第9話 特殊能力と実践練習④

「あなたたちのお手並み拝見しようかしら」

「私たちが 1体受け持つから、そっちよろしく!」


「だってさ。じゃ穂香よろしく」

「ホノカ、ファイトなのだ!」


 リポップしたメタルスパイダーに対峙するのは穂香一人。

 僕とルーちゃんは高みの見物である。


「はあ? あなたたち何ふざけてるのよ? 真面目にやって―――って、ええぇぇぇぇぇぇ!」


 お姉さんたちが武器も構えないでいる僕たちに文句を言ったそばから、穂香がメタルスパイダーの 1体を一刀のもと斬り伏せた。

 まあ順当の結果だね。穂香はもとより剣の腕は僕より上だ。コツさえ掴めば結果は目に見えている。


「……うそぉぉぉぉ!」


 目を丸くするお姉さんたち。

 そのお姉さんたちはやっぱり苦戦していた。

 まあ、これが普通だよな……。


「あの、こっちも手伝ってくれたら嬉しいな」


「いいの?」


「ええ、お願い」


「じゃあ、遠慮なく―――――っと」


 僕が鞘に手を掛けた刹那、メタルスパイダーがその活動を停止した。


「「はえっ???」」


 抜き放った刀身を鞘に納める。

 僕の特殊能力スキルをフルに使った抜刀術。

 できるかな? と思って試したが、フッ決まったぜ! 


「何が ‟フッ”よ。カッコつけてんじゃないわよ。どうせ年上のお姉さんにいいとこ見せようとしたんでしょ」


 くっ! 見抜かれてる……いいじゃないか少しくらい。


「ご主人様はそんなことしなくてもカッコいいのだ」


「なになに? ご主人様? あなたたちってどういう関係? それに何今の?」

「凄いじゃない。あなたたちホントに新人?」

「そこの彼氏さん、今の居合術だよね。どこの流派?」

「そっちの彼女も一撃だったよね。凄いねあんたたち」


 女子が集まると何とやら……僕たちはお姉さんに囲まれてしまった。

 

「顔赤くしてかっわいぃぃぃっ」

「ねえ、その刀見せて見せて」

「銀髪ちゃんも可愛いわね」

「う~ん、どう見ても普通の刀よね? どうやったらあんなにスパッといけるの?」

「あなたたちの特殊能力? 教えてくれたらいいことしてあげるわよ」

「きゃ~ 絢香ったら、いいことって何するの」


 僕はお姉さんたちに詰め寄られタジタジになってしまう。


「こらっ! 正宗デレデレしない!」


「ほら~ 綾香が揶揄うから彼女が焼餅焼いちゃったじゃない」


「か、彼女!? 違います! 正宗とはそんなんじゃ……」


「あら? 違うの? でも~ まんざらじゃないんじゃないかしら?」

「お似合いよ。あなたたち」


 穂香と僕が? なにいってんのこの人たち? 幼馴染だぞ僕たちは。仲良くてもそこに恋愛感情はないぞ。


「お似合い……私と……正宗が……」


 こらっ! 穂香そんなの間に受けてんじゃない。そんなのリップサービスだぞ。

 ……あれ? 穂香ってこんな顔してたっけ?  

 赤く染まった頬、そんな穂香の顔を見て自分の体が少し熱くなるのを感じた。

 なんだこれ?


 

  ◇


「本当にこれ二つとももらっていいの?」


「いいよぉ。倒したのキミらだし、あーしら何もしてなかったから」

「その代わりといっちゃなんだけど、この先に行くんでしょ。私らも一緒に行っていい? 戦う姿見たいんだ」

「そうそう。見て勉強しなくちゃね」


「そういうことならありがたく頂戴します」


 ルーちゃんの秘密はぼかしつつ、魔力について簡単な説明をして通路を進む。

 道中でもモンスターと遭遇してこれも撃破。


 そしてやってきたのはダンジョン最奥の広間。


「ここが決闘の間、通称ボス部屋だよ。もう攻略済みだからボスは出ないけどさ」


 先人たちによってこのダンジョンは攻略された。

 複数のパーティーが協力してそのボスに挑んだとか。

 まともなダメージを与えれず、戦闘は長期戦になり、激闘の末に倒した。

 その甲斐あって今では探索者たちの腕試しの場になっている。


「ここがダンジョンコアの在った場所、その台座にデバイスをかざして見てごらん」


 お姉さんに説明されるまま、台座に左腕に装着されたデバイスをかざして見る。

 電子音が鳴った。台座の情報をデバイスが読み込みんだようだ。


 デバイスを操作すると、このダンジョンの最深部到達記録が明記されていた。

 この記録を集めることで探索者のランクが上がり、高難度ダンジョンや未開放ダンジョンへの挑戦権が得られる。


「色々教えていただいてありがとうございます」


「どういたしまして。じゃっもどろっか」


 帰り道も僕と穂香は順調に敵を倒していった。

 共にメタル系なら苦戦もせず一刀両断できるほどになっていた。

 第二層で2回戦闘し、第一層では僕がメタルアーミーの両手を斬り落とし、達磨になったところをお姉さんたちが止めを刺した。


 それ以降はモンスターに遭遇せず入り口にたどり着いた。


 ダンジョン外の素材の買取センターで戦利品の鉱石を換金したところ―――なんと……全部で約 160万 ……マジですか? 一桁間違ってません?

 ダンジョンに入って約二時間。時給に換算すると 3人だから……えっと、一人当たり約 26.6万? なにこれ? バグですか?


 ルーちゃんは当たり前だが口座を持っておらずデバイスもない。

 だから今回は穂香と僕で等分したのだが……穂香がデバイスに表示された金額を見てフリーズした。

 お~い穂香、帰ってこーい。


 

 そして、軍資金を得てやってきたのは複合店にあるファッションコーナー。

 なぜか未だに一緒にいるお姉さんたち………。


 あーだこーだとルーちゃんを着せ替え人形のようにして楽しんでいる。

 場所を変え、店を変え、取っ替え引っ替え。

 あまつさえ下着専門ショップ。

 ―――その間、僕は男一人。壁のしみになっています。

 さすがにあの輪には入れません。……もう店の外にいるだけで顔から火が出るほど恥ずかしいです。


「ごめんね。正宗待った?」


 待ったとか言える時間じゃない! ダンジョンに潜った時間より長い 3時間半。

「長げえよ」―――なんて言えるはずもなく笑顔で「全然」と答えた。


 その場で買った衣類の紙袋を手に持ち、やってきたのはフードエリア。

 親に連絡して外食して帰ることにしたのである。


 そこでも穂香たちの女子会トークがさく裂し……非常に疲れました。




 

 翌日も他のダンジョンへと潜り僕たちは地道に力をつけていった。

 

 そして、今では探索者のランクもDランクへと上がったし、魔力操作の練習により様々な特殊能力スキルを使えるようになった。



  ◇

 

「それが僕たちの強さの秘密さ。黙ってて悪かったね」


 救出したクラスメートを伴って通路を進む。


「その話というか噂、聞いたことがある。最近この辺りにメッチャ強い学生 3人組の探索者がいるって」

「私も聞いたわ。硬いことで有名なメタルアーミーを真っ二つにする男女」

「それに平日の昼間に現れる謎の美少女。ソロでダンジョンに潜り、風が通り抜けるようにモンスターを狩っていくコスプレ少女」


「それら……みんなお前らだったのかよ」

「噂は本当だったのね」


「委員長はともかく、仙道君は意外よね……とてもそうは思えないもん」

「あははは……いっつも委員長の尻に敷かれてるもんね」


 ほっとけ! どうせ僕はクラスでも目立たない存在ですよ。


「お前ら無事だったのか」


 引率の先生が現れたのはそんなときだった。

 意外と早いな。

 あの謎の変態さんたちに襲われた件、どう報告すればいいんだろう。

 普通に考えたら警察案件だよね?

 モンスターを使役してたし、いったい何者なんだろう?

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