第17話 香織の粋な計らい
己自身は妻に帰って来て欲しいと望んでいるか、そう問われれば妻が出て行くとき止める資格なしと思っていた部分と、どうして亭主が頭を下げて引き止めなければならないのか。そんな威信と云うかプライドがあったのかも知れない。今更プライドをかなぐり捨て頭を下げるのか? 自分への葛藤があった。八戸で出会った幸造夫婦をみていて刺激になった。夫婦っていいものだな。と、それから数日後、香織から電話があった。兄の結婚式のことで母を交えて話し合いたいとの事だった。
俺はドキリとした。心の準備が……あの時の心境と似ている。妻へプロポーズをした時のことだ。あの時ばかりヒヤヒヤしたものだ。断られる可能性が六十%と思っていたから本当に嬉しかった。当時、早苗の父は市会議員、おれは普通のサラリーマンと言う引け目があった。それなに一旦自分の妻へ納まってしまえば、釣った魚に餌はいらないとばかりに生きていた俺だ。なんて傲慢で自己中心的な自分だったのだろう。
約束の日が来た。俺はいつになく早く起きた。いつもの通りトーストにサラダと珈琲で朝食を済ませた。その時、娘から電話が入った。
「ああ、お父さん。時間大丈夫? それでね、落ち合う場所が変更になったの。メモして」
なんと変更になった場所は、忘れもしない妻にプロポーズしたレストランだった。
変更されたレストランに着いたのは約束時間の五分前だった。
仕事柄かサラリーマンに取って時間を守る事が何よりも大事なことだった。だから約束の時間に遅れた事は一度もない。そんな習性が今も変わっていない。時間厳守おそらく俺は死ぬまでこの鉄則を貫くだろう。
レストランを見渡したら既に香織と、久し振りに見る妻が席に座っていた。
つづく
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