第7話 人見知らず
ピーは人見知りをしない。
うちに遊びに来た私の友達にも、初めて見る父の仕事のお客さんの肩にもてらいなくとまる。ヒトはだれでも自分に優しくて遊んでくれるものと思っている。保育園児がお迎えに来たどのお友達のお母さんにもぴゅーと寄っていくみたいに、目新しいヒトは気になるようだ。
私が高校生のころ、友達がうちに遊びに来るとき、うさぎを連れてきたことがある。飼い始めたばかりの子があまりにかわいいから見せてあげる、ということらしかった。手のひらに乗るくらいの真っ白い子うさぎは、ふわふわ柔らかくはかなげに見えて、いったんかごから出して部屋にはなすと、ごむまりみたいに力強く部屋中を跳びはねた。自分の背丈を超える高さまでぴょんぴょん跳ぶのを感心して見ていたら、そのうち部屋のそこここでまん丸いふんをし始めた。友達はあわてて片付けながら、「まりあちゃん(うさぎの名前)のふんは汚くないから。野菜しか食べてないから」とよくわからない理屈を言った。
でもピーがうちに来てから私にもわかった。ピーのふんは汚くない。私の頭や肩の上にも気付くとふんが乗っかってたりするけど全く気にならない。
そうは言っても父のお客さんの頭や肩の上でそそうされては困る。お客さんがソファに座ると、ピーも自分のいすに座るみたいに見知らぬヒトの肩にすとんととまる。そのままくつろぎかけるピーを、お茶を出すタイミングで「失礼します」と肩に指を近付けて連れ出そうとする。ピーはむっとして私の指に飛び移るかわりに「ピッ!」と不満の声をあげながら飛んでいくこともあるけど、父は「こらピー」と口で言うだけだ。
「まりあちゃんをキャベツ畑でお散歩させたら大喜びしてとびはねるの」と前述の友達は言っていた。その畑は友達のうちとは何の関係もない。春の畑のキャベツは柔らかくて新鮮で、そりゃ子うさぎはとびはねて喜ぶだろう。あの畑の農家の方も、自分のうちのキャベツを子うさぎがかじってるとは思いもしないだろう。
どこの親も自分のうちの小さな子には春のキャベツよりも甘いものなのである。
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