第8話 特殊能力と実践練習③

「うりゃあぁぁぁ!」


 助走をつけ勢いに任せた渾身の一撃。

 

 だが、激しい金属音とともに僕の一撃は弾かれてしまった。

 手に衝撃が走る。もう、鉄の柱を攻撃しているようなものだ……こんなの本当に倒せるの?


「ご主人様、ぼくが何て言ったか覚えてる?」


「魔力を剣先まで通す?」


「正解! んじゃやってみよっか」


 軽いノリでそう言うルーちゃん。んなこといってもね……。

 メタルアーミーの目が怪しく光る。

 機械生命体、ゴーレムみたいなモンスターは僕を見てどう思っているのだろうか?

 ダンジョンに侵入した外敵、それとも獲物?

 傷も与えられない雑魚と思っているかもしれない。

 くそう! 舐めやがってスクラップにしてやる!


 穂香が注意を引きつけている今がチャンスだ。

 僕は魔力操作の練習(全裸の精霊)を思い出し刀を上段に構える。


 少しでも攻撃が通じればそれでいい―――そう思い振り下ろされた一撃。


 あまりに手ごたえのない感触が手に伝わってくる。


「「えっ!?」」


 僕と穂香は予想外の出来事に、思わず変な声を上げてしまう。

 僕の放った一撃はメタルアーミーのボディをスパッと切り裂いていた。


 ルーちゃんは親指を立ててサムズアップする。

  日本では一般にグッドサインと呼ばれるジェスチャー、国によっては屈辱やわいせつな表現になるのに別世界でもそのハンドサインあるんだ。


 想像していたのとあまりにかけ離れた出来事で立ち止まったが、それでもメタルアーミーは僕に向かってそのハンマーのような腕を振ってくる。

 僕はその攻撃を冷静に躱しながら刀を横一線に振るう。


 案山子のようなその胴体は下半身とオサラバすることになった。


 マジですか? 目の前で粒子となって消えていくメタルアーミーを呆然と眺める。


「正宗凄いじゃん!」


 呆然とする僕に穂香が勢い良く抱き付いてくる。


「ちょっおまっ!」


 その勢いによろけるが何とか受け止める。

 柔らかいものが押し付けらてるんですけど……穂香さん状況わかってる?

 初戦闘、初勝利でテンション上がってるのは理解できる。

 だが、幼馴染とはいえ女の子が男に抱きつくとかこいつマジか? ……嬉しいけど、どうしていいのかわからない僕はルーちゃんに助けを求めるように顔を向けると―――ルーちゃんは微笑んだ。


「だから、ご主人様なら一撃って言った」


 さも当然といったドヤ顔するケモミミ娘。

 この状況ではちょっとイラっとする。


「次はホノカの番。ご主人様は手を出しちゃダメ」


「え"っ!?」


 あっ穂香がフリーズした。

 さすが鬼教官。



「これがドロップ品?」


 青い結晶系の集合体である岩石を拾う。

 キラキラした塊……これが高値で取引されるのか。


「お~い穂香置いてくぞ~ 穂香?」


 未だに天を仰ぐ穂香、こいつのこんな姿なんて滅多に見られない。

 面白いから写真撮っととこ。

 デバイスを操作してパシャリ。もう一つおまけにパシャリ。


 くっくっく。この間抜け顔どうしてくれよう。

 脳裏に邪なことが思い浮かんでくる。


「正宗? 変な顔してどうしたの?」


 やべっ! 仕返しプラン考えてたらいつの間にか穂香が再起動してた。


「ご主人様、ホノカのシャシンってやつ撮―――」

 

 僕は慌ててルーちゃんの口を塞ぐ。


「ふう~ん……正宗、盗撮は良くないと思うの」


 ヤバっ! いつもこれで怒られるやつだ……。


「ル、ルーちゃん次、次行こっ!」


 怒られる前に穂香を死地へといざなってやる!


「あっ! こらっ! 正宗待ちなさい!」


 僕は逃げるようにその場を離れた。

 そして、向かった先には―――大きな蜘蛛型のモンスターがいた。


 メタルスパイダー:体長はだいたい40m~50cm、脚を含めると約 2m程になる巨大蜘蛛、こいつもまた硬そうな金属生命体である。


「これを……私一人で?」


 穂香が泣きそうな顔で訴えてくる。


「しょうがない。助けてやるか」


「正宗ありがとう」


 とは言ったものの……どうすればいいのやら。

 注意すべきは鋭い爪のような 2本の前脚と顎の牙。 


 弱点はやっぱり足だよな。表面には硬そうな装甲が付いてるが内側、特に関節部分は案外諸そう。


「穂香! 足の内側を狙うんだ」


「う、うん」


 やっぱり怖いよな。

 僕だってこれが生身の蜘蛛だったらと思うとゾッとする。

 

「穂香、僕が注意を引くから側面から攻撃して」


「ええ」


 まずは注意を引くためにもひと当てしなくちゃな。

 でもやりすぎちゃ駄目だし難しそうだ。


 集中……魔力を剣先まで流し込む感じ。

 タイミングを見計らい……よしっ! 今!

 振り下ろした刀が前脚の一本を斬り落とした。

 メタルアーミーより細い分斬りやすいな。


 蜘蛛の目が赤く光る。

 ギチギチと顎の牙を鳴らし僕をロックオンしたようだ。

 お~ 怒ってる怒ってる。

 まあ丁度いい。


 金属音が鳴り響く。

 穂香の打ち込みは空しくも弾かれてしまったようだ。

 

「ホノカそれじゃダメ! 集中」


「わかってるわよ!」


 穂香の斬撃は続くが全然ダメージが通っていない。

 倒すのは穂香だ。その間、僕は蜘蛛の攻撃を躱し続けるだけの簡単な役目。

 

 ―――って、厳しいんですけど……穂香さん。


「ええいうっとおしい」

 

 攻撃を躱し続けてフラストレーションが溜まっていました。

 爪を躱したオマケで蜘蛛の顔を蹴りを入れました。

 そしたら……なんと段ボールが凹むように装甲が凹みました。

 それだけでなく頭を潰された蜘蛛は地面にめり込みました。

 うそん。


「………はっ! 穂香! チャンスだ」


 僕はその出来事を誤魔化すように穂香の名を叫ぶ。

 それを見て穂香の顔つきが変わった。

 さっきまでの慌てた様子はなく凛とした落ち着いた顔つき。


 深呼吸をし刀を構える。「はぁ!」掛け声とともに刀が煌めく。

 穂香の放った一撃はメタルスパイダーを一刀両断した。


「お見事!」


「できた! 私にもできた! 正宗できたよ」


「うんうん。やったね」


「ホノカも落ち着けばできるんだから。次こそ一人で頑張ろう」


「ルーちゃん厳しい」


 僕たち 3人は笑い合った。


 ルーちゃんの話で僕の蹴りの正体が判明した。

 どうやら僕は無意識に身体強化を使っていたらしい。

 魔力操作の練習の副産物だね。

 練習すればもっと色々とできるようになるとのことなので要練習だ。



 それから僕たちはダンジョン第二層へと下りていった。

 穂香も僕もメタル系のモンスターなら倒せるようになったから問題はないはず。


「こんにちは」


 僕たちは途中で遭遇した探索者のパーティーと挨拶を交わした。


「ああ、こんにちは」

「あなたたち 3人だけ? 見ない顔だけど新人さんかしら」

「この階層、上と違って複数の敵や素早いの出るわよ。悪いこと言わないから引き返しなさい」


 お姉さんたちはDランクダンジョンの下層に新人 3人組が迷い込んだと思っているみたいだ。まあ、新人なのは間違いないですけど、メタル系のモンスターを一刀両断できる探索者は日本中探してもそうは多くないはず。


「大丈夫ですよ。ほら、僕たち道中にモンスター倒してきたし」


 僕が見せたのは 20cmクラスの鉱石。しかも二つ。


「うそぉ」

「あなたたち 3人だけで?」


 お姉さんたちは非常に驚いている。

 聞けば 第一層でもモンスターに遭遇するのは稀らしく。

 しかも少人数で倒せるパーティーは限られるらしい。

 人が多いので遭遇率も低い、遭遇しても倒せないので複数人で協力して倒しているらしい。

 第二層に下りてくるのは実力者か命知らずの新人のみ、そんなところに学校支給の初期装備を身に着けた学生とコスプレ少女が居れば心配するのは当たり前か。

 

 僕たちはルーちゃんの嗅覚でモンスターのいる方角がわかる。

 モンスターを求めて探し回る必要もなければ、僕も穂香もモンスターを討伐済みだ。ルーちゃんは戦闘こそしてないけど、もし戦えば鎧袖一触だろう。


「ご主人様、ホノカ、モンスターくるよ!」


 ルーちゃんが指さす方向、空間の歪みから 2体のメタルスパイダーが出現した瞬間だった。 

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