第16話 休み


 貧民街の爆発が止まった時には東区は廃墟と化していた。

 レオランたちが助けられた子供は十二名。レオラン達は怪我人は出たが命に関わる事はなかった。

 裏ギルドは壊滅していたらしく、パズの死体も見当たらなかった。


 子供達は首に爆弾を着けられて一斉に解放されたらしい。皆が動き出した頃に一人が爆発、それにつられてバラバラに逃げ出したらしい。


 結局、誰のせいかわからないままこの事件は迷宮入り。

 血を求める赤の魔女、死を求める白の魔女、貧民街を無くしたい王都、皆が噂話をしている。


「ユピーはウチで預かるよ」

「女将さん助かります。よろしくお願いします」

アンちゃん」

 他の子供達は色んなところに預けられる事になった。ユピーは錆猫の居眠り亭に預けられた。


「レオラン」

「あぁ、ひでぇ事しやがる」

「あの時なんで来たんだ?」

「俺は貧民街出身だ」

 そうか、だから裏ギルドのことも多少は知ってたのか。

「上の連中はもう工事の計画を立ててるらしいぜ?本当にこの国が嫌になる」

「……そうだな」

 助けられなかった人がいて、助かった人がいる。俺たちみたいに動いた人間は少なく、他人事のように見ているだけの人が大半だ。


「俺はパズが生きてるように思う」

「お前が殺したやつか?殺したんだろ?」

「あぁ、だが、死体が見当たらなかった」

「……」

「パズを見つけ出して今度こそ必ず」

「やめとけよ。いま生きてるやつに目を向けろ、そしていつか会う時がきたら…その時は必ず仕留めればいい」

 あの時の音が、悲鳴が、心を縛る。

「あぁ、そうするよ」


 いつか必ず。



「いらっしゃいませ」

 ユピーが宿屋に来てから一週間になる。

 初めて会った頃は男か女か分からなかったが、女の子だった。風呂に入れて貰って燻んだ髪も綺麗な青い髪になり。服も中古だが買ってきたのを着ている。

「兄ちゃんおかえり」

「あぁ、ただいま」

 頭を撫でると強く押し返してくる。


 助けられて良かった。


 たぶんユピーは分かってる。親父さんの作っていた物が自分達に付けられた物だったと、そしていなくなったことも。


「今日は特製のシチューだって!絶対食いにこいよ」

「あぁ」

 強い子だ。


 俺はそれから北のダンジョン攻略を開始した。少しでもユピーと一緒にいれるように、俺までどこかにいってしまわないように。


 いや、俺が離れ難いだけだな。


 東区の再開発が済んだら俺は出て行くことにした。もう貧民街なんてものはないんだから。だから俺もそれまでにはダンジョンを攻略したい。


「行ってくるよ!」

「いってらっしゃい!」

「肉持ってきなよ?」

「取れたらね」

 女将さんとユピーに送り出されダンジョン へ。


 俺はもっと強くなる。


 色んなものを守れるように。



「はぁ、はぁ、はぁ」

 ようやく六十階層のボスを倒して一休み。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


コタロー・カザマ 十五歳

 レベル76

 力 S-

 体 A-

 速 A+

 魔 S-

 運 B+

スキル 五行魔法(火・水・土・風・雷)        

    闇魔法 光魔法 回復魔法 転移魔法 時空間魔法 強化魔法 支援魔法

    剣術 槍術 棍術 体術 盾術 感知

ユニーク 


 黒の魔女の弟子

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「くそっ、ここのダンジョンは上級より上っぽいな」

 他の攻略したダンジョンよりも難易度が高い。こんなところで躓くわけにはいかないんだが。


 王都ダンジョン 六十一層


「なんでオークキングが普通に出るんだよ!」

 オークキング、ジェネラル×2、ナイト×2、マジシャンの六匹編成だ。

「『アイスエッジ』うらぁぁ!」

 袈裟斬り、切り上げ、蹴り、追い討ちをかけて三匹、身体強化で後ろに回り込み残り三匹を倒す。

「はぁ、はぁ、まじでしんどいな」


 いい時間なので六十階層から転移陣で戻り、南区の宿屋に戻る。

「いらっ、あ、兄ちゃんおかえり」

「ユピーただいま」

「肉は?」

「これ、オークキングの肉」

「いやっほぉー!!あとで支払うからね」

 女将さんは俺のことを当てにしすぎだ。

「とりあえずシャワー浴びてくる」

「うん、どうぞー」

 ユピーは元気でやってる。女将さんも上機嫌だ。なのに俺は。


 飯を食いに下に降りるとレオラン達がいた。

「コタロー!こっち来いよ!」

「あぁ!お邪魔します」

 久しぶりの再会だ。

「んじゃかんぱーい!」

「「「「かんぱーい」」」」

 エールが美味い。

「で、お前休んでないだろ?」

「何だよいきなり」

 たしかにいつ休んだかな?


「お前にはとりあえず休息が必要だ」

「そーだそーだ!」

「ダンジョン馬鹿になっちまうぞ」

「そーだそーだ!」

「ユピーも心配してるぞ?」

「そだそーだ?」

 メルの合いの手がおかしいが、ここらでちゃんと休むか。

「分かった、明日からちょっと休むわ」

「「「「おおー!」」」」


 と言うわけで休みになった。

「で?なんでいるんだ?」

 ラフな格好のレオラン達四人。

「いや、コタローは休みに何するのかと思ってな」

「そーだそーだ」

「いや、それはもういいから」

 メルはショートパンツにダボっとしたサマーニットだ。

「俺らも休んでなかったからな」

「そろそろ休み」

 ウィッグはパンツスタイルで決めている。


「んで?なにすんだよ?」

 一人なら日本に帰るけど、

「そうだ、俺の故郷の遊びでもするか?」

「おぉ!それでいいぞ」

「なら、酒場でやるか」

 この世界は本当に娯楽がない。だからこれを流行らせよう。

「トランプ」

「何だ?上質なカードだな」

 俺はトランプの遊び方を教えた。


「あーがり!」

 ウィッグがあがった。いまはババ抜き中だ。

「ぬぬぬぬぬぬ」

「おらおら、どっちだと思う?」

 俺はさっさと上がっていまはガストとレオランの勝負だ。

「こっちだ!」

「ざーんねんでしたー!」

「「「あはははは」」」

 ガストが外して、またレオランのチャンス。



 結局、夕飯時までトランプをやっていたせいで他の客も巻き込んで大騒ぎ。

「やったー!」

 ババ抜きは大好評で何人でも遊べるのが良かったみたいだ。

「あー、コタローは面白いもの持ってるな」

「だろ?あれはあげるよ」

「いいのか?やりぃ!これでいつでも勝負できるぜ」

 いい歳こいたおっさんがよく遊ぶもんだ。

 カウンターで呑んでるとユピーがソワソワしてたから後であげると言ったら喜んでくれた。女将さん達とやりたかったらしい。


 あとは商業ギルドで登録して、売り出してくれれば勝手に広がるだろうさ。

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