13──一人 その2

 朝起きるとキャニーがいなくなっていた。

 キャニーはどこに行ったんだろう。

 よくわかんないけど、キャニーが自分で出てった気がした。でも、心配になった。

 夢の中ではパンケーキのお布団だったけど、起きたらキャニーの荷物がなくなっていた。

「キャニー、くん。おはよ!」

 ドアが開いてエメリーが入ってくる。

「ってあれ、キャニーさんはどこに行ったんですか?」

「いない」

「えっ、まさかぁ。流石にあのキャニーさんでも黙って出ていくなんて」

「キャニーいなくなった。荷物もない」

「ええ。ちょっとそれは……、書き置きとかないですか?」

「かきおき?」

「そうです。お手紙みたいなもの。どこへ行くーとか」

 わたしとエメリーは机の上とか、ベッドの下とか探した。何も見つからなかった。

「すぐに戻って来るか、もしくは……。流石に長時間出るなら何かメッセージを残すはずですし……、ということは本当に逃げた? それとも、何かに巻き込まれて……。いや、考えるのは後ですね」

 エメリーは自分の頬を自分で叩いて、わたしにこう言った。

「朝ご飯にしましょう。朝ご飯を食べても帰ってこなかったら、探しに行きましょう」

「うん」

 わたしはどうすればいいか分からなかったから、エメリーの言うとおりにする。

「今日の朝ご飯は昨日のカフェで買っておいた菓子パンです」

「やったー」

 甘いジャム入りのパンを食べても、キャニーは帰ってこなかった。



 四階建てのおっきな建物だった。

 ドアは開きっぱなしで、武器を持った人がいっぱいいた。

「2人だけで探すのは大変なので、ギルドにお願いしましょう」

「ギルド?」

「そうギルド。オペラちゃんはギルドに来るのは初めて?」

「うん」

「ギルドはね冒険者さんに頼み事をしたり、冒険者になったりできる場所だよ」

「冒険者」

「そう冒険者。怖い動物さんを倒したり、お金持ちの人の護衛をしたり、あとは、お金さえあれば大体のことをやってくれるなんでも屋さん」

「なんでも屋さんなんだ」

 でも、ギルドに入っていく人たちはみんな怖そうな感じで、あんまり人探しとかしてくれなさそう。

「それと、街中の情報が集まる場所でもあるから、ダメ元でもお願いしてみましょう」

「うん」

「オペラちゃん、手をつなぎましょう。そしたら怖くないよ」

「うん」

 エメリーは怖くないのかな。

 ギルドの中はレストランみたいな部分と、受け付けの部分に別れていた。エメリーは受け付けで色々話してお金を取り出して、何か紙に書いていた。

「あれ? オペラちゃんじゃない。久しぶり」

 いきなり横から声をかけられる。わたしはその声を知っていた。

「コラン?」

 そこには、わたしの装備を買ってくれたお姉さんが、腰に手を当てて立っていた。首を傾けるたびに長く伸びた、ついんてーる? わたしの顔にぶつかってくる。

「まだ旅を続けてたのね。キャニーはどこ?」

 腰を折り曲げて顔を近づけて言った。エメリーは優しそうだけど、コランはこう、強そうな感じだ。

「あのー。オペラちゃんのお知り合いですか?」

「あなた誰?」

「あなた誰って、失礼ですね。私はオペラちゃんの友達です」

「そう。私もオペラちゃんの友達よ。コランって言います。それで、キャニーはどこ?」

「ああ、コランさん。オペラちゃんから聞いてます」

「そう、決してキャニーの友達じゃないわよ」

「「え?!」」

 わたしとエメリーの声が重なった。コランとキャニー仲が悪いんだ……。なんだかショック。

「え?」

 これはエメリー。

「まぁとにかく、そのキャニーは? まさか、いないなんて……ふむ、その依頼書を見るにそのまさからしいわね」

「あ、ええ。そうなんです! キャニーさんがいなくなったんですよ!」

「それで、人探しの依頼を出すところだったと。なら、この私に任せなさい。私はこれでも、Bランクの冒険者だから、人探しだってお手の物よ」

「Bランクなんですか! それは心強いですね。それにキャニーさんを知ってるのも良いですね。ぜひお願いします!」

「ええ、任せなさい。あんなクズの一人くらいすぐに見つけてみせるわ」

 それから、わたしとエメリー、それからコランの二手に分かれて、そこら中を回ってキャニーを探した。



 空がオレンジ色になった頃、コランと一緒にカフェに入った。

 わたしとエメリーは、色んな人に聞き込みしたけど、キャニーがどこにいったのか分からなかった。

「さて、まどろっこしいから結論から言うわ」

 コランは上にクリームの乗ったコーヒーを飲みながら言った。

「キャニーはこの街から出ていった。それも夜中のうちに。おそらく今頃隣の街に着いてるでしょうね。動きが早ければ隣町からも移動してる可能性もあるわ」

「本当ですか?」

「ええ、夜中にキャニーらしき人が街の外の方へ歩いていったのを見た人がいたわ。街から出てすぐの道に燃え跡があったのも関係あるかもね。たしかあいつ、炎の魔術を使っていたから」

「その、証言が間違っている可能性はないんですか?」

「ほぼないわ。だって、他にキャニーを見かけたっていう証言がないし。それに、何か理由があっていなくなるなら、同じ街に隠れるなんてことしないだろうし。大方、オペラちゃんに向き合うのが嫌で逃げたんでしょう。あのヘタレのやりそうなことよ。オペラちゃんに向き合いたくないけど、捨てることもできない。だから、エメリーっていうていよく押し付けられそうな人が現れて、安心して旅立ったんでしょう」

「わたし? わたしのせいなの?」

 キャニーは迷惑だった? だから、いなくなったの? だったらだったら……。悲しい。悲しくて。

「キャ、キャニーさんはそんな無責任な人じゃないです。大丈夫ですオペラちゃん、キャニーさんがいなくなったのは、あなたのせいじゃありません」

 涙が出そうになったけど、エメリーのお話を聞こうと思って引っ込んだ。そうだ、キャニーは、キャニーはわたしのこと助けるって言ってた。ここまで旅をしてきて、わたしより、辛そうにしてた……。わたしの家のことなのに。

「はぁ。それは、ちょっと買いかぶりすぎだと思うけどね。そうね、もし、キャニーがオペラちゃんのことを迷惑だと思ってたとしても、関係ないわ。関係ない」

「かんけいない?」

「いい? オペラちゃんはある意味被害者なのよ。悪いのはキャニーの方。それでも、オペラちゃんがキャニーのこと思ってるなら、見つけ出して引っ叩いて、無理やり一緒にいればいいのよ。思ってること全部ぶつければいいのよ。あいつがどう思ってるかなんて関係ないし、どうせヘタレだから、こっちから追い詰めれば観念するわよ」

「ほんとに!? いっぱいワガママ言ってもいい?」

「いやー、オペラちゃんそれは、ちょっと暴論というか」

「うるさいわねエメリーは黙ってなさい。いい、オペラちゃん。欲しいものは自分で掴み取るのよ。向こうのことなんて待ってたらダメ」

「わたし、キャニーを探しに行く! それで、いっぱい言う! 逃げても追う!」

「その意気よ。それでこそ、私の弟子ね」

「いつのまにオペラちゃんは、あなたの弟子に……」

「早速私がキャニーを探すための方法を伝授するわ」

「コラン、教えて。どうすればいいの」

「隣町へ行くのは確定としても、そのまま追いかけても仕方ないわ。それに、エメリーもずっと着いてこれるわけじゃないでしょ」

「うんうん」

「だからまずは、冒険者になるのよ」

「ちょっと、コランさん! さすがにこんな小さな女の子に冒険者になれだなんて……」

「じゃあエメリーはずっとオペラちゃんの面倒を見ながら旅を続けられるの? 私だったらしばらくは付き合えるけど、ずっとじゃない。今のうちから一人で旅ができるように準備するのは必須よ」

「わたし、冒険者になる!」

「冒険者になれば、冒険者の情報網が使えるし、お金を稼ぐ手段にもなるし、それに、戦闘能力を鍛えたらキャニーを組み敷くこともできるようになるわ」

「キャニーを……くみしく」

「そうよ、キャニーを地面に押し倒して、上に乗って逃げないように押さえつけるのよ」

「ちょっと、コラン! オペラちゃんになんてこと教えるのよ!」

「うん! わたし、冒険者になってキャニーを組み敷く!」

「よし! 全ては急げよ」

 コランが立ち上がる。わたしも立ち上がる。

 バンっとお金をテーブルに置いて、店を出る。

「待ってよぉ。それを言うなら善は急げでしょ」

 そうしてわたしは冒険者登録をして、Fランク冒険者になった。

 続く。

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