第2話 名前はピー
「この子はまだ小さい子供だね。男の子か女の子かわからないよ」
黄色いインコを見たご近所さんが言った。嘴の上の鼻の部分が今はうすいピンク色なのだけど、大人になると色が変わり、青ければ雄、白ければ雌とわかるらしい。
黄色いインコを父は「ちび」、母は「チッチ」、私は「ピー」とそれぞれ好きに呼びはじめた。
鳥かごは陽当たりのよい私の部屋に置いた。上にスライドさせて開く鳥かごの扉を開け、落ちてうっかり閉まらないようにせんたくばさみでしっかり止めて、私は自分の6畳間をピーに開放した。
ピーはかごの出口の手前で止まり、そこからしばらく部屋の中を見ていた。ようやく扉のふちにぴょんと飛び乗ると、一直線に高い本棚のてっぺんまで飛んでいき、奥の方に引っ込んでしまった。
ぴーとも言わずに天井と本棚の隙間に身をひそめるピーを私はあえて構わずそっとしておいた。時折視線を感じて見上げると、本棚のふちから黄色い頭がひょっこり飛び出し、小さな黒い目がじーっと見ていた。「ピー」呼びかけるとピーは私を見つめた。本棚の上から顔を出すピーと目が合う度、「ピー」と私は声をかけ、ピーはじいーっと私を見つめた。
そのうちピーは本棚からパタパタと下りてきて、私のそばに来るようになった。そっと指を出すと、ぴちゅぴちゅ言いながらくちばしで爪をつついたり、ぴょんと指に飛び乗ったりする。
ある日いつものように本棚の上のピーに声をかけるとピーは高い声音で「ピッピッピ!」と鳴いた。あれ、今返事した? もう一度「ピー」と呼びかけてみる。「ピッピッピ!」ピーは私を見ながら大きく鳴いた。
「ピー」「ピッピッピ!」「ピー」「ピッピッピ!」「ピー」「ピッピッピ!」何度呼んでもピーは、小さな体をふるわせて高い声で返事をする。
黄色いインコは父母からも、ピーと呼ばれるようになった。
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