第13話 勉強

 学生は一応勉強もする。私が机に向かうと、部屋の中全体に背中を向けることになる。それでもピーが私のところに飛んでくるときは、「ピッピッピ!」と呼ばれなくても先にわかる。ぴちゅぴちゅ言う声やかちかち何かをつつく音が止み、一瞬静かになるからだ。私をじいーっと見つめるピーの視線を背中に感じる。直後、ぱたぱたという羽音が私に向かってくる。


 飛んできたピーは私の頭か肩にとまる。頭にとまると机の上にぴょいっと下りて、私の顔をふいと見上げる。肩にとまったときは首をのばして私の顔を覗き込む。ふわっとピーの匂いがする。


 机の上には文具しかないけど、ピーは私が手にしているだけで、なんかいいものと思うようだ。兄や姉の持ち物は末っ子の目に無条件に魅力的に映るものなのだろう。私の動かすシャーペンを追いかけてペン先をかちかち突っついたり、芯をがじがじ噛んだりする。机に置いたペンを片足でつかんだり蹴ったりして転がす。齧られたくない紙をそっと引っ張ると、大事なおもちゃを隠されそうだと思うのか、急いで足で踏みとどめに来る。かさかさの紙の上で小さくて軽いピーが、とて、とてとて、と意外に大きな足音をたてる。


 私の直毛の髪は滑りやすい。ピーが頭にとまったときは自分で飛び下りるまで私はじっとする。それでもピーはとまった後につるっと落ちそうになることがある。バランスを取ろうとしてピーがばたばたし、ピーの広げた翼が私の頭にかぶさる。


「ピーが帽子みたいになってるよ」そんなピーと私を見て母が笑う。自分ではピー帽子を見ることができなくて、私はちょっと残念に思う。

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