第6話 特殊能力と実践練習①

「んで、なんでご主人様なのよ」


 リビングで正座させられている僕とルーちゃんに穂香が問いただす。


「なんでって、この屋敷の主はマサムネだろ? そして、ぼくはそのマサムネに飼われてる。だからご主人様。ん、なにも問題なし!」


 さも当然といった顔をするルーちゃん。

 これは……アレだな。動物の社会、群れなど集団生活をする動物には、明確な序列があるのと一緒。

 きっと、ルーちゃんの中では僕が群れのリーダーになっているんだな……。


 でも、その理屈ならこの中でたぶん一番強いのはルーちゃん、次いで穂香、僕は底辺だ……そんで今現在、僕は穂香に怒られている。

 これは順位変動があってもおかしくない。


 穂香を胸の……間違えた……群れのリーダーとした新体制の構築が。





 だが―――今のところその気配はない。なんでだろう?

 頼りなくとも僕が雄だからか? よくわからない。


 



  ◇


 僕たちは家の庭でルーちゃんから戦闘のレクチャーを受けていた。

  

 基本となる武器の使い方。

 僕たちの使うのは学校から支給された日本刀モドキ。

 ダンジョンより持ち帰られた鉱石を使用して作成された片刃刀である。


 対してルーちゃんの使用する武器は一対の短剣。それを左右の手で持っている。

 スピード重視のその動きは圧巻だった。

 とてもじゃないけど少し剣道をかじった程度の僕じゃ相手にはならない。


 木刀を使用した模擬戦では穂香共々ボコボコにされた。

 戦闘に関して彼女は鬼である。まったく容赦がない。


 神殿にある女神像の泉。どこまでも透き通る綺麗な水は、すくい取るとほんのり輝いて見える。

 回復水と呼ばれる聖なる泉の水。その水を飲んだり負傷した部分にかけたりすることで痛みが取れたり怪我が治る不思議な水だった。

 学校から支給されているポーションの上位版って感じかな?


 その回復水を使い僕たちはボコボコにされましたとも。

 傷を治し、またボコる。そしてまた回復水を飲まされる……これの繰り返し。

 可愛い顔してやることがえぐいっす。

 これが弱肉強食の別世界の女の子の姿なのか……。



「たっ……タイム!」


 額から流れる汗をタオルで拭う。

 幾度となく繰り返される修練に僕はへとへとだった。

 春先とはいえ昼間は結構熱い。


 練習嫌いの僕が頑張っているのも美少女二人がいるからに他ならない。

 汗を拭う、うら若き少女の姿。

 片や巨乳が強調されたTシャツ少女。

 片やケモミミ少女。

 二人を眺めているだけでイケない気分になる。


「休憩したら、魔力操作について練習しようか」


「魔力操作?」


 なんか気になるワードが出てきたぞ。

 それができるようになるとアレか……アニメとかで恥ずかしい中二的な単語を並べた詠唱、そして魔法攻撃的なモノができるってことか?




 

 ルーちゃんの話では獣人族は個人差はあるものの皆それぞれ体内に魔力マナを秘めているそうだ。

 その魔力を体内に張り巡らせることで、一時的に筋力アップすることや肉体を鋼のように硬くすることができる。

 またその魔力を体外に放出することで火や水を作り出したり、モノを感じ取ることができるらしかった。


 フムフム……なるほどな。これが僕たちの使う特殊能力の正体か。

 大災害による人体への影響により人々は魔力をその身に宿す者が増えてきた。

 その魔力を上手く使いこなせる者、それが特殊能力スキルを使える者って訳か。

 

 世界中で特殊能力スキルの研究は進められているが、実のところ研究成果はあまり進んでいないのが実情らしいのだ。

 研究者の多くは大災害前に生まれた大人であり、特殊能力は使えない。

 使える者もなんとなく使えるといった感覚だけでその条件も不明、不明なものは説明のしようがないのだから研究者も困ってしまう。

 特殊能力を使える者は、大災害後に生まれた若者のみで研究対象が少ないことと、特殊能力の種類も多岐にわたり、拾得者の条件も謎のままなのだから仕方がないことだった。

 

 魔力操作とは、体内に上手く魔力を循環させることで特殊能力の効果を上げたり、術式を制御することで様々な魔法を使用することらしい。


 ちなみに僕の特殊能力は……ちょっとだけ素早く動けること。言い方を変えると逃げ足だけは速いという微妙な能力。

 穂香は平衡感覚に優れており、その巨乳でもバランスを崩さない。

 

 魔力操作の練習をすることで魔力総量を増やすこともでき、その効果も上がる。

 その練習方法とは―――




「うむむむむむむむ……っ! プハッ!」

 

 意識を集中して手のひらからほんの僅かな水を作り出す。

 それがどれだけ難しいか、わかるだろうか?

 

 物質、心など、目に見えるもの見えないものすべてのものは「空、風、火、水、地」五大元素で成り立っている。

 人の体ももちろん五大元素に対応しており、小さな細胞も例外ではない。

 たとえば、細胞の構造は「地」、細胞膜や細胞質は「水」、細胞の代謝は「火」、細胞内のガスは「風」、細胞が存在する空間は「空」となっている。

 人の体に置き換えると、「空」は口の中、お腹の中などの体の中のスペースを表し、「風」は筋肉や神経系の動きなど体の動きに関連する。「火」は酵素の働きをコントロールし、知性、消化、代謝のシステムに関わる。「水」はリンパ液、消化液、唾液などを含む全ての体液に対応する。「地」は骨、歯、髪、肉など体の個体の組織に対応しているのだ。


 それらを理解したうえで、体内にある魔力マナを循環し手のひらに集め、術式を用いることで何もない空間に水を作り出す。

 何もない空間といっても空気中には大気がある。その大気から水素と酸素の化合物である水を作り出すのだ。

 これらはまだ簡単な方らしく、難しいのは元となる触媒がない場合らしい。

 たとえば空気中に砂や土の塊を作り出す場合、そのままの状態と土壌に触れた状態では難易度が違う。

 その場にないものを作り出すにはそれ相応の代価が必要になり、より多くの魔力が必要になる。



 ――――らしいのだが……うん。さっぱりわからん。

 

 とにかく難しいこと考えずに、イメージすることが大事らしい。

 

 水のイメージ……水道水? 海や川……雨……。

 ……アクア……ウオーター。

 アクエリアス……水の精霊……ウンディーネ。

 ……水色の女の子……女の子の全裸……。


「―――あっ! できた!」


 できたのはコップ一杯分の水。

 なんだ。意外と簡単じゃん。

 

「凄いじゃん正宗。私も負けてらんないわ!」


「さすがご主人様なのだ」


 穂香は悪戦苦闘しているようだが、コツを説明しろと言われても説明できない。説明できるわけがない。こればかりはどうしようもない。

 それよりも………さっきから気になっていることがある。



「あ、あの……ルーちゃん? なにしてんの?」


 それは―――僕が汗を拭いたタオルにスリスリしているケモミミ少女。


「ふえっ!?」


「ふえっ!? じゃない! それ僕のタオルですよ。しかも使用済みの」


「ん? 知ってるよ。だからこうしてるの」


 ………これはどう判断すればいいの?

 匂いフェチなの? それとも獣人族の習性?

 それとも臭いからマーキング?


 穂香も苦笑いしてるし、どうすればいいのこれ?

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