第5話 末っ子
大人だけのうちの中で、ピーは年の離れた末っ子のようだった。甘やかされてやりたい放題、みんなが自分のいうことをきくのが当然と思っている。自分が小鳥という自覚もないかもしれない。
私の部屋と居間を隔てる引き戸も開け放された。玄関とベランダに面した父母の部屋をのぞいて、ピーは家中好きに飛び回るようになった。
「お前がいないと仕方ないからピーは俺のところに来るんだ」代わりにされても父は少なからず嬉しそうだ。
ピーが「ピッチャン、ピッチャン♪」と歌うのは、母が「ピッちゃん。ピッちゃん」と節をつけてかまうのを真似たものだった。
居間のテーブルでご飯を食べていると、ピーはよく私の食べ物を欲しがった。お皿にのっているものではなく、私が実際食べているものに興味があるようだった。私の肩にとまり首をぐーっとのばして私の口元を覗き込む。もっと口元に近付きたくて、ずり落ちないように服のえりに足の爪をひっかけて、伝うように私の正面までまわってくる。木の幹に垂直にとまるきつつきみたいに、ピーは私のえりもとにとまり、閉じた口の中にむりやりくちばしを突っ込んで食べ物を強引に奪おうとする。人間の食べ物はピーの体に悪いので、私は首を後ろにひねるのだけど、ピーはじりじりと横歩きしてしつこく口元を追いかけてくる。
見かねて母が「これ、ピー、やめなさい」と引きはがすが(私は口を開けるとピーが頭を突っ込んでくるのでしゃべれないのだ)、大人だけおいしいものを食べてズルいと怒る子供みたいに、ピーはテーブルの上でギャーギャー言いながら地団太を踏んだ。
ピーがうっかりポテトチップスをかじったときの興奮はすごかった。こんなおいしいものはじめて食べた! とでもいうように、夢中になってくちばしでパリパリかみ砕き、キャーキャー騒いで喜ぶ様子は、酒入りのお菓子で酔ってしまった子供のようだった。
ポテチの袋の中にまで入り込む勢いのピーを引き離し、これはいけないと思って、大人はおやつを夜中にこっそり食べるようになった。
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