14──強くならなきゃ。 その2

 冒険者になるにはテストに合格しないといけないらしい。他にも、ほしょうにんがどうとか、みぶんがどうとかって言ってたけど、コランが色々やってくれた。コランありがとう。

 テストは文字とか書けなくてもいいらしい。森に生えてる薬草を集めてくるんだって。でも、一人で活動するには文字ができないと仕事をもらえないって言ってたから、文字の勉強もがんばらないと。

 街から出て、ちょっと歩いたところで、森に入る。テストはわたしの実力を知るためのものだから、他の人は助けてくれない。テストのしけんかん……ギルドの人が採点のために付いてきてくれる。あとは、コランとエメリーもいっしょだけど、わたしの後ろを歩いている。

 今日はわたしが一番まえっ。

 薬草の見た目が書かれた紙と森の地図を持って、歩いていく。薬草の紙には文字もいっぱい書いてたけど、読めなくても多分大丈夫。見分けるポイントに丸がついてたから。それに、こういうお使いは得意だからね。

 さっきの道がここだからー。多分もう少しかな。目印の岩があるはず。

 あっ、あれかな。わたしの倍くらいの大きさの岩を右に。ちょっと上り道。

 この変かなー。

 森の中の道を外れて、草がいっぱい生えてるところに進む。いっぱい色々生えてるから、多分この中にありそう。

 うーん。これは色が違う。これは葉っぱが違う。これはそっくりだけど……葉の付き方が違う? ゆっくりがさごそ、草を探す。

 草むらの真ん中から、端の方へと移動する。これかな。草むらの端の方、木の幹のすぐ下らへん。葉っぱも色も同じ、葉の付き方もいっしょ。これだぁ。小さくポーズ。

 これの葉っぱだけ取ればいいんだよね。

 ざらざらした葉っぱの付け根を、ぐってやって葉っぱを摘んでいく。全部取るんじゃなくて、二つ飛ばしで取るのよー。

 がさがさごそごそ。

 がさがさごそごそ。

 がさがさごそごそ。

 がさがさごそごそ。

 がさがさガサガサごそごそ。

 あれぇ。なんか今音が多かったような。薬草を摘むを手を止めて、背を低くして周りをみる。ちょうど、木の近くだから、木に体をくっつけて、周りを見る。コランたちは少し離れた場所で動かずに私を見てた。

 ガサガサ。パキ、ペキ。

 音が聞こえるのはコランとは逆の方だ。何か動物がいるのかも。

 しけんかんの人を見てみるけど、笑顔で見つめられた。

「あの。あっちのほうで、なんか歩いてる」

 ざっざっと、音が大きくなる。

 がうぅっ、と。鳴き声が聞こえる。

 膝が震えて、しゃがみこみそう。怖い。襲われたらきっと、すぐに噛みつかれて食べられてしまう。

「オペラ! こっち!」

 コランが言う。

 そうだ! わたしは強くなるんだ。

 ぐぐぐ、ぐぐぐと、力を入れてコランの方へ走る。

 コランが前に出る。

 おっきな狼が草むらからコランへと飛びかかる。

「私のオペラちゃんに何すんの!」

 狼の目の前に炎が出て、コランが炎といっしょに殴り飛ばす。

「よしっ」

 遠くの方にとんでいった狼はもう帰ってくることはなかった。

 その後、場所を変えてもう少し薬草を摘んだ後、みんなでギルドに戻った。

「試験の結果ですが。合格です。自然の中を歩くのも慣れてるみたいですし、危機感もちゃんと持って行動できていました。なので、Fランク認定です」

「やったー」

 わたしの冒険者ライフが始まった。



 冒険者になった次の日。

 冒険者だけが使えるくんれんじょうに、みんな(コラン、エメリー)と来た。

「どうして、訓練場を借りたんですか? お金もかかりますよね」

 くんれんじょうは、端まで走っても疲れないくらいの広さで、高い木の柵に囲まれていて、天井はなかった。地面がまったいらで、ベンチとカカシが置いてある。

「エメリー、冒険者ランクはいくつ?」

「? えーと、冒険者ライセンスは持ってないですけど」

「だから何もしらないのね。Bランク以上の冒険者は、一般の訓練場を使い放題なのよ。私はBランクだから、ただで訓練場を使えるの」

「へー、そうなんですね。ランクでそのような特典が」

「今どき旅をするなら冒険者ライセンスくらい取っておきなさいよ」

「私の場合、学位と調査員証があるので」

「学歴マウントってわけ」

「へ、そんなつもりは……ただ、冒険者ライセンスの代わりもあるってことを言いたかったんです……」

「やれやれ」

「ね、ねぇ。がくいって何?」

「学位っていうのはね」

「オペラちゃんは学位なんてもの知らなくてもいいわ。実戦志向なら冒険者ライセンス一択よ」

「そんなことないわよ。学院に入って、好きなことを勉強して……」

「お勉強いっぱいするの? 難しそう」

 お勉強は好きじゃないかも? そもそも勉強ってやったことないかも。

「オペラちゃんはお勉強嫌いですか?」

「うーん。分からない」

「オペラちゃん、勉強は勉強でも実戦に役に立つものを勉強すればいいわ。エメリーみたいに机の上にかじり付くような暇があったら、体を動かすのよ」

「私だって、別にただお勉強が好きなだけじゃないです! フィールドワークもそれなりにするんですから。オペラちゃん、遺跡調査とか楽しいよ」

「いいえ、オペラちゃんは実戦魔術をやって、冒険者ランクを上げていくのよ」

 二人がゆっくり、わたしに近づいてくる。コランは手を腰に当てて、エメリーは両手を前に小さい動物を捕まえる手つきでこっちに来る。

 わたしは、わたしは強くなりたい!

「私の勝ちね」

「オペラちゃん、コランさんが嫌になったらいつでも、うちの博物館に来てくださいね」

 コランはガッツポーツ。エメリーはしょぼしょぼ。

 そういえばエメリーの博物館って、キャニーが仕事してたところなんだよね。いつかは行ってみたいなー。でも、そのときは、キャニーも一緒がいい。

「さて、気を取り直して。今日はオペラちゃんに魔術を教えるわ。拍手」

「「わーい」」

 パチパチパチパチ。二人で拍手。

 今まで魔術を使ったこともないし、村の人たちも……、何人かは使ってたかなぁ。全然覚えていない。それよりも、ハックが使っていた魔術の方が覚えている。あれ? ハックも魔術なんだっけ?

 とにかく、何ができるようになるか楽しみ。

「昨日も見せたと思うけど、私が愛用してる魔術はこれ」

 コランは二の腕につけたケースから御札を取り出して、指輪にかざす。シュッと御札を引っ張ると、コランの目の前に炎が弾けて消えた。

 びっくりしたけど、炎を出すのはハックがやってるのを見たことある。

「この空中に炎が出てくるやつね。やっぱり火は簡単に威力を出せるから戦闘に向くのよね。オペラちゃんにもこれと同じようなものを習得してもらうわ」

「わたしも御札使うの?」

「いいえ、オペラちゃんならやっぱり、詠唱魔術でしょう」

「ちょっと待って、オペラちゃんって喉に刻印付いてないでしょ。ほら」

 エメリーがわたしの両脇に手を入れて持ち上げる。されるがまま、猫みたい。

「実はオペラちゃんはね、刻印がなくても詠唱魔術を使えるの」

「それ、ほんとですか?!」

「どうやらそうらしいの。私も見たことは無いんだけどね。オペラちゃんの喉、普通と違うのよ」

「触って良いですか?」

 コクリとうなずくと、おっかなびっくり喉の周りを撫でられる。

「本当ですね。って、オペラちゃん耳も少し尖ってます……これってもしかして……そういうことですか」

 地面に降り立つわたし。コランがつけてる指輪をつけてみたいし、御札も使ってみたかったけど。

「何か心当たりがあるみたいね」

「ええ、詠唱魔術が使えるのは納得できたけど、言語は分かるんですか?」

「分からないわ。本当は、オペラちゃんが一度見せた、魔術を破壊するっていう魔術? が使えればいいんだけど、ギリギリで出たやつみたいだから当てにはできないのよね。まぁ、でも多分、シー(entric)言語が使える気がするのよね」

 わたしを置いて会話しはじめた二人を放って、わたしは近くのベンチ置かれていた魔術の本を触る。わたしでも立ったまま読めるくらい小さくて、分厚い。表紙はペラペラで中は文字だらけだ。

「確かに、コンパイラが違っていても、国内で発展した技術ならC言語の可能性はありますが」

「まぁ、細かい話はいいでしょ。やってれば分かることよ。さぁ、オペラちゃん、今から私が言う内容をそっくりそのまま真似してね」

 そう言ってコランはガサゴソとポケットを漁るけど、何かものが見つからなかったみたいで、キョロキョロしはじめる。

「あっ、オペラちゃんその本」

 わたしの持ってる魔術の本を探してたみたい。わたしはちょっと、いじわるをすることにした。

「あっ、オペラちゃんその本」

「ん。こらーオペラちゃん! これは真似しなくていいの!」

「ん。こらーオペラちゃん! これは真似しなくていいの! うふふ」

 と、笑っていたら、急に体が宙に浮いた。えっ、何? 何? 下を見るとコランがいた。わたしのお腹にコランの頭があたって痛い。高い!

「はい、その本返して」

「はい」

 素直に本を渡すと、ぐるぐるぐると上に持ち上げられたまま回されて、目が回る。いっぱい回されたから、地面に下りた後もちょっとぐるぐるした。なんだかいっぱい持ち上げられる日だな。

「それじゃあ、気を取り直して、私の発音を真似してね『■■■■ ●● ●●』」

「■□■■■ ●● ●●」

「惜しいわね『■■■■ ●● ●●』」

「■■■ ●● ●●」

「『■■■■ ●● ●●』」

「▲■■■ ●● ●●」

「『■■■■ ●● ●●』」

「■■■■ ●● ●○」

 わっ、地面に一瞬火が出て消える。ぴょんと避けたときには、もう炎は消えていた。

 これ、もしかして、すごく危ない? でもコランは何も問題がなかったみたいに、お手本を続けている。大丈夫なのかな。

「続けるわよ。『■■■■ ●● ●●』」

「■■■■ ●● ●●」

 今度は、わたしの胸辺りで、火球が発生して、ふよふよと手の長さくらいの距離を移動して消えた。

「成功ね。やるじゃない」

「これで、成功?」

「そうよ! この調子で色んな炎の出し方を試しましょう。魔術は実践よ。いろいろ弄ってたらそのうち覚えてるんだから」

「すごいですよオペラちゃん。初めてすぐに魔術を発動させられるのは、すごく才能があります。何回授業しても発動できない人もいるくらいなんですよ」

「わたし、すごい?」

「まぁまぁね!」

「天才です!」

「わたし、強い?」

「あなた次第よ」

「絶対強くなれます」

「キャニーに勝てるかな」

「負ける要素がないわ」

「勝てますよ」

「うふふふふ」

 その日の訓練は、わたしが両手で持てないくらいの大きさの炎を出したところで、終了になった。

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