第31話 遭遇④

 砲仙花ホウセンカ それがこの 30層の階層主の名前だ。


 大広間の中心部に根を張る巨大な植物型モンスター。

 長い触手のような蔓を持ち、おどろおどろしい赤い花を付けている。

 だが、こいつの恐ろしいところは名前が示すようにその実を砲弾のように飛ばしてくることだった。

 そして、時間が経つとその実が発芽し、新たな砲仙花を生み出してくる。


「膨らんだツボミには気をつけて! 来るよ! 散開!」


 湊さんの合図によって始まった戦闘。初手は砲仙花からの砲弾の嵐だった。

 戦車砲のように撃ち出されるのは砲仙花の実。自己増殖する植物モンスターは厄介極まりない。なので速攻で倒したいのだが、ウネウネと動く蔓が邪魔だった。



 遠距離攻撃と攻防一体の蔓による守り、気持ち悪い動きをする触手のような蔓……その蔓に捕まった女の子……動きを封じられ蔓に身体を蹂躙される女の子。


 抵抗する女の子も蔓の責めに負け、次第に甘い吐息が漏れ出す。


 えへえへえへ。





「正宗! 何ぼうっとしてんの!」


 はっ! しまった。ちょっとえっちい妄想を脹らませてしまった。


 その僕に蔓が襲い掛かってくる。

 床下から、左右からと複数の蔓による同時攻撃。

 だが、僕は迫りくる蔓の動きを見て、黒刀を構え一太刀で切り裂いた。

 そして、そのまま本体へと駆け出す。



 砲仙花の本体では、ケモミミ少女が戦闘を繰り広げていた。

 全方位から迫る蔓を巧みに躱し、ときには蔓を切り結び、少女の背丈の数倍もある巨大な花へとダメージを与えていた。

 まるで踊っているかのような流麗で美しい体捌き、彼女は触手のような蔓の動きを完全に見切っているのだ。


「凄い!」


 語彙力は低いがそうとしか言いようがなかった。

 まさに理想的な動き。

 そんな中、彼女の持つ短剣が赤く光り、炎を宿した刃が砲仙花の巨大な赤い花弁にダメージを与えた。


 炎に包まれダメージを受けた赤い花は、身を守るかのようにその花弁を閉じた。

 動きを止めた巨花。


「やったか⁉」


 誰かがそう呟いた。

 それ……言っちゃ駄目なフラグじゃん。

 やったか禁止! こいつ絶対生きてるよ。

 ならばやることは一つ!

 

 動きを止めた今がチャンス!

 

 だが、無情にもその巨花が花開く。

 赤かった花弁は紫へと変色しており、よりおどろおどろしさを増していた。

 その巨花から打ち出される一条の閃光。


 まるでビーム砲のような強力な一撃。



 だが、その光はすぐに消えることになる。


 

 ビームを放つ紫色の巨花がボトりとその首元から落ちた。

 それが引き金になり、その巨大な植物体は粒子となって消えていった。


「ふうぅぅ」


 僕は一呼吸置き、愛刀を鞘にしまう。



「正宗、相変わらず美味しいとこ持っていくのね」


 ちょ、穂香! 勝利を祝ってくれるのはいいけど……ヘッドロックはやめません?

 か、顔に物凄く柔らかな物体が押し付けられているんですけど。


「さすがご主人様なのだ」


 ケモミミ少女も巨大花を両断した僕を褒めてくれる。



 

 多少の怪我人を出した 30層の階層主戦もこうして幕を閉じた。



  ◇


「いやぁ遂にここまできたねえ」

「前回は苦労したからね」


「36階層で引き返したんですよね」


「ああ、食料も回復薬も乏しくなったのでね。断腸の思いで退却したよ」


「でも今回は君らもいるし、準備万端だから期待してるよ」


「問題はこのダンジョンがどこまで深いかですよね?」


「ああ、その通り。モンスターも強くなるし、まったくの初見となる未開の地だ。どんな危険なモンスターがいるかもしれない前人未到のダンジョン、そこにこれから挑もうと言う訳だ」


「緊張しますね」


「……とてもそうは見えないのは気のせい?」


「言わないでください」


 

 先輩探索者のお姉さんと食事しながらの会話なのだが……。


 僕の隣には例によって、幼馴染とケモミミ少女。

 その二人が甲斐甲斐しく僕の口へと、料理を運んでくる。


「ほら、正宗の好きなハンバーグよ。あ~ん」

「ご主人様、ぼくの唐揚げ食べるのだ」


 自分で食べれるのにこの二人は事あるごとに僕の世話を焼いてくる。


「もう見せつけてくれちゃって、妬いちゃうじゃないの」

「ね~ こんなダンジョンでイチャついちゃって羨ましいわ」


 そんなこと言ってもねぇ……本当にどうしたもんか。



 大広間では階層主である砲仙花が最後に放ったビーム跡が痛々しく残っている。

 そのビーム跡を境界線に女子グループと僕、線の反対側に男子グループが野営地としていたのだった。

 

 だからね……そんな目と呪いの言葉を発しないでくださいよ。




  ◇


 十分な休憩をとった探索者の一団は遂に 31階層へと足を踏み入れた。


 そこは、これまでと違って迷宮ラビリンス型のフロアだった。

 迷宮型はギリシアのクノッソスの迷宮図(クレタ型迷宮)に代表されるような分岐のない秩序だった一本道であり、道の選択肢はないのだが迷宮を抜けるにはその内部通路をすべて通ることになる。初見でも隠し通路がない限り迷うことはないだろうが、走破には長い時間と距離を歩かないといけない。

 要はハッキリ言って面倒ということである。

 

「来たよ。モンスターだわ」

「スケルトンナイトね。核を狙って!」


 骸骨騎士:アンデット系のほねほねモンスター。こいつらは以前戦ったメタルアーミーと同じく手足をぶった切っても動くし、コアとなる心臓部は硬い金属鎧の中に隠されている。その癖動きも早く、片手剣とカイトシールドで武装している厄介なモンスターだった。それも複数の集団である。


「そういえば盾を持っている敵と戦うのって初めてだな」


「そうね。でも、これくらい手ごたえがないとつまらないから丁度いいわ」


「違いない」


 こいつらの急所は鎧を身に付けていない関節部分なのだが、大型のカイトシールドがこちらの攻撃を防いでくる。

 単体ならまだしも集団戦では、サイドから回り込もうにも狭い通路が邪魔して動き辛い。よって、必然的に正面からの戦闘になるのだが本当に盾が邪魔だな。


 だが、ここでも信じられない動きをする者がいた。

 戦闘中の僕たちの頭上を飛び越えて、モンスターの背後に降り立つ者―――それは、可愛らしい三角形の耳を持つ少女だった。

 彼女の短剣が鎧の隙間から骨を断ち崩れ落ちると同時に、スケルトン軍団の陣形が崩れスペースが生じた。

 それを見逃す僕たちではない。


 盾を持たない側面からの攻撃。片手剣を持つ右腕を断ち切った。

 腕の骨を両断されたスケルトンに攻撃手段はない。

 

 最後は鎧の隙間からコアを貫いてスケルトンを倒した。

 穂香も美耶華さんたちもそれぞれの相手を倒して戦闘は終了した。


「おつ~!」

「なんか本当にモンスターの質が上がったね」


「でしょう。ほんとやんなっちゃう」


「ハイハイ、先は長いんだ。行くぞ」


「出た! 鬼の萬代」


「ん? 美耶華なんか言ったかしら?」


「気のせいじゃない。ほら正宗君行こっ!」


 湊さんから逃げるように僕の手を引いていく美耶華さん。

 この人も僕によく絡んでくる謎の人だよね。



 

 その後も幾度かの戦闘をこなし、33層に到達した。

 一見して今までと変わりがなさそうな通路だが、ケモミミ少女の様子がおかしい。

 そんな強力なモンスターの気配でも察知したのだろうか?


「そこにいる者、隠れてないで出てくるのだ!」


 石レンガで固められた通路の先、見た感じでは誰もいない。――にもかかわらず、ルーちゃんのその口ぶりからは、あたかも誰かが隠れておりバレているから出て来いと警告するかのような言葉が発せられた。

 

 ここはダンジョンであり、精鋭部隊である僕たち以外の誰がこの地にいるというのだろうか?


「おやおや、感がいいのがいると思ったら獣人族かい? ふむ……なるほど、キミらだったのかい。お久しぶりと言いたいところさね」


 奥の闇から現れた人物、それは岳並神社ダンジョンで遭遇した赤髪の痴女さん。

 ――と、その取り巻き二人組。


「お前らには悪いが、ここは通行止めだ!」


 キザなイケメン風パンイチ変態男と太目のラテングラサン男だった。

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