第13話 別れの言葉
「呪いだって……?どうしてそんな……」
「この呪いを解けるのは異種族だけなんですって。笑えるでしょ?こんなあたしが、どうやって異種族の協力を乞えるっていうのかしら」
「そ……んな」
「ありがとうツムグ。こんなあたしの話を聞いてくれて。でも、ごめんね、友達を死なせてしまって──サヨナラ」
深紅の瞳を涙で濡らして、シオンは走り去ってしまった。
そんな彼女の背中を見ていると、なぜか胸が張り裂けそうなほどに苦しい。
呼吸するのも困難なほどに、胸が苦しかった。
その理由を僕が捜していると、
「おい、さっきから何喋ってんだよ……!」
明らかに怒気をはらんだ恭也君の声が背中に叩きつけられる。
振り向くと、そこには豹変した彼の姿があった。
「……恭也君!?」
「答えろよ、
激昂する恭也君の全身は、赤く明滅するように燃えていた。緑色だった鱗が、赤く変色している。
あまりの熱量に、周囲の大気が揺れていた。恭也君の感情にスキルが呼応しているのだろう。
「さっきから、オメエの言ってることは信用が出来ねえ!委員長はスキルを使いまくってるし、今の女とは何話してたんだよ!?それに……さっき急に体調を悪くしてたのだって、なんか理由があんだろ!?」
その問いかけに、僕は何一つ答えることができなかった。
風切君は、シオンの名前を聞いただけで死んだ。
もしも僕が彼の死因について説明すれば、その過程で絶対にシオンのことに触れなくちゃいけない。
そして、そうなってしまえばシオンにかけられた呪いがみんなに襲いかかる。
事情を理解した瞬間に、死んでしまうのだ。
──絶対に真実を話すわけにはいかない──
なんてもどかしいんだ。
僕のスキルは、今や完全に意味をなしていない。伝えれば伝えるほど、相手を苦しめてしまうなんて……!
「みんな……」
途方に暮れて、僕はクラスメイト達を見回す。
言葉にしなくてもはっきりと伝わってくる、みんなの"不信"が。
その時、僕は悟ってしまった。
もはや、ここにも僕の居場所はなくなってしまったのだ、と。
長い間一人で過ごしてきた僕が、ようやくたどり着いた居場所──だと思っていたけど……。
こんな状況では、もはや僕の言葉を誰も信じてくれないだろう。
涙が止めどなく溢れてきた。
そして、何故か僕は笑っていた。
(そうか……。きっと、今のボクはキミと同じような顔をしてるんだね……)
今なら、シオンの気持ちが少しは分かる気がした。
自分のせいで多くの人を苦しめて、そのせいで誰とも交流できない。
そんな彼女の気持ちに思いを巡らせる。また、胸がチクリと痛んだ。
そうだ。僕は、もうみんなといられない。そして、そんな僕にできることは……もう、そんなに多くない。
覚悟を決めると、僕はもう一度みんなに向き直った。
変わらず疑いの眼差しを向けられたまま。
こんな状態じゃ、僕のスキルは無意味に等しい。言葉が届いても、それを信じてもらえなければ意味がない。
なにより、みんなに一度に言葉を届けることだってできやしないんだから。
でも、最後にせめて、これだけは伝えたい。
涙を拭って、みんなに深々と頭を下げる。
「みんな、ありがとう……そして、ごめんなさい!」
最後の台詞まで、シオンとそっくりだった。
頭を下げた拍子に、胸ポケットに入れていたスマホが床に落ちる。
顔を上げて、みんながどんな表情をしているのかを見るのも怖い。
僕はそのまま後ろを振りむき、シオンの跡を追った。
今も胸を締め付ける、この思いの正体を伝えるために。
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