二章

第20話 両手に花①

「これは……」


 ニュースに映っていたのは、モンスターによって壊滅的打撃を受けたK国の一部の都市の姿だった。

 僕たちがダンジョンに潜っている間にできた出来事らしい。


 モンスターの氾濫、日本ではまだ起きていないが外国ではよくある話だった。

 大量破壊兵器の使用、もしくはモンスターを使ったなんらかの実験。

 理由はともかく氾濫が起きると沈静化するまで見守るしかない。

 探索者の数は多くないし、数千数万ものモンスターには到底敵わない。

 モンスターはダンジョン外では長時間活動できない。

 自然消滅まで見守る。それが一番被害を出さないで済む一番の方法だった。


 お隣のK国は大災害により壊滅的被害を受けた。

 多くの国も同様なのだが、K国は自力で復興できるほど財源に余裕がなくデフォルトを引き起こした。

 国際通貨基金(IMF)の保護下にある訳だが、まあそこはお国柄。


 大災害は天災、自分たちの責任ではない。

 他国はK国を支援して当たり前。(だから助けろ)

 日本は隣国を助けるべきだ。(助けてくれても礼は言わんけど)

 ダンジョン探索者の起源はK国。

 世界初のダンジョン攻略者のルーツはK国人。

 モンスターに対抗できる武器を開発したのもK国人。

 ―――したのはK国、K国は―――で日本を超えた。


 諸外国も呆れるK国特有のとんでも理論で世界の鼻つまみ国家になった国。

 それがK国だった。


 まあ、それはいい。問題はそこに映っているモンスター。

 その多くはグラスホッパーなのだが、よく見ると人型のモンスターの影がある。

 人型モンスター、ゴブリンやコボルト、オークといった亜人型モンスター。

 その姿は人間に近いながらも、人間と違った特徴を持つ生物であり、デミ・ヒューマンと呼ばれる存在である。

 現在確認されているのは、大型ダンジョンか一部のダンジョンのボスとしてのみ。


 そんな稀なモンスターが地上に出てきているのだ。

 詳細は不明だけど、これは由々しき事態だった。


 そして、それはK国以外でも起きていた。

 C国、R連邦、一部のヨーロッパ、アフリカ各地で同時多発的に起きていたのだ。

 どの国もダンジョン攻略後進国と噂される国々だった。

 先の 2国は真っ先に大量破壊兵器を使用した国、残るはモンスターに有効な武器を大量に用意できない国であった。


 日本やU国など、西側諸国は早期にダンジョン産の武具を開発、または輸入することでダンジョン被害を減らし資源の獲得に成功しているのだ。

 対する東側諸国は粗悪な模倣品しか作れず、被害が増えているのが現状であり、そのくせプライドは高いため嘘のダンジョン攻略報告をするなど、情報操作に力を注いでいる始末だった。



「これ、政府はどうするつもりだろう?」


「日本政府も他国に探索者を派遣するほど余裕あるわけじゃないからね。災害救助隊を派遣するにも被害が大きすぎる」


「だよねぇ……」


 一介の高校生にできることは限られている。

 それが外国ともなれば尚更だった。


「カグラぁスイーツは?」


「ああ、ごめんなさいルー様。九条すぐにお茶の用意を」


 ……ルーちゃん、キミはいつも気楽でいいね。

 桜ノ浦家を通して僕たちに召集令が掛かったのは夕方の出来事だった。



  ◇


 次の日、僕たちは神楽さんに連れられて横浜にあるダンジョン対策本部へとやってきた。

 世の中の情勢を考え政府へ協力するのはやむを得ない、と考えてはいるもののやはりこういった所に連れてこられるのは勘弁してほしい。


 豪華な応接室に通され、対策本部長や防衛大臣といったお偉いさんから改めて世界で起きているモンスターの氾濫について話を聞いた。

 ニュースで危惧された亜人型モンスターの存在は、日本政府にも衝撃を与えたようで情報収集を進めているようだった。

 そして、別世界の住人であるルーちゃんにも意見を求めたのだが……当の本人、緊張感の欠片もなく欠伸をしているのだ。大物だねキミは。

 ルーちゃんもダンジョンの発生メカニズムはわかっておらず、モンスターの倒し方やダンジョンコアについて話をしたのみだった。


 話は進み、本来は 8月に予定されていた大規模ダンジョン攻略作戦を前倒し行うので僕たちにも参加してほしいと頼まれた。

 僕たちは高校生なので一応は自由参加要請となっているが、これ断れないよね? 断るつもりもないけどさ。

 政府からの正式な依頼なので、学校としてもダンジョン自習として扱ってくれる。なんてったって勉強しなくて単位もらえるんだぜ。最高じゃないか。


 おい穂香! なんでそんな顔で見てくる? 

 このとき僕は浮かれていました。

 この後に待ち受けている世にも恐ろしい出来事のことを知らずに……。



 その後、別室に控えていた神楽さんに案内されたのは、ダンジョン対策本部と隣接するダンジョン探索協会本部だった。

 もうね、名前ややこしいわ。

 ここでもお偉いおっさんと話すのかと思うとうんざりする。


「ルーちゃん。正宗君ヤッホー!」


 この軽い挨拶……こっちに手をぶんぶん振る女性。やっぱり『みやりん』か。どうしてここに?って聞くまでもないか、ここ探索者の本部だしな。

 地方の探索者養成学校にいる方がおかしいのだから……ん? ちょっとまて、ここは探索者の集まる場所だ。すなわち他の有名探索者に会えるということだ。

 6英雄のお姉様にも会えるかもしれない。

 アイドルグループにも会えるかもしれない。

 サインとか握手してもらえるかな? 

 やべっ興奮してきた!


「正宗君? どうしたの?」


「すみません。これ病気なのでほっといていただけると助かります」


 おいっ! しれっと僕をディスるな。

 穂香……そして、なぜ腕を絡ませてくる? 

 んでもって対抗するように神楽さんまで……。


「あっはっは。相変わらず君たち仲いいね」


「実耶華その子たちは?」


 この声、まさか? 『ましろん』こと みなと 萬代ましろさん?

 日本人離れした綺麗な顔立ち、背中まで伸びた亜麻色の髪、黒いVネックカーディガンにサーモンピンクのプリーツロングスカート、このモデル級の美女はみやりんと同じ6英雄の一人で超有名人である湊さんだ。

 さっそく有名人に会えるとはラッキー!


「初めまして仙道 正宗です。まだ学生の身ですが明日からの作戦に参加させていただきますのでよろしくお願いします」


「なるほど、あなたたちが噂の高校生ね。そしてこちらがルーちゃんね」


 ましろんこと湊さんが僕たちを値踏みするように見てくる。


「ん。ぼくがルーなのだ。よろしくなのだ」


「ねえねえ、しっぽ触っていい?」


「ダメなのだ。触っていいのはご主人様だけ」


「ご主人様!?」


 ちょ! そこでその言い方は変な誤解を生むから。


「ふう~ん。正宗君は美少女二人だけじゃなく、いたいけな少女までその毒牙に掛けていると。ふう~ん……実耶華も大変ねえ」


 ほらぁぁ。さっそく変な誤解生んでるし。

 そりゃあね、両腕に可愛い女子高生の柔らかいもの押し当てられて最高ですよ。

 でもね……これ違うからね。

 片方はただの幼馴染。

 もう片方は……一応彼女に当たるけど、僕なんかには相応しくない存在。

 ルーちゃんはただの同居人。

 そこにやましい関係は一切ない! ……はず。


「こ、こらっ! 萬代!」


 一人おたおたと慌てるみやりん。

 顔真っ赤にして何してんだこの人?


 そして、僕とみやりんを見比べて口角を上げる湊さんがいた。

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