第3話 ピーの遊び

 部屋に慣れたピーはどこにでも飛んできて好きなところで遊ぶようになった。

 父はピーのよく遊ぶ場所に止まり木を付けて、母がその下にふんを受けるため新聞のちらしを敷いた。一番のお気に入りは部屋に立てかけた鏡の前で、止まり木にとまってぴちぴち言いながらピーは鏡の向こうのインコをつっついていた。ひとしきりつつくとひょいと下におりて、敷いてあるちらしの端っこをパリパリかじって遊ぶので、ちらしのはじはいつも小さなくちばしの形に破れていた。


 一人遊びに飽きたらピーは「ピッピッピ!」と高い声で私を呼んだ。「ピー」と呼ばれて返事をするときだけでなく、自分が家族を呼び出すときにもピーは「ピッピッピ!」と鳴くようになっていた。


 ピーは私の人差し指を相手にたたかう遊びが好きだった。(その後ピーの鼻が青くなって男の子だったことが判明する。)そっと出した人差し指の正面に回ってくると、ピーはくちばしでかち、かちと爪をつっつく。つついているうちにピーは、爪をけんか相手と錯覚しはじめるのか、うーうーと低くうなりはじめる。つっつき攻撃は鋭く強くなっていき、ついには人差し指を自分の片足ではしっとつかんで、ぎゃーぎゃー大騒ぎしながら爪の先に噛みついたりする。


 大学生の私が課題で忙しくてピーの遊びの誘いを無視すると、ピーは自分からパタパタと飛んできた。私の頭の上や肩にとん、と止まって、そこから机の上にぴょんと飛び下りる。広げたノートの上をとてとてと音を立てて歩き、シャーペンの銀色に光る円錐部分をかちかちつつきながら追いかけたり、ワープロ(の時代だった)のキーボードの上を歩きまわって、白く光るディスプレイをこんこんとくちばしでつついたりする。「ピーやめて」と言ってもピーはどかない。いつまでも遊ばない私にうーと怒ったりする。

 そうしてピーは粘り勝ちして結局私はピーと遊ぶことになるのだった。

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