第47話 キス


 王都にやってきた俺は防具屋に来ていた。

「だから俺が着るわけじゃないけど防具が欲しいんだ!」

「誰が着るか分からんのに売れるか!小僧が!」

 頭の硬いドワーフと喧嘩をしていた。

「量産品があるだろうが!」

「そんなもんない!うちは一品一品手造りだ!」

 くっそー!

「じゃあ、誰でも着れるような防具を作ってみろよ!」

「んなこと……いやまてよ、できるのか?」

「できるだろ!ある程度大中小にわけて作れば安く売れるだろうが!」

「わかった!やってみるわい!」


 なんとか説得してこんどは武器屋。

 数打ちの剣を何十本と買っていく。

「そんなのよりこっちの方がいいんじゃないか?」

「初心者用だよ、これよりいいのある?」

「初心者ならそれで十分だな」


 次はスクロール、剣術のスクロールをあるだけ頼んだら六本しかねぇの、しょうがないから、魔法屋の梯子をして三十本手に入れた。


「ユピー癒してくれ」

 錆猫の居眠り亭に来た俺は疲れ切っていた。

「彼女に甘えなよ、それともすてられたの?」

「捨てられてない。いまは旅行中だ」

 爺婆ズめ!金持たせるんじゃなかったよ!

「はい、エール!あんまりユピーに絡むんじゃないよ」

「女将さん、俺頑張ったんだよ」

「わかったからゆっくり飲みなよ」

 チビチビエールを飲み、レオラン達がくる頃には出来上がっていて、また記憶を無くして起きたらベットの中だった。

「ふぅ。昨日はまたはっちゃけすぎたな」

“コンコン”

「だれだぁー」

「ユピーだよ、兄ちゃん酔い止め持ってきたよ」

 中に入ってくるユピーはオドオドしている。酔い止めを置くとすぐに帰ってしまった。


 昨日の俺は何をしたんだ!!!


「あんたが酔ってユピーを揶揄いすぎたんだよ。本当に酒に飲まれるなんてね、英雄がいい笑いもんだよ」

「はぁ、なんかあったんじゃないかって、ドキドキしたわ。てか英雄ってなんだ?」

「はぁ、貧民街にいの一番で駆けつけるわ、王都ダンジョンを攻略して自分の名前にするわ。どっからどうみても英雄様だろうさ」

「そんなこといわれてもなぁ?」

「なぁ?って私に聞かないでよ」

 ユピーは顔を真っ赤にして言う。

「レオラン達はらまた森にいったのか?」

「あいつらはウチに肉を持ってくる常連だよ。ダンジョンなんかいって欲しくないねぇ」

「あははは、そりゃそうか」


 宿を出て、防具屋によると試作品が並べられていた。

「ほぉ。やるじゃねぇか」

「だろ?ここを工夫したんだ」

「じゃあここはこうしたほうが」

「そしたらここが食い込むだろうが!」

 親父との白熱した会議は昼過ぎまでかかって、足りない材料を俺が取ってくる約束までしてしまった。なぜ俺はこんなことをしてるんだ?


 中級ダンジョンに入って素材集め。

 地味にめんどくさくていやになるな。

 ウルフ系、ミノ系、ワーム系をひたすら狩る。ドロップ品を集めて集めて、一つの考えに辿り着く。


 買えばいいだけだった!


 素材家に行き、欲しい素材が十分に集まったところで親父のところに持って行く。親父の手伝いをしながら錬金術の勉強だ。

 親父は素材を加工しながら錬金も行っているので勉強になる。

 計三十着の大小様々な防具が完成した。

「ありがとう親父さん」

「いや、こちらこそ新しいアイディアに乾杯じゃ」

「いや、酒はもういいや!これ大金な!ありがとう!」

「は!おい!多過ぎるぞ!こら!待ちやがれ!」

「酒代だ!とっておけよ!」

 親父は渋々諦めたようで途中から追ってこなくなった。


 

「これが防具屋ですか」

 岡崎ギルドにおさめた防具は大中小に分かれていて結構頑張ってつくったので褒めて欲しい。

「凄いです!これなら頑張れば量産できるかもしれません」

「でしょ?量産目的だと思ったので無理言って作ってもらいましたから」

「あ、ありがとうございます」

 福田さんは涙を流している。

「あとこれが、数打ちの剣ですがけっこうつかえるとおもいますので」

 机に剣を置いて行く。

「す、すごいですね。これもかってきていただいたのですか?」

「初心者向けですけどね」

「っと、忘れるところだった。これが剣術のスクロールです。三十本しかないですが」

「さ、三十本!これだけでひと財産ですよ!」

 まぁ、オークションの内容を見たらそうなるかな。

「福田さんに渡しますから、初心者で使えそうな人がいたら使って貰えばいいですから」

「あ、ありがとうごじゃいまずぅー」

 


 これで福田さんにも恩が売れたし、あとは爺婆ズが帰ってくるのを待つだけだな!



「たっだいまぁーー!!」

「ごら!爺婆ども、俺を置いて行くなんてどう言う了見だ?あ?」

「う、うるせぇ!ユフィちゃんをほったらかしにしとるお前が悪いんじゃい!」

 なに?ほったらかし?

「言ったな?なら俺は家に帰るぞ?」

「「「「わしらが悪かった」」」」

 爺婆ズの土下座はいらん。

「ユフィ?楽しかったか?」

「うん!すごく楽しかったよ」

「はぁ、親父達もこれに懲りたら俺を仲間はずれにするなよ?」

「おう!次は沖縄じゃ!」

「まてまて。旅行ばっかりじゃ疲れるだろうが、歳を考えろよ」

 爺婆ズは大笑いして自分の家に帰って行った。


「ユフィも親父達に付き合ってくれてありがとな」

 夜二人で布団の中だ。別々の布団だからな!

「私には家族がいなかったからとっても嬉しいよ」

「なら良かった。でも無理はするなよ?」

「無理はしてないよ」

 電気を消すと近寄ってくる気配と唇に感触があった。

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