第10話 桜ノ浦家①
桜ノ浦さんたちの証言により、今回の3人の変態探索者による襲撃は被害届が提出された。
だが、場所がダンジョンということもあり現場検証が容易ではない。
ダンジョン入り口にいた先生の話では該当者なし。
どこかに潜伏している可能性もあるが警察では捜査不可能。
せいぜい入り口を張り込むだけ。
名門桜ノ浦家のお嬢様の誘拐未遂、障害罪の線で指名手配となるのだが探索者リストには該当なし。
不法入国した外国籍のモグリ探索者、もしくはスパイ。
とにかくデータベースに該当者がいない。
まあ、家にも一人いるのだが……どうしよう。
「そのことについてお話よろしいでしょうか」
事情聴取を受ける僕に話しかけてきたのは、高嶺の花である桜ノ浦家のお嬢様。
お淑やかで上品「お嬢様・お姫様」なんて言葉がよく似合う女の子。
そのお嬢様が僕に話とは何だろう。
助けたお礼なら別にいいのに……それとも先生に怒られた責任をとれとか、余計なことをしたせいで名門である桜ノ浦家の家名に泥を塗ったとか。
そうだ、そうに違いない。
「改めまして、助けていただきありがとうございます」
「お礼ならいいよ。クラスメイトを助けるのは当たり前だし」
マジでお礼とか良いからね。あまり目立ちたくないし。
「いえ、そういうわけにはまいりません。ですので……」
そらきたぞ。あーだこーだと難癖付けてくる気だ。
「わたくしに…付き合って…いただけませんか…?」
ん? 今なんつった? 私と付き合う? 誰と誰が?
「は? ごめん……よく聞こえなかった」
「わたくしに付き合っていただけませんか、と申し上げたのです」
「はあぁぁぁぁ!? 付き合ううぅぅぅ……っ‼」
僕は驚いて大声を出してしまった。
マジですか? 僕は人生初の告白に戸惑っています。
心臓が破裂しそうなくらい早鐘を叩いています。
こ、こ、こ、これは神様からのご褒美ですか? そうですよね?
「こ、こんな僕でよければ、よ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
笑顔で微笑む桜ノ浦家のお嬢様。
これは僕にも人生の春が来たのか。
キューピットが舞い降り、祝福してくれるのか。
ああ、バラ色の人生が僕を待ち受けているのか。
「では、行きましょうか穂香ちゃん」
「へっ!?」
何でそこで穂香が出てくるの?
まさか……そういう趣味が……。
お嬢様はそういうのが趣味なのか……いや、それもありか。
僕は寛大な男だ! すべてを受け入れようじゃないか。
待ち構えていたのは白のリムジン。
桜ノ浦さんが送迎に使っている高級車だ。
うっわ長っ! まさかこの車に僕が乗る日がこようとはな。
内装もすっごいゴージャス! ゆったりとくつろげる広い空間、ふっかふかのカーペットに沈み込むようなソファーシート。なにこの至福の世界……。
あれ? この車、高速に乗るの? どこ行くんだろう?
はっ! まさか……このまま桜ノ浦家の本邸に案内されるとか?
そこでは威厳あるお爺様とか、ご当主様が待ち構えているのか……ちょっとそれはご勘弁してほしいのだが。
「あの……どこに向かってるんですか?」
「ふふっ、もうすぐ着きますよ」
そうですか。もう覚悟はできています。
煮るなり焼くなりどうにでもしてください。
リムジンは厳重に警備された門をくぐり、建物の中に入っていった。
「お嬢様、お待ちしておりました」
リムジンのドアを開け出迎えてくれたのは、燕尾服を身に纏った執事さん。
――ではなく、白衣を着た研究員。
あれ? あれ? あれ?
「桜ノ浦さん、ここは?」
「はい。ここはダンジョン関連の研究している施設。我が桜ノ浦家と華欧院グループが共同研究している総合研究所ですわ」
ですよね~ おかしいと思いました。
「やあ、初めまして。自分はこの研究所の所長をしております、酒井と申します。どうぞお見知りおきを」
「どうも初めまして、仙道 正宗です」
「お話は伺っております。どうぞこちらへ」
所長さんだというオジさんに案内されたのは立派な応接室。
その所長さんに席を勧められ着席する。
席に着くなり、これまた白衣を着た女性研究員さんがお茶を差し出してくる。
そして、僕たちとは別のテーブルに数人の研究員が着席し、ディスプレイも複数用意された。ディスプレイに映し出されたのは他の研究員だと思われる人物。
うわ~ メッチャ帰りたい。今すぐ帰りたい。
わかってたはずの穂香まで顔が真っ青になっている。
きっと僕も同様だろう。
「皆様、突然の召集で恐縮ですが――――――」
所長さんの挨拶から始まり、桜ノ浦さんがことの経緯を説明した。
そして、僕と穂香は魔力と
複数のオジさんやオバさんから疑問をぶつけられるが、説明できることとできないことがある。
特に感覚的なことはどうやっても説明できない。
ここにいる全員、魔力の使えない大災害前に生まれた研究員。
魔力を‟う~んと練って手から、ぱっと放出する” と説明して誰が理解できる?
実際に水を作り出すなど実演して理解してもらうしかない。
特殊能力の仕組みと正体。その元になる魔力の存在の解明。
魔力の素質のある者ならば訓練することで特殊能力を使えるようになる。
そして、その能力の伸ばし方が明らかになったのである。
もちろん、まだ仮説の段階だがこれからサンプルを取り、仮説が正しかったことが実証されるだろう。
そうすればダンジョン探索は加速していくはずである。
――――たぶん。
だって、モルモットになる気はさらさらない。
もちろん情報提供はするし、できることは協力するつもりだ。
でも、人体実験のようなものになる気はない。
特にルーちゃんの存在は秘匿しないといけない。
別世界の人間、ケモミミ少女などいたら、何されるかわかったもんじゃない。
血液検査、X線検査くらいで済めばいいが、頭のイカレタ研究者たちにより解剖実験や標本にされかねないからである。
まあ、今現在ルーちゃんをどうこうできる人間は世界中探してもいないだろう。
たとえ軍隊相手でもルーちゃんには通用しない。
むろん僕や穂香でもだ。
それほどの実力者がルーちゃんなのだ。
―――なのだが、僕は今窮地に追い込まれている。
それはなぜかって?
デスプレイ越しに話している人物に問題があったからである。
その人物とは―――。
桜ノ浦コンツェルンの会長である人物。
画面越しとはいえクラスメイトの女子の父親。
政財界にも人脈のある大物人物……そのお話とは―――。
娘を助けてくれた礼から始まり、娘の護衛を兼ねた師範役を務めてほしい。
その報酬としてではないが、結婚を前提としたお付き合いを許可するというもの。
そして、どこから情報がもれたのか知らないがルーちゃんの身の安全の保障。
これが……僕が窮地に追い込まれた理由である。
ちょっと色々とヤバくね? これ?
護衛と師範役は問題ない。
ルーちゃんの件は、どの程度情報が洩れているのか現時点では判別できない。
そして、最大の懸念。これは当事者である神楽さんはどう思っているのだろう?
「あの時の仙道君……とても男らしく……頼りになるなぁ…って」
顔を真っ赤にした神楽さんが、消え入りそうなか細い声でそう告げる。
「わたくしなんかじゃ……だ、駄目……ですか……?」
神楽さんの上目遣いの言葉に僕は思考停止に陥る。
「仙道……君?」
神楽さんの可愛い声で、ハッと我に返る。
「僕なんかで良ければ……」
―――と、勢いのまま返事をしてしまう。
その言葉に少し怯えた様子だった神楽さんは「はい」と微笑み、ホッと胸を撫で下ろす。
なにこの可愛い表情。ヤバい。心臓がバクバクする。
「そ、それじゃあ不束者ですが、その…よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ……よろしくお願いします」
こうして、僕たちは付き合うことになった。
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