第19話 ダンジョンコア②
「ナイス!」
黒髪の少女がその美しい長い髪をなびかせ、モンスターを倒した。
僕はモンスターを倒し剣を仕舞う少女、神楽さんを称賛する。
このダンジョン、やはり出現したばかりでモンスターも超弱い。
もちろん僕たちの強さもあるが、それでも弱いものは弱い。
攻略メンバーは 4人。
僕と穂香、神楽さん。そしてサポートでルーちゃん。
戦闘するのは学生である僕たち 3人のみ。
なのだが―――それでも過剰戦力だよな……。
このダンジョンはオーソドックスは迷宮タイプダンジョン。
通路を進めばたまにモンスターと遭遇する。
僕には物足りないけど、神楽さんは少し緊張気味である。
「神楽さん、お疲れ様」
「これくらいなら。ですが、まだまだですね」
それは神楽さん自身と、僕と穂香の戦い方を見て言っているのだと理解できる。
でも、それはただ単に経験がものを言っているにすぎない。
モンスター討伐に関しては僕と穂香は、同じ一年生でも一日の長がある。
その僕たちとダンジョン初心者である神楽さんを一緒にしてはいけない。
僕たちだって最初は苦労したんだから……本当に……。
主に後ろに控えているケモミミ様によって。
「どうしたのだご主人様?」
「なんでもないです」
可愛らしく『ん?』って顔をする少女。
この少女の可愛らしい外観に騙されてはいけない。
彼女こそ現代の鬼軍曹なのだから。
新ダンジョンは、当たり前だが地図も生息するモンスターの情報も何もない。
地図はデバイスのオートマッピング機能によって作成されていくのだが、今のところ複雑な迷路にはなっておらず通路が伸びているだけである。
狭い通路の先、広い小部屋があるのだが、そこには決まってモンスターが居るのがこのダンジョンの法則のようだった。
「あれはバッタ、グラスホッパーね」
通路の先で待ち換えているのは、1mほどもある巨大なバッタ型のモンスター。
単体だとダンジョンでも最弱レベルなのだが、こいつの真の恐ろしさは群れる習性があることだった。
モンスターに限らずトノサマバッタは、ときに大量発生して農作物を被害をもたらす
集団が通りかかった地域の田畑は壊滅的な被害を受け、災害レベルの惨事を引き起こすことになるのだが、これはモンスターにも当てはまる。
数千数万もの人食巨大バッタが次々と人々を襲うのである。
ダンジョンが発生した初期ではモンスターに対抗するため、大量破壊兵器を用いた殲滅作戦が実行されたが結果は失敗。通常兵器ではモンスターにダメージを与えられずモンスターを怒らせ結果、モンスターの氾濫を招いた。
外国では、このモンスター(グラスホッパー)によって都市がいくつも壊滅したことはよく知られた話なのである。
「5体ね。私と正宗が 2体ずつ、残り 1体神楽ちゃんお願い」
「はい、わかりました」
モンスターの氾濫はともかく、今目の前にいるのは 5体のみ。
穂香が手前の巨大バッタに目をつけ勢いよく走り出し、それに続く神楽さん。
結局、出遅れた僕が倒したのは 1体のみ。
神楽さんが勢いのまま 2体倒したからにほかならない。
「やりましたわ」
一撃で巨大バッタを頬むった神楽さんは、嬉しそうに微笑む。
その背後に紫色の体液を吐き、絶命した巨大バッタがなければとても可愛らしいのですけどね……全身戦闘用のボディスーツに身を包み日本刀を振るう彼女は、清楚なお嬢様から立派な戦う乙女に変貌していた。
グラスホッパーを倒し、先へと進むと下へと続く階段があった。
やはりこのダンジョンは複数の階層があるようだった。
石造りの階段を下りると通路が伸びており、その先にあった物は重厚な大扉。
明らかに他の扉とは装飾が違うその扉は、ここがダンジョンの最重要目的地を示していることがわかった。
「ルーちゃん、ここがそうだよね?」
「ん。この先にダンジョンコアがある。でも、ダンジョンコアを守護するガーディアンが出るから注意するのだ」
「要するにボス部屋ってわけだ。まあ、小さなダンジョンだし、どの程度のボスモンスターが出るのか楽しみだな」
「そうね。じゃあ、さくっと攻略するわよ!」
「おう!」「はい!」
その言葉とともに、巨大な二枚扉が押し開けられた。
広い! 目の前に広がる大ホールを見て僕はそう思った。
八角形の大ホール。ここがボス部屋か……対角線上に豪華な扉が見える。
きっとボスを倒すことで開錠されるタイプの扉だろうと予想される。
「来るよ!」
ルーちゃんの声をともに、部屋の中心部の空間が歪む。
そして、現れたのは 2mはあろうと思われる巨大な黒いサソリ型モンスター。
「ジャイアントスコーピオンね。注意すべきは、やっぱり尻尾の毒針ね。あとは大きなハサミ。動きは遅いから私たちなら落ち着いて対処すれば問題ない相手よ」
穂香解説ありがとう。
とはいえ、初めてのボス戦緊張するな。
硬そうな黒光りする外殻、存在感のある大きな尻尾とその先端の毒針。そして大きなハサミ……これ、捕まったらヤバくね?
「行くよ! やあぁぁぁぁ!」
「あっ! おい穂香! もっと慎重に―――って………あれ?」
「ごめん、倒しちゃった。てへっ」
そこには大サソリを切り刻んだ幼馴染がいて、振り向きざまてへっと笑ってペロっと可愛く舌を出しやがった。
「てへっ、じゃねえよ! 僕の緊張と期待感を返せ!」
「いやあ、ごめんごめん。私もまさかここまで弱いとは思わなんだから」
「わたくしの出番もありませんでしたね」
「神楽ちゃん、ほんとにごめんって。もう謝るからさ許して」
「ふふっ冗談です。小規模ダンジョンですものガーディアンも弱くて当然ですわ。それよりもこの先にダンジョンコアが」
神楽さんの視線の先にあるのは豪華な扉だった。
僕たちは意を決して、その扉を開け放った。
小さな小部屋、その中心部には台座と空中に浮かぶ六角柱状の
「綺麗…これがダンジョンコア?」
「うん。そうだよ。ダンジョンの中核、このコアがある限りこのダンジョンは存在し続けることができるのだ。逆にいうとこのコアを破壊すると、このダンジョンは存在できなくなり消滅する」
「破壊するの? 持ち帰るんじゃなくて?」
「ん。コアは貴重な魔結晶だからね。資源としても貴重だけど、その真の価値はコアを破壊したときに得られるパワーなんだ」
「パワー?」
「ん。新たな力が目覚めたり、すでに持っている力がパワーアップするのだ」
「へえ~ 凄いんだ」
「じゃあ、今現在各地にある攻略済みダンジョンは全部コアを破壊せずに持ち帰られたものなの?」
「そうなるね」
「神秘的で綺麗だし、研究目的に全部持ち帰ったんだな」
「あはははは……こんなの誰も壊そうとは思わないもんね」
今さらっとダンジョンの秘密の一つが明らかになったよね?
「でも、これを壊すとダンジョンは消滅するんでしょ?……私たちはそのダンジョンの中にいるのよね? 壊しても大丈夫なの? 外で壊すの?」
「ん。良い質問なのだ。力を得るにはコアとこの台座が必要なのだ。だから台座から外すと効力を得られなくなる。そして、ダンジョンは消滅すると言ってもすぐに消える訳じゃない。ゆっくりと消えていくから脱出する時間は心配しなくていいのだ」
「なるほど。じゃあ今回は破壊するとして、これ壊すときはどうやるの?」
「普通にその刀で斬るといいのだ」
「あっそう」
ここで問題になったのが誰が破壊するのかということ。
世界中に攻略済みダンジョンは多々あれど、真の攻略はこれが初となる……はず。
歴史に残るのかどうかはわからないけど、その可能性がある限り迂闊なことはやりたくない。
――って、どうして皆僕を見てくるの? まさか僕に破壊しろとでも?
「ご主人様、恩恵は皆に平等に行くから心配しないでサクッといくのだ!」
ルーちゃん……僕が心配してるのそこじゃないから。
ええいっ! 考えてても仕方がない。 男は度胸だ!
僕は意を決して刀を振り下ろした。
蒼白い光を放っていた水晶は、真っ二つに割れると同時に部屋中に衝撃が走り、ダンジョンの悲鳴のような叫びが聞こえてきた。
そして僕たちの体は薄い光に包まれた。
「これがダンジョン攻略……なんか凄いね」
「うん」
僕たち 3人は自分たちの変化に戸惑っていた。
それは些細なものなのかもしれない……だが確実に力になっているのだ。
「ん。じゃあ帰ろっか。おやつの時間なのだ」
「ふふっ、ルー様ったら。美味しいスイーツご用意してありますよ」
「わーい。カグラすぐ帰るのだ。ほらほら、ご主人様も」
無邪気に笑うケモミミ少女。
帰り路は何というか……邪気の抜けたダンジョンはモンスターも出現しないただの通路と化していた。
時間的には往復で 2時間半、まあこんなもんかな。
そして、僕たちがダンジョンから出るとその入り口は消えて無くなった。
なるほどこうなるんだ。
「お嬢様! ご無事で何よりですと言いたいのですが、大変なことが起きています」
ダンジョン攻略を済ませた僕たちを待っていたのは、桜ノ浦家に仕える使用人さんである九条さん。
「どうしたのですか? そんなに慌てて」
「説明いたしのますので、まずはこのニュースをご覧ください」
空中に映し出されるニュース。
それは、モンスターによって壊滅した都市の姿だった。
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