第7話 特殊能力と実践練習②
「ツナ缶を所望するのだ!」
「えっと……ルーちゃんだったわよね?」
「そうなのだ。よろしくなのだ」
困った顔をしているのは隣に住む穂香の母親。
お昼時になり昼食を穂香の家で頂くことになったのだが、この始末である。
もちろん、混乱を避けるために耳は帽子で隠し、尻尾も仕舞って獣人族ということは隠した上で、外国人の友だちという設定になっている。
「面白い子ね。じゃあ、お昼はツナの和風パスタにしましょうね」
「パスタ? ママさん、それ美味しい?」
「ええ、美味しいわよ。ちょっと待っててね」
困惑気味な穂香のお母さんも、次第に無邪気な可愛さをもつルーちゃんを受け入れていった。
可愛い子犬や子猫といった感じかな? もしこれが暑苦しい獣人族の男だったらどうなっていたのだろうか? いや……それは考えないでおこう。
◇
「ご主人様! あれは何ですか? それに大きい建物が一杯! す、凄いです!」
ルーちゃんは初めて見る日本の町の景色に圧倒されている。
僕たちにとっては見慣れた光景も、別世界の住人であるルーちゃんにとっては幻想的な世界なのかもしれない。
僕たちがやってきたのはロードサイドにある複合店。
ルーちゃんの服や生活用品を買いに来たついでにやってきたのは、一般人が立ち入りを禁止されたエリアだった。
そのエリアにあるのはダンジョンの入口。
ここは先人により既に攻略済みのダンジョンの一つだった。
このダンジョンは二層構造の小規模ダンジョン。
更衣室も用意されており、アイテムの販売や素材の買取センターもある探索者には人気のスポットエリアだったのである。
役に立つのがルーちゃんの謎の
異空間に物を仕舞える便利能力だ。
これは魔力総量により収容量が変わるらしく獣人族でも使える者はごく僅かしかいないレアスキルらしい。
うらやましい……そのスキルがあれば運送業で荒稼ぎできるのに。
さすがにあの恰好で街中を歩くのはご勘弁なので、ダンジョン前にこういった政府によって管理された施設があるのは非常にありがたかった。
「おおうっ、ここがダンジョンか」
入り口で入場手続きした僕たち 3人はダンジョンに入場した。
このダンジョンはDランクダンジョンで、ショッピングセンターや地下街を連想させるような近代的なフロアになっていた。
僕と穂香はこれが初ダンジョンである。
なのだが……まあ人が多いこと。
土曜日の昼過ぎ、ちょっと一狩りいっちゃう? 的な軽いノリの若者が大勢いた。
まあ、僕たちもその例に漏れずやってきたのだから皆考えることは一緒である。
自分らの装備を自慢しあう者たち。
剣技を披露する男性。
カラフルにアレンジしたボディスーツをアピールするギャル。
音楽をかけてダンスを踊るグループ。
それらを動画配信する者。
皆それぞれで楽しそうだった。
「……噂には聞いてたけど、まるでイベント会場ね」
穂香が僕も思っていた言葉を発した。
これではダンジョンに入った感がしないのは確かである。
それにしても……やっぱり女性が多いな。
探索者になれる特殊能力持ちは女性が多いので当たり前なのだが……年上のお姉さんたちのその格好……免疫のない男子高校生には刺激が強すぎます。
「ねえ、あの子可愛くない? 外国の子かなぁ?」
付近で立ち話をしていたお姉さんたちが入り口で佇む僕たち、いや正確にはルーちゃんを発見し色めき立った。
「キミどこから来たの? 珍しい格好してるけど、今外国ではそういう格好流行ってるの?」
ルーちゃんの格好とは、コスプレ衣装と見間違えてもおかしくないケモミミと尻尾、そして皮鎧……誰でもそう思うよね。
とくにこのイベント会場のような場所、何人か猫耳カチューシャ着けてるし、まったく違和感がない。
「そうなのだ。カッコイイでしょ?」
「うん。凄く似合ってる。そっちの子らは学生さんかな? 自主学習とか偉いね。私たち学校のOGだから、もしなんかわかんないことあったら聞いてね」
「はい。ありがとうございます」
「あの、先輩方すみません。ここってモンスター出るんですか?」
「うん出るよ。でもこの人だかりでしょ? 大体はパフォーマンス目的に倒されちゃうよ」
「ああ、なるほど……では、どこにいけばいいですか?」
「奥に行けば行くほど人は少なくなるから、狙うとしたら奥か第二層なんだけど……このダンジョン、ランクDでしょ。金属系の硬いモンスター多いけど、あなたたち大丈夫? 狩りするなら神社の方が楽だよ」
「ありがとうございます。たぶん大丈夫なので行ってみますね」
「そう。気をつけなさいね。危ないと思ったら逃げるんだよ」
「はい、ありがとうございます」
ちゃっかり写真取ってたけど、親切なお姉さんだった。
そして、とってもいい匂いのするお姉さんだった。
あれが大人の女性なんだな……。
「くんくん、こっちから人間とは違う臭いがする」
「ルーちゃん臭いでモンスターのいる方向わかるんだ」
「うん。あっち!」
ルーちゃんの示す方向に歩いて行く。
しばらく進むと人だかりができていた。
「あちゃー先客がいたか~」
そう、そこは一体のモンスターと戦う 3人の女生とその戦いを見学するように人の輪ができていた。
「あれが…モンスター」
授業でモンスターについて講義は受けていた。
生態系は不明だが、ダンジョン内に生息する謎の生命体?
このダンジョンにいるのは機械生命体。
そして、あのモンスターは動画で見たことがある。
あれはメタルアーミー、金属製の案山子だ。
動きは遅いがその金属製の体はとにかく硬い。
手足をぶった切っても動くし、倒すにはある程度のダメージを与えるか胸部にあるコアを破壊するしかない。
現に戦っている 3人の女生も苦戦していた。斬撃は弾かれダメージが通っている気がしない。鉄の塊を攻撃しているようなものだ。
それでもメタルアーミーの手足には斬られた跡がある。
僅かではあるがダメージを与えているようだ。
茶髪のお姉さんが何度も同じ場所を斬り、ついに腕を切断した。
「おおおぉぉぉぉぉ!」
腕を切断したことで観衆から歓声が上がる。
しかし、片腕を失ったメタルアーミーはそれでも動き続ける。
ダークブラウンと茶髪のお姉さんがメタルアーミー攻撃をかわして斬りまくる。
次第にメタルアーミー動きは鈍くなり、崩れ落ちるときがやってきた。
倒された鉄の山は粒子となって消えていき、その場には鉱石の塊が出現した。
大歓声に包まれて、お姉さんたちが刀を掲げる。
「かっこいい!」
「そう? あんなのにチマチマ攻撃してさ、無駄が多い、力の使い方がなってない」
「……チマチマってルーちゃん。厳しいなぁ」
「ホントのこと。アレくらいならご主人様でも一撃」
「……いやいや、あの装甲見たでしょ。全然刃が通ってなかったのに一撃って……」
「ん、だから力の使い方がなってないっていった。魔力を剣先まで通せば、あんなの紙みたいなもの。ご主人様ならデキる!」
なんだろう……ルーちゃんのこの絶対的な自信は……そんなのデキて当たり前的なのは……あまりハードル上げないでくれますか?
「こっちに別の個体の臭い」
ルーちゃんの後に続くと 1体のメタルアーミーを発見した。
そして、周囲には誰もいない。
僕と穂香は臨戦態勢を取った。
これが初のモンスターとの戦闘である。
刀を握る手に力がこもる。
「動きは単調だから、訓練を思い出して」
のうのうと傍観する気満々のルーちゃん。
よし! いっちょやってやろうじゃないか!
僕は掛け声とともにメタルアーミーに突っ込んでいった。
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