第21話 両手に花②
「おおぉぉぉぉぉぉ‼」
すべすべしたこの滑らかな触り心地。
一点の曇りもない清冽な肌合い。
手にしっくりくる重量感。
すらりと反り返った細身の背。
……なんという造形美!
くっ! くはっ!
目の前のお嬢様の顔を覗く。
僕の瞳に天女のような女性が映る。
「神楽さん……もう我慢できません! 振ってみてもいいですか?」
「ええ、構いません。正宗様のお気に召すままに」
お嬢様の微笑みに僕は限界状態だった。
最初はゆっくりと、次第に激しく……す、凄い!
はぁ はぁ はぁ はぁ。
「正宗様ぐあいはどうですか?」
「ああ、最高だよ」
やべえ、これマジで興奮する!
「ふふっ、そうだわ! 記念に写真はいかがですか?」
「いいの? じゃあお願い」
「ええ、わかりました」
カシャリ。
「ああっ、勇ましい正宗様素敵です」
「正宗様にもこの写真送っておきますね」
「ありがとう。でも、本当に僕が貰っちゃってもよかったの?」
「ええ、もちろんですとも」
「ありがとう神楽さん」
「穂香さんも気に入っていただけたようでなによりです」
僕と穂香はここ、ダンジョン探索協会本部の一室にて新装備を受け取っていた。
探索者ランクB以上で構成された精鋭部隊にて未知のダンジョンに潜るのだが、僕たちはその中でも異例の存在なんだよね。
装備も学校支給の探索者初期装備。まあ、それでも実力は折り紙付きなんだけどさ……神楽さんが気にするわけよ。
唯一の現役高校生 & 最年少メンバー & 桜ノ浦家が全面サポートする若手探索者。
嫌でも目立つグループの僕たちが初期装備は不味いと。
そこで僕たちは新装備を受領していたのだが……これがヤバい物だった。
僕の手にあるのは黒光りする一振りの日本刀。
それは――――
世界三大刃物産地として知られる岐阜県堰市、日本のほぼ真ん中に位置し、豊かな山々と清らかな川に育まれた歴史が薫る『刃物のまち』歴史人たちを魅了してきた日本刀の産地がある。
大災害後もそれは変わらず、いや今では世界一の刃物の産地となっていた。
その秘密は、刀匠が約700年にも亘って刀剣の鍛刀技術を継承してきた美濃伝、ダンジョン産の魔鉱石を使用して作られた日本刀にある。
もとより日本刀は単なる武器ではなく、芸術品として認められており愛好家は世界中に多くおり、数多のバイヤーが集まっていると聞く。
学校で支給されている数打ち品でさえ、諸外国の刀剣に比べても対モンスター戦においては優位性を持っているのだから当たり前だ。
弟子の作った数打ち品と違い、刀鍛冶の資格を取得した刀匠の作品は高値で取引される。その中でも特に優れた名匠の作品は市場には出回らない。
それは金銭ではやり取りできない価値があるからなのだが……僕たちに用意された赤と黒の二振りの日本刀、それは人間国宝に認定された桑名師の作品だった。
その意味するところ……それは桑菜師に所有者として認められたということ。
桜ノ浦家というバックがあるのは言うまでもないが、メタル系のモンスターを易々と切り裂く腕前を見込まれてのことらしい。
僕が興奮したのもおわかりだろうか。
これはもう、一高校生が所持してよい逸品ではない。
時世が違えば無形文化財級の逸品、欲しがる輩はごまんといる。
盗難とか怖いから普段はルーちゃんの空間収納で預かってもらおう。
怪盗ルパンや天下の大泥棒石川五右衛門も盗むことができない人間金庫、それがケモミミ少女の特殊能力なのだから。
「わたくしは明日の探索にはご同行できませんが、その心はこの刀とともにあります。きっと正宗様のお力になれますわ」
「神楽さん……」
ええ子や。僕なんかにはもったいない彼女。
色々尽くしてくれるのはありがたいけど……ちょっと? 重い。
これで別れるといったらどうなる?
…………
…………
怖いから考えるのよそう。
「神楽ちゃん、この刀の名前は何ていうの?」
「それはえっと……九条」
九条さんが端末を操作する。
デバイスに複数の書類ファイルが送られてくる。
そして、穂香の質問に対して九条さんが返答を開始した。
「この刀の銘は『桑菜兼丈』兼丈一門の桑菜師の作品でございます。号や呼び名はございません。資料によりますと、製作者の桑菜師曰く魔鉱石の可能性を十分に引き出せていない、納得のいく作品ではなかった。とのことで、呼び名は特に付けられておりません」
「だそうですが、名刀には違いありません。あとは銃砲刀剣類登録証の発行に必要な書類の提出にて、こちらの黒刀は正宗様の所有物となります」
「あ、ああ」
この書類に必要項目の入力とサインを入れて提出すれば……この名刀が。
ヤバい手が震えてくる……。
「はい。確かに受け付けました。これにて所有者登録は完了です」
事務所に書類ファイルを提出して手続きが終わり登録証が発行された。
これでこの刀は僕の名義になった。
神棚に飾ろうと抱いて寝ようと抜き身の刀身でぐへへしようと僕の勝手。
今日は興奮で寝れないかもしれない。
「それでは用件も終わりましたし、時間がありますので……」
やったね! 横浜観光ですか。行きましょう!
みなとみらいの街ですか? それとも横浜観光の定番中の定番横浜中華街ですか?
デートに人気の山下公園ですか? 赤レンガ倉庫も捨てがたいですね。
田舎者の僕は横浜初めてなのでどこでもいいですよ。
ウキウキしながら乗ったリムジン、到着したのは―――あれ?
ここホテル? それも超高そうな高層ホテルだよね。
レストランで食事かな。あれ? チェックインするんだ。
「何ここ……すごっ! エントランスからして豪華すぎる」
「正宗。私ら場違いじゃない?」
「穂香なにも言うな! 言いたいことはわかるが言うんじゃない」
「さあ、行きましょうか」
僕たちを見てクスッと笑った神楽さんにエスコートされるまま乗ったエレベーター。これ、とんでもないとこ連れていかれるんじゃね?
「ホノカ! カグラ! 凄いのだ! ほらご主人様も!」
「………」
……僕と穂香の二人は案内された部屋を見て、目と口を開けて唖然としていた。
だだっ広い部屋、豪華な調度品、パノラマの景色。
みなとみらいの街が眼下に広がる景色……これ夜になったら絶対夜景綺麗だよな。
しかもこの部屋、専任スタッフ付きだとぉぉ。
これ……この部屋スイートルームやん。
部屋の奥にはベットルームもあり、白い大きなベットが二つ鎮座している……。
二つ……。
「正宗様。お飲み物はどうされます?」
「ええと……」
そう言われてもねえ……こちとら初めての経験なので何と答えて良いのかわかりかねます。
「……コーヒーで」
すると即座にスタッフさんが用意してくれた。
これ……砂糖とミルクたっぷり入れたら怒られるかな? ……やめとこ。
僕は大人の階段を登ります。
「さあ、正宗様始めましょうか?」
「え゛……なにを……ちょっ! 神楽さん?」
「お……大きい……」
「ぼくの知ってるのと全然違うのだ。ぼくの知ってるのはこれの半分くらいの長さと太さだよ」
「はむっ――――んっ、んっ……熱い汁が口の中に……」
「ふふっ、ルー様ったら、お気持ちはわかりますけどがっつきすぎですわ」
「だって……我慢なんてできないもん。この匂いが……ぼくを誘ってくるんだもん」
「…………」
「んっ……正宗……まだぁ?」
ルーちゃんに続いて穂香も甘ったるい声を出す。
これで正解なのか? それとも……こっちか?
僕の視線の先には 3人の美少女の顔がある。
僕の出した答えはこれだ!
「正解! よくできました」
「ご主人様遅いのだ。早く食べないとなくなっちゃうのだ」
「ちくしょう! 人の目の前で美味しそうに食べやがって!」
「しょうがないのだ。カグラが全問正解するまでお預けだっていうから」
―――そう、僕は豪華なスイートルームで
ダンジョンに潜っている期間は勉強ができないからと理由で……。
そして……夕食前のテストで全問正解するまで夕食にありつけないという……とってもありがた~い課題をいただいたのです。
穂香やルーちゃんは僕のことを忘れて中華料理や肉料理に夢中になってるし。
鬼だこいつら……だがしかし! 課題を見事クリアした僕に敵はない!
さあっ! 食うぞ! フカヒレスープに鮑、エビチリ、燕の巣どんとこい!
「正宗。お食事終わりましたら、次は政治経済のお時間ですわよ」
「え゛っ!?」
「まだまだ時間はありますからがんばりましょうね」
………どうやら僕はダンジョン攻略の前に……倒さなないといけない相手がいるみたいです……勉強という名の
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