04─盗みを楽しむのだって才能なんだぜ その3

 会議の後、積荷の確認を終えて出発するまでの間、亡くなった賊二人を火葬した。オペラたちは、先に馬車に乗り込んで出発を待っている。僕のワガママに付き合わせる訳にはいかないから。

 残った遺品は拘束した賊の足元に置いておく。

「ありがとうございます」

 比較的身なりのマシな盗賊が、遺品へと目を落としながら、ポツリと呟く。無秩序に無精髭を生やしている男だった。

「どうして、盗賊なんてしてるんですか?」

 盗賊からお礼が返ってきたことで会話ができると思ってしまったのか、その言葉が口から溢れた。太陽が少しだけ傾いている。

「どうして、か。そんなこと考えたことなかった、です。勝ったやつが奪う。当然じゃないですか?」

「間違ってるよ」

「そうかい、でも、俺達は、そうやって生きてきた。戦場でも、ここでも」

「人は殺したのか」

「変なこと言いうんですね。今日だって、仲間が二人死んだ。殺すか、殺されるかだ」

 だって、お前らが襲ってきたから……、それに僕は誰も殺さなかった。誰も殺さずに、お前らを止められた。

 戦わなきゃいい。戦わなきゃいいんだよ。

「盗賊なんてやめたらいい」

「はっ」

「何がおかしい?」

「名家のお嬢様かよ。反吐が出る」

「そうか」

 自分が甘いのは、知ってる。だから、僕は家を出たし、そして今、オペラを助けたいと思ってるんだよ。

「あーあ、こんなことなら、娘の一人や二人遊んどくんだった」

 これ以上話していると、殺したくなりそうだったので、無視して馬車の方へ歩き出す。

「なぁ! 最後に教えてくださいよ。なんで見逃すんですか?」

「人殺しは悪いことだよ」

 だから、誰も殺したくない。

「ふざけんじゃねぇぞ! なぁ! おい!」

 声は遠ざかる。馬車を待たせってしまってるかな。だとしたら悪いなぁ。うん。大丈夫、僕はやるべきことをやったんだ。

 馬車の方からコンが走ってくる。

「終わったか?」

「終わったよ。待たせて悪かった」

「そうだな。今回は大目に見るが、次は味方してやらねぇからな」

「大丈夫」

 多分もう一度同じ状況になって、今度は止められそうになかったとしても、同じことをすると思う。どうしてそんなに頑なになってしまったのか分からない。でも、今はハックがいて、オペラを守らなきゃいけなくて、昔とは違う。正しいと思ったことをやろう。そのために頑張ろう。

「なぁ、おい。礼は?」

 コンは若干キレ気味だ。

「そうだな、ありがとう」

「はぁ。しっかりしてくれよ。戦闘中のお前はもっと、こう、シャキッとしてたのにな。本当に頼むぜ」

 背中を強く叩かれる。

 うん。よし。僕は笑顔を作る。そうだ、僕だけで六人も賊をやっつけたんだ。

 ほとんどわしの手柄じゃろ。お主が何をしたっていうんじゃ。

 おっと、ハック起きてたのか。そうだな、ハックのおかげだ。ありがとう。

 ふん。分かっておるなら良い。あまり調子に乗らんようにな。どんな英雄も死からは逃げられん。

 分かってる分かってる。でも、次も頼むよ。

 大きなため息が聞こえて、ハックの気配が消える。ふて寝したのだろうか。

 僕が馬車に乗り込んだと同時に馬車は動き出す。

「おかえり、キャニー。なんともない?」

「ただいま、オペラ。大丈夫だよ。かすり傷すらないね」

「そっか」

 馬車が揺れる。

 疲労感と薄っすらとした馬車酔い、それに達成感が混じって、気持ちが上擦る。

「オペラも大丈夫だった?」

 手を伸ばしてオペラの頭を撫でる。コランがこちらを一瞬見たけど、視線はすぐに馬車の外に向かった。どうやら邪魔はされないようだ。

「ぅわー。髪がぐしゃぐしゃになるよー」

「よしよしよしよし」

 うんうん。あっやっぱりダメだ。オペラを撫でて誤魔化そうとしたけど、馬車酔いに負けそうだ。

 助けて、ハック。

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