第35話 説教
帝都まで歩いて向かうのもいいもんだ。
疲れはするが、ステータスは馬鹿みたいに体力があるからな。
「そこの二人、助けてくれんかね」
馬車の車輪がはまって動けなくなったようだ。
「俺が手伝ってやるよ」
ユフィが横から持ち上げて出してやる。
「おお、ありがとう。これは手間賃だ」
「おっちゃんありがとうな」
「なんなら途中まで乗せていくよ」
断ることもないと途中の町まで乗せてもらう。
男はフェイズと言い、旅の商人で色々なものを取り扱っているそうだ。次の町で商いをするらしいからちょっと覗いてみるか。
旅は順調に進み、スタンの町まで昼過ぎにはついた。馬車が頑張ってくれたな。
男と別れて宿を取る。ここは普通の宿のようで、一部屋づつ取れた。
まだ時間があるのでさっきのフェイズの露天へいってみる。雑貨や塩や胡椒、魔法玉まで取り扱ってるようで、一個の魔法玉を買うことにした。
「そいつは重量の魔法玉ですぜ?ただ重くなるだけの魔法でして、ハズレの魔法玉を恩人に売るなんて」
「いや、俺はこれが欲しいから売ってくれ」
「じゃあ、一万ゼルでいいですよ」
「ありがとう、一万ゼルだ」
正直一万ゼルは安すぎる。これは『重力』の魔法玉だ。使いこなせば重力魔法として強力な魔法になるだろう。
ユフィは甘味を買って味わっていたが、ザラザラとした食感が嫌だったみたいですぐにクレープをら出せと強請ってきた。が、そう簡単に渡すわけがなく。買ったものすべて平らげるまでお預けをくらわせた。
「一口たべてみてよ!一口!」
「いやだ!不味いもんを食わせようとするんじゃねぇ!」
結局一口だけ食べてみたが、そこまで不味くはなく舌触りさえ気にしなければどうと言うことはなかった。ユフィの買った量さえ気にしなければな。
この町で二泊すると言うフェイズさんと別れ、俺たちは帝都を目指す。森に入るとたまにゴブリンやウルフが出て来るが、ユフィの的ではない。弓矢で狙い撃ちされた傷の少ないウルフは高く売れるだろうからアイテムボックスに入れていく。
夜営も問題なく過ぎて町を経って二日目の昼頃、後ろから悲鳴が上がったのでユフィと急いで戻る。フェイズさんが盗賊に囲まれているところだった。
「フェイズさん!」
ユフィは一番近い男を弓で射る。俺はフェイズさんの前に立って周りを見ると盗賊が八人。いや、また一人矢が頭に突き刺さる。七人になった。
「お頭!ここはひきましょう!」
「バカが!相手は子供二人だ!一斉にかかれ!」
「馬鹿はお前達だ『グラビティ』」
「なっ!」
「お、重い」
重力魔法の初お披露目だ。
「さて、縄で縛るか、首を刎ねるか」
「この先に街があるのでそこまで連れて行ってはどうでしょうか?」
フェイズさんが震えながら言う。
「ならそうしよう。ユフィ縛れ」
「あいよ!」
なんか喚いているが知ったこっちゃない。死罪になろうが鉱山奴隷になろうが。
街にはいるとすぐに盗賊を引き渡し、手間賃を貰う。もし賞金がかかっていれば後日だ。
「この度はありがとうございました」
「護衛くらい雇えば?」
「それでお願いなんですが、私の護衛をしてもらえないでしょうか?」
フェイズさんの突飛なお願いに固まっていると、
「いいよー!」
ユフィが勝手に受けてしまった。
「良かった。このまま帝都までいけるか心配になりました。いまから護衛を雇うにしても時間がかかるので」
「あー、まー、いいだろ。そのかわり報酬はちゃんと貰うぞ?」
「はい!分かってます」
弟子が勝手に受けやがって。日本食はお預けだ。
「やった!歩くの疲れてたんだよねー!」
「お前は歩きだ!」
「なんでさー!俺が受けたんだぞ?」
「んじゃ、ここからは別れるか?」
「いや、そう言う意味じゃなくて…わかった、歩くよ」
そこらへんは今日みっちり説教だな。
昨日の説教が効いたらしく今日は大人しいユフィ。
「今日も晴れて良かったですねぇ」
「俺は心の雨が降り止まないよ」
なんかユフィが歌謡曲の歌詞みたいなことを言っているな。
「ほらほらユフィさんも元気出していきましょう!」
馬車はゆっくり森を抜け草原を走っていく。見通しのいい草原は兎や鹿も見えて長閑だ。
「コタロー!あれ捕まえてもいいか?」
「やめとけ、俺らは護衛なんだからちゃんと見張っとくのが仕事なんだぞ」
「は、はーい」
本当に分かってないみたいだな。友達感覚でいたら仕事にならないだろうが。
「早いですが順調に進んでるのでここらで休憩にしましょう」
「了解です」
「コタロー!ハンバーガーだして!」
「お前はすぐそーやって人前で言う!」
「あ、ご、ごめんなさい」
出来るだけ隠しておくのが大事なんだと昨日あれほど言ったのに。
「コタローさん、ハンバーガーとは?」
「はぁ、パンに肉や野菜を挟んだものです。良ければ一つどうぞ」
しゃーない。ここはやるしかないだろ。
「こ、これは美味い!」
「でしょー!」
「これはどこで売ってるんですか?」
「ここら辺では売っていませんよ。フェイズさんが売ってみたらどうです?」
「い、いいんですか?こんな美味いもの売れないわけがないですよ!」
食いつきが半端ないな。
「これはちゃんと商人ギルドに登録しますのでコタローさんにもお金が入ってきますよ!」
「ならそれで、フェイズさんにお任せしますね」
それからの旅はハンバーガーの話一色になってしまった。ユフィが余計な事を言って。いろんなものを挟むと言うのをフェイズさんは書き留めている。
食チートというものか。
それから次の町までは何事もなく、小さめの町だが商いをするらしく、ハンバーガーの試作もしたいとのことで三日休みになった。
この町にもダンジョンがあるらしく、冒険者も程々に見かける。まぁ、初級ダンジョンなので初心者のようなものが多いな。
「宿は確保できたが、またツインかよ」
「こんな可愛い俺と一緒なんだから文句言うなよ」
「なら少しはお淑やかにしてみろってんだ」
「私はちゃんとお淑やかでございましてよ、おほほえほっ!ごほっ!」
「はん!無理するからだな」
まぁ、ユフィはユフィでいいとこもあるんだがな。
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