20:デスゲーム第二回目【インディアンポーカーポーカー】その2

『素晴らしい試合をありがとうございました! まあこのインディアンポーカーはあくまでデモンストレーション! 勝っても負けてもなにもありませんよ。だって五人一組で戦う競技なんですから、人数が五の倍数じゃないと破綻するじゃないですか。だから前回失格となった佐志トモコさんも生かしてあげているというのに! もっと頭を使いましょう!』


 名前を呼ばれて、トモコちゃんは身を強張らせた。冷汗を垂らし……しかし、下を向きつつ、不敵な笑みを浮かべている。

 運営の奴め。何を白々しい。


 殺せなかったんだろ……?


 催眠術が解けたから。

 お前の超能力は、催眠術下でしか相手を意のままに操れない。……たぶん。

 最初こそ、あの体育館の入口を開かないと錯覚させるためや、もろもろの裏方作業を悟らせないために催眠術を施したのかと考えたが、その線は薄い。

 だって、やる意味がない。

 裏方作業を隠す意味がない。

 扉を開かなくする方法は他にいくらでもある。


 わざわざ催眠術を施す意味がない。だから、そういったものはおそらく、副次的な効果なのだ。

 ではなぜ催眠術をかけたか。

 それは超能力の効き目をいかんなく発揮させるためだろう。

 催眠術がかかっていない者は、おそらく、殺すことができない。

 ……状況証拠でしかないが、俺たちは今、命を張った賭けをしているんだ。


 ある程度は予想と勘で動く!

 安全策でこのセックスしないと出られない部屋を攻略することなんて出来やしない!


『さあ、それでは、インディアンポーカーというもののやり方は皆様ある程度ごぞんじ頂けたかと思います! それらを踏まえ、それでは五人一組による特殊ルールインディアンポーカーを始めていきましょう!』


 さあ、賽は投げられた。

 ともあれ、まずはチームを組まなきゃな。

 俺とトモコちゃんが組むのは確定。それから……。


「ギャル。お前、俺と組め。嫌とは言わせねーぞ」


「……はーい。りょーかーい」


 見定めるようにじっと俺を見つめて、ギャルはそっけなくオーケーの返事をしてくれた。

 もしかすると、こいつも催眠術から逃れた一人かもしれない。だとしたら、話をするタイミングがあれば、真実を聞きたい。だから近くにいてほしい。

 それから……。


「サナちゃん!」


「ひゃいっ!?」


 ちょっと見当たらないから大声でその名を呼ぶと、もっと大きな声で返事が返ってきた。

 声のする方を向くと、パジャマ姿で、大きな胸の形がぷりんと分かる……ノーブラ女子が怯えた顔でこっちを見ていた。相変わらず、看護師のナツキさんと一緒になって、おずおずとしている。おいおい、頼むぜ……。


「サナちゃん、頼みがある」


「な、な、なに!? あ、そそそうだ! わた、私、ポーカー知ってるよ! ルール知ってる! 役に立てるよ! だからチームに入れて! ナツキお姉ちゃんも一緒にいれて! お願いテルヒコくん! へへ、えへへ……!」


「そうか、ルール知ってるのか! 偉いぞサナちゃん。俺の思った通りだ。ゲームは得意って言ってたもんな!」


「そう! そうなの! 得意なの! 一緒に勝とうね! み、みんなで、生き残ろうね!」


 ああ、そうだな。みんなで生き残ろう。

 だけどお前の言う「みんな」と、俺の言う「みんな」はたぶん違う。


 サナちゃんが言う「みんな」は、お前と仲良くしてくれたナツキさんやギャルやヒトミちゃんといった、ごく身近な括りだろ?

 でも俺は、本当にみんなを助けたいんだよ。

 ここにいる39人全員。俺も含めて40人全員で、この忌々しい部屋から脱出したいんだ。


 だから、サナちゃん。

 ……お前、チームから抜けろ。


「え……?」


「お前、ポーカーできるんだよな? だったら俺と組む必要はない。別のチームで勝って、ひとまずこのデスゲームは一抜けすりゃあいい」


「そ、そんな事……で、でき、できないよ! ひどいこと言わないで!」


「そもそも俺、勝つつもりないからな。この勝負は全力で、負けに行く」


 その言葉に、ぽかんと言葉を詰まらせるサナちゃん。冷や汗をダラダラと流して、次第に呼吸も荒くなる。


「エ……? イヤ、ナ、ナンデ? 負ケタラ、死ヌンダヨ……? テルヒコくん以外の人、死んじゃうんだよ!?」


「ああ。だから俺と組めば、お前、死ぬぞ」


「ひっ!?」


 あ、やべ。脅しすぎた……いや、今回ばかりは、申し訳ないが、サナちゃんに構っていられる余裕はない。

 頼む。今ばかりでもいい。……自立してくれ。

 そんな願いを込めて、あえて、さらにプレッシャーを与えることにした。


「もちろん、一緒にくるならナツキさんも死ぬ。だからお前は、よそのチームで勝つしかないんだ。分かってくれ」


「そんな! どど、どうして! 無理だよ! わ、わ、私、他の人と組めないよぉ! パニックになっちゃう! 死んじゃう! 死んじゃう!」


「お前が死ぬってことは、ナツキさんも死ぬってことだぞ」


「ううっ!?」


 ナツキさんとサナちゃんは二人で一つなようなものだ。二人を引き離すことはできない。チーム戦となれば、まずこの二人がセットになることは、この空間において既に大前提となっている。


 だから、チーム戦で、サナちゃんが死ぬようなことになれば、とうぜん、ナツキさんも連帯で死ぬ。

 俺が絶対にそんなことはさせないがな……。させないが……やはり、俺の手の届く範囲は限られる。もしかしたら、考えたくはないが……「誰かを切る」覚悟も必要になる場面がでてくるかもしれない。


 そうなった場合の選択肢に、お前を入れたくない。

 わかってくれサナちゃん。お前の有用性を、ここで証明してくれ!


「いや、いやだ……! いやだよおおお!!! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 助けて! お姉ちゃあん! お姉ちゃあん!」


「こ、この……っ!」


 バカ女ァ!!!

 怒りに我を忘れそうになる!

 そして、すぐさまナツキさんがサナちゃんに駆け寄って、俺に頭を下げてきたのを見て、スっと心が冷めていくのを感じた。


「ごめん、テルヒコくん。きっと何か考えがあるんでしょ? 私たちは大丈夫だから、気にしないで、目の前のことに集中してね」


「はい……。ありがとうございます。ナツキさん……」


 ふう、と深いため息をついて、座り込むサナちゃんを見下ろす。

 彼女を助けたいという思いが、こんなにも非常にあしらわれたのだ。彼女に対する思いは反転して、冷たい感情しか向けることができなくなった。


「うう、お姉ちゃん、ごめんなさい……ごめんなさい……!」


 ……パジャマをだらしなく着こなした、ノーブラのシルエットがくっきり浮かび上がる彼女に対して、つい先ほどまでの評価を即座に訂正することになった。

 うん……やっぱ、エロい感情も向けるわ。


 ともあれ、チームはあと二人。

 格闘少女のヒトミちゃんはなんか洗脳解きやすそうなんだよな。だから加えるとして、あとは……。


「テルヒコくん。ちょっといいかな?」


「へ?」


 突然呼ばれて振り返る。

 そこにいたのは、退屈そうに細い目と、縁のない眼鏡をかけた女性。年はナツキさんよりも三つくらい上だった気がする。

 ……あまり、絡みのない人だ。確か名前は、嵩瀬島すせじま……。


「ヒマワリだ。よろしく」


「ああ、ヒマワリさん。どうしたんですか? まさかとは思いますが……」


 チームを組みたいっていうのか? ……俺がさっきまで話していた内容は、聞いていたはずだ。サナちゃんのわめき声で、みんなこっちを注目していたしな。

 俺は負ける試合をすると明確に宣言した。つまり、俺と組めば、確実に死ぬ……。


「……いや、ごめんだけど、チームは俺が決める。ヒマワリさんは別の人と組んでほしい。そうだ。もしできることなら、サナちゃんと組んであげて……」


「そうかい? この私こそ、君の望んでいる人材だと思うがね?」


「は……?」


 意味深すぎる言葉に、ドキっとした。

 俺が望む人材なんて、催眠術から解けた人間だけだ。

 彼女の言う真意はなんだ? 単純に、俺が死にたがりを募っているとでも思っての発言か?


 彼女の言葉一つで、思考を、出口のない迷路に放り込まれた。

 ぐるぐる回るだけで建設的な意見など出てこない俺の不出来な脳みそが、オーバーヒートしかけたその時、ヒマワリさんがまたも口を開く。


「この私は、こう見えて医者なんだ。精神科のね」


 精神科の医者……!?

 な、なんか凄そうだぞ!?


 さ、さ、採用!!!

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