第18話 ダンジョンコア①
お気に入りの場所であるリビングのソファーに寝転がり、お気に入りのオンラインゲームを楽しむ。ああ、なんて至福のひとときなんだろうか。
パリパリと音がするのはソファーの下、カーペットの上で同じく寝転がったケモミミ少女が魚味のスナック菓子を食べているからだ。
「あんたたちねぇ、土曜日とはいえだらけすぎじゃない? ルーちゃんも食べかすこんなに落として、もうしょうがないわね」
真面目なことを言っているのは、隣に住む幼馴染。
幼馴染の少女は文句を言いながらも掃除機をかける。
「ほらほら、ソファーも掃除機かけるからそこどきなさい」
「ん~」
生返事をする僕を押しのけるように掃除機のノズルの先を当てていく。
「もう邪魔よ! いい加減にしなさい」
あっ、僕のデバイスの空間モニターが押しのけられた拍子で少女の方へと向く。
「ちょ! 何よこれ!?」
「何ってゲームだよ」
「それはわかるけど……その……」
少女はあっという間に、顔から耳まで真っ赤にして酷く動揺している。
くっくっく。僕はしてやったりとばかりに笑みをこぼす。
―――そう、僕が今プレイしていたのは、ゲームはゲームでもちょっと肌色成分が多いゲーム。そして幼馴染の少女が見たのは、その中でもご褒美シーン。
「あれ~ 穂香どうした? 顔赤いぞ―――って、何すんだよ!」
「うるさい! 掃除よ掃除! 汚物は綺麗にしないとね」
顔を真っ赤にした幼馴染の少女は、掃除機のノズルを僕の頬にグリグリと押し付けてくる。
「痛い痛い! ごめん、ごめんて」
「汚物が何を言ってるの?」
ルーちゃん助けて! って、いつの間にか消えてる。
そんなとき、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。
「ほら、穂香お客さんだよ」
「あのねえ、ここは私の家じゃないんだけど。まあいいわ」
なんだかんだで家を支配しているのは幼馴染である。
でもこの時間に誰だろ? 迎えにしては早いし、通販は最近してないよな、う~んわからん。
「あ~も~ 勘弁してほしいわ」
「どうしたの?」
「聞いてよ! 宗教の勧誘だったの! もうしつこくてしつこくて」
「はっはっは、それは災難だったね」
なんだ。ただの宗教の勧誘か。大災害にダンジョン関連、人々の暮らしを一変させた出来事は多くの新興宗教を生むきっかけになった。
災害により家や家族、友人を亡くした。事業が失敗した。仕事が全然上手くいかなくなった。日々の生活が不安な人々が『何かにすがりたい』と思う心に付け入るように増殖しているのだ。
決して宗教が悪いだとかそういうのではないのだが、そのほとんどが胡散臭いものや反社会的勢力と呼ばれる団体と結びついている噂があるものばかりだった。
「ご主人様! 野良モンスター狩った」
穂香と喋っていると、ルーちゃんが庭で何かを見つけたようだ。
いつの間に庭に? てか、野良モンスターってなに?
「なんだドローンか。でもこれ、違法ドローンだな」
ルーちゃんの狩った野良モンスターとは自立稼働型ドローンだった。
何も知らないルーちゃんにとってはドローンもモンスター扱いなのね。
そしてこのドローンは、政府によって認可されたものではない。
なので壊しても問題なし! 弁償とかしたくないし。
「ん~ 家の周りを飛んでた。ご主人様、これ狩っちゃダメな奴だった?」
「これはいいけど、他のは注意してくれるといいかな。モンスターじゃないし、壊すと怒られたりするから次見つけたら教えてくれると嬉しいな」
「わかった。ご主人様アレはどうする?」
「ん? 何か見つけたの?」
「あれあれ。お家のすっと上!」
ん? んんん? 確かに何か飛んでるな……肉眼では判別できないけど怪しいな。
「ルーちゃん、あれ狩れる?」
「いいの? じゃあ狩るのだ。とうっ!」
ルーちゃんが忍者が使うような苦無を取り出し、上空に投げると見事に命中した。
嘘でしょ? どんだけ規格外なのこの子……って、あれどこに落ちるの? 落下地点は? やばっ!
「ルーちゃん。あれキャッチできる? てかキャッチして!」
「まかせるのだ!」
ケモミミ少女が目の前から消えるように、庭から屋根へとジャンプして落下してくる謎のドローンをキャッチした。
◇
「なるほど、事情は分かりました。これは当家の方で調べておきましょう」
「おねがいします」
謎のドローンは家へとやってきた神楽さんへと渡した。
十中八九監視用ドローンだろうとのこと。それが企業なのか国なのか、はたまた個人なのか不明だが監視されて気分のいいものではない。
「他にも盗聴器が仕掛けられていないかお調べします。後はそうですね。セキュリティシステムもご用意しましょう」
「色々迷惑掛けてごめんね」
「いえいえ、これくらい問題ありません。むしろ予想された出来事でしたので対応の不備をお詫びします。今後は当家で責任をもって警備させていただきます」
「いやいやそこまでしなくても」
「何をおしゃっているのですか? 現に不審なドローンも見つかりました。ルー様をどうこうできる者はそうはいないでしょうが、その行動の監視や秘密を暴こうとする者は多くいるはずですし、あの手この手で接触を図ろうとしてくるでしょう。場合によっては強硬手段を用いるような輩もいますから、正宗様も穂香さんもご注意くださいませ」
関連があるかどうかは不明だけど、家を訪ねてきた宗教団体も怪しいとのこと……もうね。疑いだしたら全部怪しく思えてキリがなくなってくる。
とりあえず仙道家と岩村家は、桜ノ浦家の関連グループが警護に当たってくれるらしい。
なんか釈然としないけど……まあいいか。
「それはそうとして、そろそろ参りましょうか」
土曜日にわざわざ神楽さんが迎えに来た理由。
それは―――ダンジョン攻略である。
先の岳並神社の襲撃事件以降ダンジョン探索は行っていない。
神楽さんも魔力操作のやり方を覚え、後は実戦の経験を積むだけ。
僕たちは来月、8月に行われる大規模ダンジョン攻略戦に呼ばれているため、そのウオーミングアップを兼ねて。
神楽さんはまだ初心者であるため、まずは手頃なダンジョン攻略を。
双方の利害が一致したところで選ばれたのが、二日前に発見されたという新ダンジョン。
ダンジョンというのは、まるで生き物のように進化していくらしく、出現当初は低階層のみだが時間の経過? とともに階層が増えていくらしい。
これが厄介なところで、初期に出現したダンジョンはもう何回層あるのかすらわからない魔窟と化しているという。
今回のように出現したばかりのダンジョンは、内部こそ不明だが低階層 & 低レベルモンスターばかりのはずなので、そこそこ腕の立つ探索者なら問題なく攻略できるはずである。
そのダンジョンは山間の道路脇にあった。
一般人が立ち入らないようにとフェンスが施されているのですぐにわかった。
リムジンから降りた僕たちは、随伴車両であるワンボックスカーにて着替えることにした。
「あちいぃぃぃ……」
女子が着替えている間、僕は外で待機なのだが暑い、暑すぎる。
もう何もしてなくても次から次へと汗が垂れてくる。
ダンジョン内は通常一定の気温に保たれているので早く入りたいものである。
―――ピコン。
デバイスにメッセージが届いた。
差出人は神楽さん。
なんで車内で着替えている神楽さんからメッセージが?
そう思いつつメッセージを開く。
生着替え中と題された際どい自撮り写真が……。
ボディスーツに袖を通しつつ、開いた胸元から覗かせる双丘を腕で隠しているのだった。
おいコラ! そんなもん今送ってくんなよ。
僕にどうしろと? どう反応すればいいんだよ。
まったく、そんな写真送ってこずに早く着替えてください。
―――ピコン。
またメッセージだ。
今度は穂香……もうね。嫌な予感しかしないんですけど。
「お前らいい加減にしろよぉぉぉぉぉぉ!」
メッセージを開いた瞬間、山間に僕の叫びが木霊した。
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