05─ショタだの坊っちゃんだのと その2

 やぁごきげんよう。僕だ。

 背中いっぱいに、これから戦う相手に対する歓声を受けながら、階段を下っていく。最後の一段、中央に出るときの一段は大ジャンプ。飛び入り参加の許可を取って、リングに上がる。審判が対戦相手といくつか言葉を交わす。どうやら休憩無しでやるらしい。さすが、軍属は体力が違うね。

 一定の距離を保って対峙する。この大会は魔術も武器の持ち込みも、殺し以外は基本ありだ。といっても、僕のオートマタは流石に目立ってるな。ふふふ。この観客の中に、去年の僕を覚えてるやつがどれくらいいるだろうか。今年は全員に覚えていってもらわないとね。

「クラウス・バーナーズだ。騎士の誇りにかけて、正々堂々戦うことを誓う」

「ジャンゴ・ニシキだ。よろしくたのむよ」

 審判がアイコンタクトで準備確認をする。僕はいつでも大丈夫。

「レディー、ファイト!」

 開始の合図と同時、相手が駆け出す。僕はオートマタを操作して立ち塞がる。片手持ちの剣で横薙ぎがくる。それを、オートマタの左爪で防ぐ。

 さらに踏み込んで来る。

 僕のオートマタは二メートルくらいあって、かなりでかい。だから、懐に入られるのは苦手なんだけど。

 左側に回り込まれる。踏み込み、超低姿勢、切り込みの勢いのまま、足払いへ移行。

 だがっ、残念。僕のオートマタは見た目よりも遥かに足腰が強い。

 カカシのような細足に、相手の鍛え上げられた蹴りが当たるもびくともしない。受けた衝撃の一部は術式により吸収、発散。

「行かせないよ!」

 オートマタを半身ひねって、相手を背中から斬りつける体勢へ。

 短い詠唱。

 眼前で爆破。

 衝撃を受け流しそこねて追撃へと移行できなくなる。その隙に、小さい方のオートマタの眼前へと剣が突きつけられる。

「少しでもアクションすれば切る。降参しろ」

「嫌だね」

「なっ」

 瞬間、剣の腹で小さい方のオートマタの頭部がぶん殴られる。僕と同じ体格、同じ顔をしたオートマタが衝撃で吹っ飛ぶ。

 流石に吹っ飛びすぎじゃないかな。やっぱり術式をケチったのが良くないな。もっと耐久を上げないと。なんてことを考えながら、オートマタの爪で相手を背中から斬りつける。

 クリティカルヒット。

「そっちが本体か!」

「ふふ、どうかな」

 ま、正解なんだけど。オートマタのバッテリー不足を、自分が直接中に入って操ることで解決した。苦肉の策。僕みたいなチビがオートマタを連れていると、誰だって本体は弱いと思う。ふん、身長で相手を判断するな!

 小さい方を相手にしても仕方ないのが分かったのか、クラウスはこっちに振り向く。

 紙一重で攻撃を受け止められるが、めげずに次を叩き込む。

 そっちは剣一本だけど、こっちは実質二刀流だからね。

 このオートマタには片手に五本ずつ刃の付いた爪が装備されている。しかも、腕もそれなりに長く作ってあるから、結構なリーチがある。おまけに、これ自体は全身を覆う鎧になっていて、衝撃吸収ギミックも搭載。

「さっきのお返しだ。降参しろ」

「断る!」

 流石にベスト4。なかなか倒されてくれない。持久戦に持ち込まれると苦しいのだけど……。

「ふんっ、僕の勝ちだ」

「何っ?」

 相手の背後から、いわゆる膝カックンをしかける。たかがメインカメラがやられただけで、オートマタが動かなくなると思ってもらっては困る。先ほど吹っ飛ばされた小さい方のオートマタを操作して背後から奇襲。

 姿勢の崩れたところを、さらに追撃。

「ほんとにしぶといね」

 後ろに倒れながらも、爪の直撃が剣で防がれる。

 小さく口が動いているのが見えた。

「させないよ」

 オートマタに埋め込んである消音の魔術を消費して、相手の詠唱が爆発に変わる前に消去する。

 そのまま手で口を覆うように、相手の頭を地面に叩きつける。

 間髪入れずにマウントポジションをとって拘束。チェックメイトだ。

「勝者! 乱入者ジャンゴ・ニシキ!」

 審判が旗を上げる。

 ゆっくりとオートマタを直立させ、お腹部分にあるハッチを開く。

 会場いっぱいの喧騒の中で、僕はまっすぐ右腕を空に掲げる。

 流石、僕。

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