第12話 水浴び

 ぴちゃ。ぴちゃ、ぴちゃ。鳥かごにいるピーが水入れの中に足を突っ込んでいる。水入れはピーの体よりはるかに小さい。むりやり入りこもうとしてるみたいだけど、こんな動きを今まで見たことがない。

 あ、水浴びか。


 早速ピーがゆうゆう入れる広さの四角いタッパーに、ピーのお腹の高さまで水をはって、鳥かごの上に置いてみた。ピーはタッパーのふちに足をかけ、臆することなく水の中にポチャッと入った。でもゆっくりつかったりはせず、すぐに向かいのふちに飛び乗った。ふちの上でくるっと半回転して、また水の中にポチャッと入る。すぐに目の前のふちに飛び乗って、またくるっと水の方に向き直る。出たり入ったりを繰り返し、ときどき水の中で翼を大きく広げる。ふちにとまったときにぶるぶる体をふるわせると、水しぶきがピーの体から放射状に飛び散る。


 つられて高校生のころに見た光景を思い出す。

 定期テスト前の放課後、私は友達と学校の中庭の木のテーブルに教科書やノートを広げていた。テスト前には部活動は休みで、吹奏楽部がプオーと鳴らすのどかで大きな音も、野球部やテニス部がひっきりなしに放つ元気な掛け声も聞こえない。


 いつになく静かな校内の、近くでちゅんちゅん声がする。声の方に目を向けたら、少し先にある藤棚の天井のわきに7、8羽ほどすずめがとまっていた。藤棚からその前の地面にぴょいっと飛び下りると、すずめたちは土の上に腹ばいになってぷるぷる小さく体を揺すり、また藤棚に戻っていく。すずめが飛び立ったあとには、すずめの体の形に地面にぽこっと穴があいている。入れ代わり立ち代わり、ときには同時に、すずめたちは地面に下りてきては体をぷるぷるして、また戻っていく。

 あ、砂浴びか。土の上には小人が入るおふろみたいな小さな穴ぽこがたくさんできている。すずめたちはちゅんちゅんさえずりながら、椅子取りゲームをするように、自分たちが作った小さな砂風呂に代わる代わるうまっては体を揺すった。


 水浴びのあと、ピーはいつもより丁寧に羽繕いをする。うつむく姿勢で首やお腹の羽をくちばしですいて、首をくるっと回して翼や長い尾っぽの羽を櫛で梳かすようにくちばしですーっとなぞる。その後少し眠たげな顔をして、気付くとうとうと船をこいでいる。プールで遊び疲れてお昼寝なんて楽しい夏休みの一日のようだ。


 つくろっていてぱさりと落ちた長い羽は拾って机の引き出しにしまっておいた。

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