第17話 親父



「久しぶりだな」

 休みだから日本に帰ってきた。

「またテーブルに置いてある。ひまなんか?」

『連絡くれ 父』

 また短文過ぎるだろ。


「親父?どうした?」

「おぉ、ようやくこっちにきたんか?どうや?元気にやっとるか?」

「おお、元気よ」

「ほっか、俺は怪我してしもうてな」

「大丈夫か?」

 親父が怪我か、

「すぐそっち行くから『転移』」


「どわぁー!ビックリした!」

「親父怪我は?って骨折かい」

 足にギブスをつけた親父が倒れている。実家なんか久しぶりすぎて忘れるところだった。転移できて良かったわ。


「お前は俺を殺す気か!もっとそっと帰ってこい」

 無茶振りだ。

「そうだ、骨折なら中級で十分だな」

「それはなんね?」

「ポーションだ。これで骨はくっ付くから」

 親父にポーションを飲ませるとギブスを外してやる。

「親父動くなよ!」

「なにするつもりだ!馬鹿なことはやめろ!」

「せい!」

「ギャアァァァァ……あ?」

「ギブスを斬っただけだ」

 アスカロンをこんなことに使うなんてな。

「お前は俺を殺したいんか!寿命が十年は縮んだぞ!」

「ほしたら親父は天国行きやな」

「くぅー、親を馬鹿にしよって」

「あはははは」


 なんだか久しぶりで、こんな気持ちを少しの間忘れていた気がする。

「ポーションは置いて行くからバンバン使っていいからな?」

「そんな馬鹿みたいに怪我してたまるか!」

「あっ、そういえば親父は冒険者登録してるんか?」

「おう、とりあえずしてはあるぞ」

「おっし!ならちょっとギルドに行こう!」


 親父の車で近く……と言っても結構あるギルドまでやってきた。

「買取お願いします」

「はーい、え?ちゅ。中級ポーション?」

「はい」

「少々お待ちください」

 受付のお姉さんはバタバタと奥に引っ込んでいった。

「お前なんかしたんか?」

「中級ポーションはいくらになるんかな?」


 戻ってきたのはお姉さんとそれより偉い人のようだ。

「お待たせしました。こちら鑑定させていただきます。……中級ポーションですね」

 虫眼鏡のようなもので鑑定できるんだな。あれも魔動具の一種か?

「五本で二百五十万になります」

「に、に、二百五十万、ほえー」

「お、親父?あ、それでいいです」

「ではこちらのカードに入金でよろしいですか?」

「はい、お願いします」

 親父はビックリして固まったままだった。


「お前は親を二度殺す気か?!」

「死んでないからいいだろ?その金は親父が使っていいからな」

「ほ、本当か?いい息子を持ったもんだ」

 助手席で大笑いしてる親父を見て親孝行ができた気がした。


「にしてもその異世界ってのは凄いとこだな」

「そうでもないぞ?簡単に人が死んじまう」

「……ほうか。なら早く帰ってこい!」

「俺は簡単に死なないけどな!力のない子供や年寄りがな」

「ならお前が死なない程度にしとけ」

 俺が死なない程度?

「お前はすぐに人を信じるからな。少しは疑って人生ってのを進めていけ」

「俺は……そうか?」

「お前の親を何年やっとると思ってんだ」

「そうか」

 親の言うことは素直に聞いとくか。


「分かったよ」

「ならそれでいい」


 それからはトランプやらチェスを買ってみたり、親父の好きな酒を買ってやったり、ルナディアだと手に入らないものを買った。


 たまにはとルーにもお土産を買った。


「いやぁ、悪いな俺にまで色々買って貰って」

「ついでだよついで」

「なんだよ、このヤロゥ」

「あははは」

 親父はすこぶる上機嫌だ。


「それじゃあ親父も元気でな」

「なんだそれ?べつにすぐ帰ってくるだろ?」

「あぁ、ちょくちょく帰ってくるよ」

 あまり帰ってるとちゃんと帰ってくるのが遅くなるけどな。

「あまり気ぃ張り過ぎるなよ」

「おう!」

『転移』


 ルーの家の前に転移した。

「おーい、俺だ」

 一応ノックすると、

「俺だじゃわかんないだろ?ちゃんと名前言えっての」

「めんどくせぇなぁ」

 俺は扉を開けて中に入る。

 ルーはいつも通りの下着姿だ。

「まーた下着でウロウロしてる」

「なんだい?また吸い取られたいのか?」

「ごめんだね!それより土産だ」

 黒のシルクのガウンだ。

「おぉ、これなら楽そうだね。ありがと」

「ちゃんと着ろよ?下着姿でウロウロされたら俺が困る」

 こちとら身体は十五歳だからな。

「へいへい、着させてもらいますよ」

 なんだかんだで嬉しそうに羽織るので買ってよかった。


「コーヒーでいいかい?」

「あぁ、ありがとう」

 椅子に座るとルーが話しかけてくる。


「なんかあったのかい?」

「…あぁ、王都でな」

「貧民街のことかい。あれは赤の魔女って言うか、魔人の仕業だねぇ」

「え?知ってるのか?」

 コーヒーを持ってテーブルに置く。

「少しだけね。魔人は赤の魔女に喜んで欲しくてたまに暴走するやつがいるんだよ」

「それがパズだったのか?」

「たぶんね」

 タバコを取り出すと火を付ける。


「今回はやり過ぎだね。コタローが魔人をやってくれて良かったよ」

「良くねぇよ!あいつのおかげで何人も死んだんだ」

「それはしょうがない。魔人ってのはそんなもんだ」

 コーヒーを一口飲むとまた口を開く。

「赤の魔女は止められない。それは他の魔女にも言えることだが、生きるってのはそういうものさ」


「じゃあ俺が「やめときな!」なっ」

「あんたじゃ無理だよ。それにこれはルナディアのことだ。地球の人間がそこまでする理由はない」

「じゃあ指を咥えて見てろってのか?」

「そうなるね。だが今回のことは魔女会談で言っておくさ」

 灰皿にタバコを押し付けるとルーはヒラリと黒いローブに着替える。

「わたしに任せときなよ」

「あぁ、わかったよ」


「いい子だ」

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