺には出ない魔物であるという証拠でもありました。
もちろんダンジョンの外へと出てくる魔物が強くなることにも直結しています。だからこそ手遅れになる前にダンジョンは可能な限り早く攻略する。それが常識です。
「その階層においてレベルが3〜5上の個体が時折発生する。それが前兆で、レベルアップまでは1週間かかると学びました。ならまだ
しかしレベルアップが行われるまではいくらか時間がかかるとも知っています。ですから今から対処すればいいはず。ですが、副長の表情を見る限り、それもどうも難しいようです……。
「ヨソはそうかもな。けれどここはもっと短い。3日だ」
「そんな……で、でもこのイリリークでしたら冒険者の数もそれなりにいるはずでは?」
た、たった3日!? で、ですが、イリリークなら腕利きの冒険者も大勢いるはず。それに件のダンジョンはまだゴブリンが徘徊する程度ですし、ある程度強い冒険者に手配をかければそれだけでどうにかなるはずです。
「確かにお嬢様の言う通りだよ。でも、ここは命が軽いイリリークだ。外の魔物に回している人員を少しでもダンジョンの攻略にあてたらそれだけでもうにっちもさっちも行かなくなる……それが現状なんだよ」
「嘘、でしょう……」
その言葉に私は絶句するしかありませんでした。私が思っていた以上にここは危うい均衡の上に成り立っている場所だったということに。だとすればあのダンジョンはもう放置するしかないということ……?
「十分人間が足りてるんだったら入場者の制限と上位冒険者の派遣ぐらいはやりたいとこなのは事実だ。けれど、残っているのはペーペーと低級の魔物相手に日銭を稼ぐのがやっとの奴ら。後は荷物持ちで金を稼いでいるぐらいなもんだよ」
苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべている辺り、副長の仰ることは事実なのでしょう。脇にいたゴンザレスさんもそれにうなずいています。
「――だが、1人だけそれに対処出来そうな奴がいる」
しかし次の瞬間、副長の目が細まって私の方を見てきました――そこでやっと私は気づいたのです。彼女の言わんとしていることを。そして私の運命はまだ閉ざされてはいないということを。
「つまり、私が対処すればいいということですね。そうでしょう?」
「話が早くて助かるよ、期待のルーキーさん」
こういう時にだけ持ち上げるというのも卑怯だとは思いますが、私とてこの状況と彼女を利用しようとしているのです。お互い様でしょう――ダンジョンの核の破壊、その任を私に任せるということに。
「なっ……!? しょ、正気か!?」
「そ、そうです! いくら何でもお嬢様は病み上がりの身なのですよ!?」
「知るかそんなん。あと数日でダンジョンの脅威が上がる。そうなったら魔物の処理が追いつくかどうかもわからないんだ。だったら使える人間は使い潰す。もちろん、この状況を利用できると思ってるんだろう。セリナ・ヴァンデルハート」
お父様とベティが止めようとはしてくれましたが、軽く前のめりになって提案してくる副長のささやきに私は耳を傾けていました。家名まで持ち出してくるなんて卑怯でしょう、全く。
「もちろんです――こうして内情を明かしたということは、私ならばやれるという公算があるということでしょう?」
私の問いかけに副長は口角をつり上げました。今回だけかは不明ですが、私を抱き込む腹積もりだったのでしょう。もちろん乗らせてもらいますわ。
「やらせてもらいます。戦いに不慣れなお父様とベティが魔物と交戦することのないように、全身全霊をかけてこのセリナ・ヴァンデルハートが大任を果たしてみせましょう」
このまま何もしなければ、お父様もベティも魔物と戦わざるを得ないような状況に陥る可能性があります。そんな可能性はわずかであっても消さなくてはなりません。
……こうして魔物相手に命を落とすどころか名誉すら奪われそうになったからこそわかります。格下でなく、同等あるいはそれ以上の敵を相手にした時の恐怖が。
だから私は戦う。2人のために。そしてまだ終わってない復讐のために。
(それにこれは家を再興させるためのまたとないチャンス! 利用しない手はありませんわ!)
理由はそれだけではありません。家を再興させるためにも何かしらの栄誉が必要です。その点において『ダンジョンの核の破壊』は紛れもなく名誉ある行いでしょう! それを単独で成せばなおさら!
他にもこの偉業を成し遂げた冒険者はいますし、出てくる魔物の種類からしてそこまで危険度の高いダンジョンという訳でもないから話題性としては不十分かもしれません。
ですが立派な実績であることには変わりありませんし、これが呼び水となって大任を任される可能性もあります。そのためにも私はここで動くのです。
「それでこそだ。残り2日、昨日の今日で申し訳ないがやってもらうぞ。人員の手配はある程度ならこちらでやらせてもらう」
「えぇもちろ……ん?」
やってみせます。これは私の輝かしい未来のため……へ? え? い、今、なんと仰いました? 何かこう、聞き逃してはならないものを仰ったような気がしますが……? えっ、2日?
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