第15話 イカれてる
「女将さん、行ってきます」
「いってらっしゃい!」
背中を叩かれて宿を出る。
昨日の話が本当ならユピーが危ないな。
貧民街に入ると、あれだけストリートチルドレンがいた区画なのに誰もいない。
「ヤバそうだな」
魔法屋に寄ると婆さんも居なかった。
走って魔動具屋に行くと何か揉めている。
「なにやってんだ?」
男四人で親父を囲んでいる。
「あぁ?お、ここにもガキがいるぜ!」
「ははっ!一匹追加だな」
「おい!逃げろ!」
親父が男どもにしがみつくがすぐに降り落とされ蹴られてしまう。
「おいおい!親父に何してんだこら!」
「おーおー、怖い顔してないで俺たちといいとこに行こうか?」
「お断りだ!」
男の懐に潜り込んで股ぐらを蹴り上げる。そのままのスピードで回転しながら裏拳、左ストレートで二人を倒す。最後の一人は話を聞く為に捕まえるだけにする。
「おい!何の目的だ?」
「い、いや、これは」
「言え!」
「俺らは下っ端だ。ガキを連れてこいと言われただけなんだよ!」
腹を蹴り上げ意識を刈り取る。
「親父さん、ユピーは?」
「連れてかれた、昨日の事じゃ」
「目的はなんなんだ?」
サッパリわからない。
「闇ギルドだろ?場所はわかるか?」
地図を広げると、親父は震える指である場所を指差す。
「分かった、ありがとう」
「き、…気をつけろ」
「あぁ」
親父が指差す場所に向かうと死臭の漂う場所だった。
「何だこれは?」
空き地のような場所に死体が大量に積まれ山になっている。よく見ると大人の死体だ。腐敗しているのでここ二、三日の間で腐ったわけじゃない事がわかる。
「ゔ……ぅゔぇぁぁぁ」
あまりにも悍ましい光景に吐いてしまう。
「誰だ誰だ?おーまえは誰なんだい?」
甲高い声を響かせて男が死体の山から出てくる。髪は赤く濡れオールバックで眼はどこかイッている。
「ここはなんなんだ?」
「質問してるのは俺なんだけどー?まぁいいや、ここは見ての通り死体置き場さ」
死体置き場?
「貧民街だぞー?一日に何人死んでると思う?そんな死体を集める場所がここー、まぁ殺した奴もいっぱいいるけどねー」
楽しそうにしているやつの両手には鋸のような刃の剣が血だらけで鈍く光る。
「分かった。それじゃあ貧民街の子供達は?」
「はぁ?だからなーんで俺の質問には答えないんだー?」
「俺はコタローだ。それで?」
「コタロー君かぁ、じゃあ君の質問に答えてあげるよ」
“ドォォォォオオォン!!”
「なっ!?」
「始まったねぇー、これが答え!俺はこの貧民街を無くすためのヒーローになるのさぁ!だから、貧民街の住民は皆んな邪魔!」
“ドォォォォオオォン”
遠くから聴こえる爆発音が叫び声に聴こえる。
「お前……子供達は?」
「爆弾になってもらったよ?だって大人は子供の為だって言ったら死んでくれたけど、子供は生き汚いからねー」
「うおぉぉぉおぉぉぉ!」
遠くに聴こえる爆発音が俺の胸を絞り込む。聖剣アスカロンを手に男の首を狙う。
「あっぶねぇ、このパズ様の首を狙うなんて命知らずがぁ!」
両手をクロスさせ受け止められ、腕を跳ね返される。両手に持ったその歪な剣を振り回し反撃する暇がない。
「『サンダーボール』」
「あギャアァァァァ」
「死ね!」
「ああぁぁぁあぁ」
振り下ろす剣を紙一重で倒れ込む事で避けられる。
「ウギュヴゥゥゥ」
「づあっ」
今度は高速で起き上がり様に斬りつけられる。
「『ヒール』、テメェはなんなんだよ!」
「アヒャヒャヒャ、パズはパズなんだよ」
「『サイクロン』うらぁ!」
「アヒ、ヒェエェェ」
サイクロンで吹き飛ばし追いかけて両手を開いたパズの胸を袈裟斬りにした。
「くそっ、鳴り止まない」
口をパクパクして死につつあるパズを後ろに音の鳴る方へ走り出す。
“ドォォォォオオォン”
もう近くになっている。
「いやぁぁあ」
「ユピー!」
ユピーの首からぶら下がっているのは魔動具屋で見たあの四角の物体だった。
「はぁ!」
ユピーの首の鎖を断ち切り、抱き抱えて走る。
“ドォォォォオオォン”
「ほかの子供は?」
「わ、分からない」
くそっ!なんとかならないのか?
「コタロー!」
赤い鎧の男が走ってきた。
「レオラン!なんでここに?」
「いまはそれどころじゃないだろ!俺たちは何をすればいい?」
「子供の首にぶら下がっているのが爆弾だ!その鎖を斬ってやれば助かる」
「まかせろ!聞いたか!みんなやるぞ!」
「「オォォォ!!」」
レオランを先頭に皆が散らばって行く。
「ユピー?誰だ?こんなことをした奴は?」
「分からないの」
「そうか……どこかに隠れていてくれ」
ユピーは走って南に向かっていく。
俺が転移した場所は魔動具屋。
「親父さん、あれは何だ?」
「あぁ、あれは魔動爆弾だ」
「何故こんなことを?」
「ワシは作っただけじゃ。こんなことに使われるなんてな」
親父さんの腕には、
「ワシは間違った物を作ってしまった。……すまんな」
「親父さん……」
「早く逃げろ」
俺は走った、一際大きな爆発音がして親父さんは散っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます